循環・廃棄物のけんきゅう
2012年2月号

排水処理における温室効果ガス排出量の削減

佐野 彰

排水処理分野における温室効果ガス排出

し尿、生活排水や工場排水などは河川や湖沼を汚染する原因となるので、浄化槽や下水処理施設などで処理されています。地球温暖化が世界的な環境問題として取り沙汰されている中で、排水処理過程においても、温室効果ガス(GHGs)が排出されています。排水処理分野におけるGHGs排出の内訳は、ばっ気などの電力消費に由来するCO2排出が50%を占め、排水を処理する微生物が生成する亜酸化窒素(N2O)やメタン(CH4の排出が12%を占めています。また、汚泥の焼却や埋立に起因するGHGs排出も36%を占めています。

自然エネルギーの活用

図1 自然エネルギーを活用した排水処理システム 図1 自然エネルギーを活用した排水処理システム

そこで、 排水処理分野におけるGHGs排出削減対策のひとつとして、自然エネルギーを活用した浄化槽に関する研究を進めています(図1)。太陽光や風力発電などの自然エネルギーでは、時間変動や季節変動があり、電力停止によってばっ気が停止してしまう場合が想定されます。このことから、自然エネルギーの導入が浄化槽の処理性能やGHGs排出にどのような影響を及ぼすのかを検証しています。

運転動力の制御

さらに、下水処理施設におけるばっ気などの運転動力を制御することで電力消費を従来の1/2に削減することを目標にした研究も行っています。ただし、電力消費を半減しても、微生物が生成するN2OやCH4、処理過程で発生する汚泥が増えてしまっては総合的なGHGs排出削減に貢献できません。さらに重要なことは、電力消費を半減しても、排水処理性能は維持しなければならないことです。

図2 ミニチュア排水処理実験装置の写真 図2 ミニチュア排水処理実験装置の写真

実験的なアプローチとして、従来どおりばっ気を停止しない標準系、12時間連続してばっ気を停止する長時間停止系、6時間間欠的にばっ気を停止する間欠停止系 の3系の比較を、ミニチュア排水処理実験装置を用いて行いました(図2)。ここで、両停止系ともに、1日当たり12時間運転を停止するので、電力消費は1/2となります。

結果として、微生物が必要とする溶存酸素濃度を適切に管理することで、電力消費を半減しても、排水処理性能を維持できることが分かりました。また、電力停止時間が短い間欠停止条件であれば、標準系よりも、N2O発生量を大幅に抑制できることが把握できました。ばっ気が停止してしまうと、溶存酸素が低下し、それに伴って、亜硝酸イオンが生成されてしまうことがN2O発生要因のひとつと言われています。実際に、短い間欠停止条件では、亜硝酸イオンの生成を抑制できていました。

最後に、これらの実験データを基に、総合的なGHGs排出量の算出を行いました。標準系と比べて、連続停止では、N2O発生量や汚泥に起因するGHGs発生量が大きくなるので、電力消費が半減したにもかかわらず、総合的なGHGs発生量は大きくなってしまいました。一方、間欠停止では、汚泥に起因するGHGs発生量は大きくなってしまいますが、電力消費が半減でき、N2O発生量を大幅に削減できるので、総合すると20%のGHGs排出削減効果が得られました。

<もっと専門的に知りたい人は>
  1. 城野晃志、佐野彰ら(2012)活性汚泥法における電力制御下の処理特性と温室効果ガス削減効果、第46回日本水環境学会年会、3-I-09-4
  2. 小越真佐司ら(2010)下水道分野における温室効果ガス排出、EICA 15(1)、20-23
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