循環・廃棄物のけんきゅう
2014年7月号

低炭素・省エネ高度排水処理技術の開発

徐 開欽

自動酸素供給装置(AOSD)システムの特徴と意義

生活・産業系に由来する排水を処理する上で、極めて重要な課題は窒素・リンの高度除去はもとより、低炭素社会に貢献する省エネルギー技術の構築にあります。この排水処理において、省エネルギー化を図るためには曝気量を必要に応じて最適に行う必要があります。すなわち従来から、生物反応槽全体的に連続曝気方式では硝化脱窒が両立して機能しないため、嫌気・好気をサイクリックに運転する方式が主流となっています。しかし、これらの方式においても間欠曝気時間の設定は経験に頼ってきた面が大きいのです。

上記の点を踏まえて、資源循環・廃棄物研究センターでは、嫌気・好気時間を微生物の酸素消費速度に応じ自動制御するAOSD (Automatic Oxygen Supply Device) システムによる間欠曝気高度化技術を共同開発しています。

図―1 AOSDシステムの構成と原理 図―1 AOSDシステムの構成と原理

AOSDシステムは、活性汚泥を構成する細菌・原生動物・微小後生動物の微生物群の排水中の有機物酸化、窒素の硝化等で必要とされる酸素量を DO(溶存酸素)センサーにより自動的に制御し、必要酸素量を供給するシステムで、硝化菌・脱窒菌についての温度依存性を考慮しDOの下限設定を0.2から0.5mg/lとし嫌気好気運転をプログラム制御下で行うことを特徴としている新しいシステム技術です。その原理の概要は図―1に示す通りです。

曝気ブロワーは24時間運転が普通ですが、本システムを使用することで、DO・温度を常時CPUに取り込み、硝化速度・脱窒速度等を演算するプログラム関数式を基に適正な曝気と非曝気時間を算出し、水質改善並びに電力を削減することができます。 また、流入有機物負荷の高い時は曝気時間が長く、低い時は曝気時間が短くなります。このように曝気空気量を自動的に制御することにより、生物処理のために適切な、中性条件のpH付近に維持して高度な処理が可能です。また、流入負荷が急増または急減する場合を考えて、設定最低DO値以下の場合は曝気時間の延長、設定最高DO以上の場合は曝気時間の短縮を行うプログラムが組み込まれています。

AOSDシステム導入活性汚泥における生活排水処理特性

AOSDシステム導入の有無における処理特性は曝気槽の活性汚泥濃度(MLSS)3,000 mg/l程度、曝気量1.5L/分の条件において、得られた結果は以下の通りでした。①全曝気では、全窒素(T-N)濃度 4%、全リン(T-P)濃度 10%、化学的酸素要求量(COD) 65% の除去率でした。②30分曝気60分攪拌(嫌気)の処理では、T-N 50%、T-P 10%、COD 65% の除去率でした。③30分曝気90分攪拌(嫌気)の処理では、T-N 60%、T-P 39%、COD 87% の除去率でした。④AOSDシステム導入された系では、T-N 80% 、T-P 40%、COD 90% の除去率でした。なお、これは一定の均一濃度・流量条件であるためで、負荷変動がある条件下ではAOSDはさらに優れた処理性能を発揮すると示唆されます。これらの結果より、AOSDシステムの導入によりT-N 、T-PおよびCODの除去性能は、その他の実験系より明らかに向上することが分かりました。

また、AOSDシステム制御導入の省エネルギー効果について曝気運転時間から解析しました。 AOSDシステム制御の存在しない系の適正処理の得られる曝気時間はおおむね12時間/日です。AOSDプログラムシステム制御を行うことで、高い処理性能を得ると同時に20%~70%の省エネルギーが可能であると試算されました。

AOSDシステム制御導入担体流動曝気法における生活排水処理特性

中国環境科学研究院において、集合住宅の生活排水を対象としてJICA供与の浄化槽性能評価試験室で、約10戸(30人相当)の中型浄化槽の担体流動曝気法にAOSDシステムを導入し性能評価を行いました。流入平均水質は生物化学的酸素要求量(BOD) 300 mg/l 、浮遊物質濃度(SS) 350 mg/l 、CODcr 600 mg/l、T-N 80 mg/l、アンモニア性窒素(NH4-N)濃度 75 mg/l、T-P10 mg/lでした。その結果、特にT-Nの除去特性から評価するとAOSDシステムの導入によりT-N除去能の向上が明らかとなりました。

また、AOSD担体流動曝気システムのブロワー運転パターンは、曝気時間帯で好気槽のDO値は3~4 mg/lに達し、曝気停止時間帯のDO値は0.02~0.5mg/l範囲でした。なお、曝気用メイン送風機電力消費量は一日4.7~10 kW・h,平均値は6.55 kW・hであり、曝気停止時起動攪拌機の電力消費量は2.32~0.87 kW・hでした。通常の24時間曝気を行う場合メイン送風機(0.55 kW)の消費電力は13.2 kW・hでした。すなわち、AOSDシステム導入による自動間欠曝気制御は安定な処理効果を維持した上で、平均50%以上の電力を削減できたことが確認されました。

AOSDシステム技術開発の総括と展望

AOSDシステムにおけるプログラム制御は設定値に対して高い精度で機能し、DO がおおむね0.2~4.5 mg/lの範囲で適正に制御されること、AOSDシステム制御により、T-N、NH4-N、T-P、CODの除去性能は各20%~50%向上することがわかりました。また、曝気時間を20%~70%減少させることが出来、省エネルギー効果が判明しました。水質汚濁・富栄養化対策の必要とされている流域の水質保全および地球温暖化対策によるCO2排出量の削減・省エネルギー・電力料金のコストダウン等に対し、Artificial Intelligence(人工知能)型の呼吸速度知能演算方式を導入したAOSDシステムは高度処理化の重要な技術となることを明らかにしました。我が国では、現在、電力事情が逼迫しているところであり、各分野におけるきめ細かな電力削減を効果的に行える技術が求められていますが、AOSDシステムの導入は排水処理分野における画期的な革新技術として有用性が示唆されました。

イラスト:しげる&たまきこのように、AOSDシステムの導入の有無における嫌気好気時間の自動制御活性汚泥処理法の効果に関する評価において、本AOSDシステム導入は処理の高度化・電力消費量の削減等の効果が実証されました。今後、我が国の事業場・下水処理場・大規模浄化槽、更には、中国等の近隣諸国を初めとする国々の省エネルギー技術導入による低炭素社会創造と連動したコベネフィット型環境保全・再生・修復に貢献すべく展開することがますます重要であるといえます。

<もっと専門的に知りたい人は>
  1. 徐 開欽、稲森悠平、須藤隆一:省エネ・低炭素社会対応型の有機性排水処理技術の高度化と展望、産業と環境、41(5), 73-82, 2012
  2. 陶村 貴、徐 開欽、稲森悠平ら:AOSDシステムを活用した浄化槽の間欠曝気高度化技術の開発、日中環境産業、48(8):46-50、2012
  3. Muhmoud Badiss, Takashi Suemura,, Kaiqin Xu et.al.: Domestic wastewater treatment by ASP using AOSD and fix ON/OFF time in intermittently aerated single reactor, Journal of Bioindustrial Science, 2(1), 25-32, 2013
<関連する調査・研究>
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