循環・廃棄物のけんきゅう
2020年5月号

電気電子機器プリント基板の再資源化のあり方
~金属資源の回収と臭素化ダイオキシン類の適正処理の両立~

鈴木 剛

はじめに

国連大学がとりまとめた報告書によると(文献)、電気電子機器廃棄物は2016年の発生量が4,470万トンと推計され、含有される鉄、銅、アルミニウム、銀、金、パラジウムやプラスチックといった有価物の再商品化物の価値は60兆円以上(!)といわれています。近年では、その資源性の高さから、多くの国で再資源化が取り組まれています。一方で、世界の処理状況をみると、適切に回収されて再資源化されているものは全体の20%に相当する年間890万トン程度、残りの大半が野焼きによる金属回収など不適切に再資源化されているか、あるいは投棄されていると考えられています。資源循環・廃棄物研究センターでは、日本や経済発展の著しい東南アジアにおいて、電気電子機器廃棄物の再資源化の実態を調査し、適切な再資源化に役立つ調査研究に取り組んでいます(E-wasteリサイクルに伴う有害化学物質のゆくえ(2015年1月号))。この記事では、電気電子機器のパーツの中でも資源性が高い"プリント基板"の再資源化に着目した調査研究を紹介します。

プリント基板ってどんなもの?

プリント基板と聞いて、すぐにイメージできる人はそれほど多くないと思います。プリント基板は、スマートフォン、タブレット、パソコン、薄型テレビ、エアコン、冷蔵庫など、身のまわりの電気電子機器に使用され、その心臓部ともいわれる重要な部品のことです(写真)。電気電子機器の外側に出ることはほとんどありませんが、電気電子機器の性能はプリント基板に依存するといわれています。電気を通さないプラスチックなどでできた板状の部品の表面に、集積回路(IC)、抵抗器、コンデンサーなどの電子部品が取り付けられ、電気を通す金属で配線されています。実にさまざまな金属資源を含んでおり、銅、金、銀、プラチナやパラジウムといったものが挙げられます。資源としての価値は、金や銀などの貴金属、プラチナやパラジウムなどのレアメタルを多く含むものほど高くなります。プリント基板は、金を含むICの重さ割合が高い制御基板と銅コイルやコンデンサーの重さ割合が高い電源基板に分類することができます。

  • 制御基板(高品位基板)制御基板(高品位基板)
  • 電源基板(低品位基板)電源基板(低品位基板)
写真 プリント基板の一例

プリント基板と臭素化ダイオキシン類

電気電子機器には、火災リスクを下げるために、難燃剤(減る、替わる、増える難燃剤(2014年2月号))が使用されています。プリント基板については、電子部品を取り付ける板状の部品がエポキシ樹脂やフェノール樹脂などのプラスチックでできており、プラスチックを燃えにくくするために難燃剤が10%前後の濃度で添加されています。費用対効果の高い臭素系難燃剤の中でも、テトラブロモビスフェノールA(TBBPA)やTBBPAエポキシ化体が使用される傾向です。臭素系難燃剤については、合成不純物として有毒な臭素化ダイオキシン類を含むものがあると同時に、熱分解や光分解を通じて臭素化ダイオキシン類を生成することがよく知られています。国内外で臭素化ダイオキシン類のリスク管理が推奨されていることを考慮すると(臭素化ダイオキシン類の適正管理に向けて(2017年6月号))、プリント基板の再資源化における臭素化ダイオキシン類の排出実態は、その持続可能な再資源化のあり方を考えるうえで、把握しておくべき重要な課題といえます。そこで私たちは、収集、運搬、分解・破砕、製錬といった再資源化工程のうち、臭素化ダイオキシン類の環境排出の可能性がもっとも高い製錬工程に着目し、年間11万トン(300トン/日程度)のプリント基板を再資源化している非鉄製錬施設の協力のもと、臭素化ダイオキシン類の挙動と排出実態を調査しました。

プリント基板の処理の流れ

今回調査を行った非鉄製錬施設では、プリント基板からの金属の回収と、そこで生じる排ガスや排水の処理が行われ、有価金属リサイクル施設、銅熔錬施設、硫酸工場、排水処理の4つのパートに分けられます(図1)。有価金属リサイクル施設では、プリント基板、自動車シュレッダーダスト(ASR:使用済み自動車を破砕した後の残渣)、廃家電、汚泥や銅滓(どうさい:銅やその合金を加工する工場等から発生する集じん灰)を混ぜ合わせた原料をキルン溶融炉に投入して1,200℃で焼却溶融し、キルン燃焼ガスを約900℃の二次燃焼室で燃焼処理しています。二次燃焼ガスは、急冷塔で約200℃まで急冷され、消石灰を噴霧されて排ガス中の塩化水素を消石灰に固定し、バグフィルターでばいじん等が除去されています。更に、スクラバーで排ガス中に残っている塩化水素を除去して、最終排ガスを煙突より大気へ排出しています。銅熔錬施設では、銅精鉱(銅製錬に用いられる原料)、プリント基板や珪砂(けいしゃ:石英粒からなる砂)を混ぜ合わせた調合鉱と有価金属リサイクル施設のキルン溶融炉で生じるスラグメタルを銅熔錬炉に投入して、精製炉で精製後、銅アノードを鋳造し、電気銅や金塊、銀塊、プラチナ、パラジウムの生産につなげています。銅熔錬炉や精製炉で生じる排ガスは、硫酸工場に排出され、バグフィルターで粉じんを取り除いて、最終排ガスとして高排気筒より大気に排出しています。硫酸工場では、銅熔錬炉や精製炉で発生する二酸化硫黄ガスからダストを取り除いて、ガスに含まれる硫黄分を硫酸(濃硫酸、発煙硫酸)や石膏(排脱石膏)として回収しています。ダストと硫黄分を取り除いたガスは、最終排ガスとして高排気筒より大気に排出しています。排水処理では、硫酸工場の排ガス中ダストを含む硫酸原水の他、有価金属リサイクル施設のスクラバー排水等について、中和処理と懸濁態をスラッジとして分離するシックナー処理を3回実施して、最終放流水を公共水域に排出しています。

図1 非鉄製錬施設でのプリント基板の処理方法について 図1 非鉄製錬施設でのプリント基板の処理方法について 矢印黒:モノの流れ、水色:排水の流れ、ピンク:排ガスの流れ

臭素化ダイオキシン類の挙動と排出実態

調査にあたった非鉄製錬施設では、プリント基板、有価金属リサイクル施設のスラグメタルと最終排ガス、銅熔錬施設の水砕鍰(からみ:熔融した金属から分離して浮かぶかす)と最終排ガス、硫酸工場の最終排ガス、処理後排水を用いて、臭素化ダイオキシン類の挙動と排出実態を評価しました。処理以前のプリント基板中の臭素化ダイオキシン類の濃度は4.4 ng WHO-TEQ/g(ダイオキシン類の毒性の強さを表す~毒性等価係数~(2012年8月号))でダイオキシン類のばいじん等処理基準(3.0 ng WHO-TEQ/g)や土壌環境基準(1,000 pg WHO-TEQ/g)に相当する値を超える濃度で含まれていることがわかりました。一方で、臭素化ダイオキシン類を高い濃度で含有しているプリント基板を処理したとしても、有価金属リサイクル施設の最終排ガス、銅熔錬施設の最終排ガス、硫酸工場の最終排ガス、処理後排水の臭素化ダイオキシン類濃度は、ダイオキシン類の排ガス基準(新設の廃棄物焼却施設 0.1 ng WHO-TEQ/m3N、既設の廃棄物焼却施設 1 ng WHO-TEQ/m3N)や排水基準(10 pg WHO-TEQ/L)に相当する値と比較して低い値になっていました(図2)。また、熱処理残渣に相当する有価金属リサイクル施設のスラグメタルや銅熔錬施設の水砕鍰についても、0.00061 ng WHO-TEQ/gと0.000010 ng WHO-TEQ/gと非常に低い濃度であることが確認されました。次に、総量ベースでみてみます。プリント基板の臭素化ダイオキシン類の濃度4.4 ng WHO-TEQ/gにプリント基板の処理量300 t/日を乗じると1.3 g WHO-TEQ/日となり、この量の臭素化ダイオキシン類が非鉄製錬施設に投入されていることになります。同じ要領で最終排ガスと処理後排水を通じた臭素化ダイオキシン類の環境排出の総量を算出すると合計で12 μg WHO-TEQ/日程度となります。結果として、非鉄製錬施設では、投入された臭素化ダイオキシン類の量を11万分の1に減らしていました。非鉄製錬施設では、この事業による環境への影響を極力低減するために排ガスや排水を処理しており、臭素化ダイオキシン類もこれらの処理を通じて環境排出が低減していると考えられました。

図2 非鉄製錬施設からの臭素化ダイオキシン類の排出濃度 図2 非鉄製錬施設からの臭素化ダイオキシン類の排出濃度
ダイオキシン類の排出基準
(廃棄物焼却炉 新設施設基準: 1 ng WHO-TEQ/m3N、既設施設基準: 0.1 ng WHO-TEQ/m3N、)

おわりに

私たちの調査結果は、非鉄製錬施設がプリント基板から金属資源を回収すると共に、臭素化ダイオキシン類を適正処理していることを示しています。これは、電気電子機器の膨大な発生量や再資源化のニーズに対し、国内外における電気電子機器プリント基板の再資源化のあり方を示すものであると考えています。快適な生活を支えている様々な製品は、捨ててしまえばただのゴミですが、再生利用可能な有価物を徹底的に回収し、環境上適正に処理すれば有用な循環資源になります。私たちは、循環資源の利用や処理を支える調査研究を継続したいと思います。

<もっと専門的に知りたい人は>
  • 鈴木剛. 平成29年度~令和元年度 環境研究総合推進費 終了研究成果報告書「非意図的に副生成する臭素系ダイオキシン類の包括的なリスク管理とTEF提示(5-1705)」
  • Baldé, C.P., Forti V., Gray, V., Kuehr, R., Stegmann,P. : The Global E-waste Monitor - 2017, United Nations University (UNU), International Telecommunication Union (ITU) & International Solid Waste Association (ISWA), Bonn/Geneva/Vienna.
<関連する調査・研究>
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