循環・廃棄物の基礎講座
2011年12月号

製品の一生 物質の一生

滝上 英孝

1.製品のライフサイクルと化学物質

わたしたちが日常手にする様々な製品は、材料や部品から構成され、有機物質や無機物質といったいろいろな物質の集合体になっています。こういった製品は、生産・出荷され、実際に使われることで世の中の役に立った後に、廃棄されます。そのうち、必要な部品や材料がリサイクルされ、不要なものは燃やされ、埋め立てられます。このような一連の経過を、生き物の一生になぞらえてライフサイクルと呼びます。

この製品ライフサイクルの中で、製品中の物質は周辺の環境といろいろな場面で接点を持ちます。環境と製品との関わりを考える際に最も重要なことは、製品として使われた物質が、環境中に出て行ってコントロールの利かない状態にならないようにすることです。つまり、資源価値の高い物質についてはうまく回収して再利用し、有害性のあるものについては人や生態系に影響のないように管理することだと考えられます。これを資源性と有害性の管理と呼び、双方を達成することが求められています(2011年8月号「製品の資源性・有害性物質の適正な管理をめざす」を参照)。私たちは、循環型社会研究プログラムの研究プロジェクトの一つ「国際資源循環に対応した製品中資源性物質・有害性物質の適正管理」の枠組みにおいて、特に国内外のライフサイクルに関わる「現場」で得られる資源性と有害性に関する知見を得るため、調査研究を行っています。

2.金属の資源性に着目した研究

写真1 ごみ処理施設に持ち込まれた家電製品(上)とこれを破砕・選別した後の可燃残さ(下)写真1 ごみ処理施設に持ち込まれた家電製品(上)とこれを破砕・選別した後の可燃残さ(下)

製品中で資源性の高い物質としては、鉄や銅といったベースメタルと呼ばれる金属、また、貴金属やレアメタルが挙げられます(2007年2月5日号「コクサイシゲンジュンカン?」、2009年6月8日号「都市鉱山と金属資源のリサイクル」参照)。私たちの研究では、電気・電子製品の金属に着目した資源性や、製品からの金属の回収性の評価を実施しています。電子回路基板等の部材を細かく粉砕して金属類の化学的な抽出(酸などを使って溶かし出すこと)を行った上で、レアメタルを高精度に分析し、含有量の情報を蓄積しています(2011年1月号「電子基板に含まれるレアメタル等を測定するために必要な金属の溶かし方」参照)。一台、一台の製品機器、そしてその中に含まれる無数の部品がある中で代表的なデータを取得することは大変労力のかかる作業になります。また、銀やレアメタル(ニオブやタンタル等)など一部の金属元素は他の元素と同じ方法で試料から抽出できるとは限らず、共存物質を確認しながら個別に抽出方法を検討していかなければなりません。そのようにして求めた金属類のデータを活用して、パソコンやテレビ、ゲーム機やデジタルカメラ等の各種電気・電子製品の二次資源(いわゆる「都市鉱山」)としての特徴を整理しています(2009年1月26日号「都市鉱山」参照)。また、現状では小型や中型の家電製品は法的にリサイクルの対象となっていないため、それらの廃製品からの資源回収が重要視されています。そのため、これらを集めて処理する自治体の粗大ごみ処理施設において、調査を行っています(写真1)。そこでは、金属の施設内でのゆくえ(プロセス挙動)について、破砕や分離といったプロセスで得られる種々の回収物、残渣のどこにどういった金属元素がいくのかということについて調べています。今後、小型や中型の家電製品についてもリサイクルの法制度が検討される見込みであり、私たちの研究成果もレアメタル回収技術検討の基礎資料になるものと思われます。

3.臭素系難燃剤の有害性に着目した研究

製品中の物質の有害性に着目した研究としては、プラスチックや繊維製品に添加される臭素系難燃剤を対象として実施しています。この物質は、火災延焼を防ぐ有用な物質ですが、一方でダイオキシン類やPCBといった塩素や臭素といったハロゲン族元素を有する残留性有機汚染物質のグループに属するものとして注目しており、我々の研究室では10年を超える研究の歴史があります。特にこの臭素系難燃剤の中には、世界的に生産を中止して廃絶に向かっているポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDE)という物質があります(2011年12月号「PBDEがPOPs条約に新規追加」参照)。これまでに私たちは、製品やリサイクル製品についてPBDEの含有量を分析するとともに、PBDEの生産から、PBDEが使用される製品の使用、さらに廃棄、リサイクルに至るライフサイクルの各ステージでの環境排出の調査データを充実させてきました。あわせて、人が受けるPBDEの曝露経路や曝露量についても調査を実施しました。そういった調査や解析の結果、PBDEの環境排出としてはPBDEそのものの製造過程からの寄与が大きいことと、人への曝露は製品使用過程の寄与が高いことを推定しています。家庭やオフィスのテレビやパソコンから排出されたPBDEは、身の回りのハウスダストに移行して継続的に人が摂取してしまう可能性が示唆されています(2006年12月18日「ハウスダスト研究(ほこりの研究)」、2009年4月20日号「家庭製品中の難燃剤の室内環境への影響」参照)。図1はハウスダスト中の臭素の分布を示すデータであり、検出された臭素は実際に難燃剤に由来することが分かっています。

図1 テレビの内部ダストの写真画像(上)と対応する試料中の臭素と鉛の分布を微小部蛍光X線分析によって調べたデータ画像(下)図1 テレビの内部ダストの写真画像(上)と対応する試料中の臭素と鉛の分布を微小部蛍光X線分析によって調べたデータ画像(下)

PBDEに限らず、他の臭素系難燃剤といった有機物質、先に述べた金属も有害性を持つものがあります。製品の有害性を考えるとき、そこに含まれる化学物質を全体的に見渡す必要があります。その中で、人や生態系に影響のある化学物質は何であるか、製品中の化学物質はライフサイクルにわたってどう管理すべきか、ライフサイクルのどのステージを特に管理すべきなのかを意識しながら、研究に取り組んでいます。ここでいう管理とは、廃棄物となった時点で環境を汚染しないように適正に焼却し、埋め立てる、また、リサイクルを行って安全性の高い再生製品をつくるということが挙げられます。また、ライフサイクルの上流のステージ(製品製造)で安全性の高い化学物質を代替使用することで、以降のステージ(使用、廃棄、リサイクル)での環境汚染を低減することもより本質的な管理方策となります。

4.おわりに

しげる

私たちの人生も多くの人や環境とのご縁がありますが、製品の立場に立っても、いろいろな環境に置かれ、製品中の物質はいろいろな境遇をたどります。これからの製品のあり方について考えるとき、そこに含まれる物質の一生を見渡して、それぞれの物質が有する資源性と有害性の両面を意識して環境との折り合いをつけることを念頭に置く必要があるでしょう。

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