ダイオキシン類は、「青酸カリよりも毒性が強く、人工物質としては最も強い毒性を持つ物質である」といわれています。これは、日本人の一般的な食生活や呼吸や手についた土が口に入るなどして取り込まれる量の数十万倍の量を摂取した場合の急性毒性のことです。私たちが日常の生活の中で摂取する量により急性毒性が生じる危険はありません。しかし、体内に取り込まれたダイオキシン類は、まるで「鍵と鍵穴」のように、ダイオキシン類(鍵)がレセプター(鍵穴)と呼ばれる特定のタンパク質と結合し、がんの発生を促進する作用、甲状腺機能の低下、生殖器官の重量や精子形成の減少、免疫機能の低下などの慢性毒性を引き起こすといわれています。今回の豆知識では、そんなダイオキシン類の構造(鍵の形)と慢性毒性の強さとの関係を表した毒性等価係数(TEF: Toxic Equivalency Factor)について紹介します。
ダイオキシン類は、ポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン(PCDDs)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs)、コプラナーポリ塩化ビフェニル(PCBs)という分子構造と物理化学的性質が似た化合物や異性体の総称です。全部で234種類あります。このうち、表1に示してある毒性が強い29種類についてTEFが設定されています。世界保健機構(WHO)は、ダイオキシン類の急性毒性や慢性毒性、生体内や試験管内での生化学反応性について総合的に判断した結果、ダイオキシン類の中で最も毒性が強い2,3,7,8-TeCDD(2と3と7と8の位置に塩素が付いた四塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン)の毒性を「1」として、残りの28物質のTEFを設定しました。例えば、1,2,3,4,7,8-HxCDDの毒性の強さは、2,3,7,8-TeCDDの10分の1なので、そのTEFは「0.1」ということになります。このようにTEFは、個々の異性体の毒性の強さを表しています。
また、個々の異性体のTEFと存在量を乗じて毒性量を算出し、これらを足し合わせると、ダイオキシン類の毒性影響をあらわす毒性等量(TEQ: Toxic Equivalency Quantity)となります。TEQは、ダイオキシン類の汚染状況や毒性影響を判定する際の環境基準に利用され、大気では年平均が0.6 pg-TEQ/m3以下、水質は1 pg-TEQ/L以下、底質は150 pg-TEQ/g以下、土壌は1000 pg-TEQ/g以下と定められています。