循環・廃棄物の豆知識
2014年2月号

減る、替わる、増える難燃剤

鈴木 剛

難燃剤(2006年12月4日号「難燃剤」参照)は、火災の延焼等を防止するために使用されている添加剤のひとつで、主に燃えやすい樹脂を難燃化するために使用されており、テレビやパソコンのケーシング(筐体)、繊維製品など室内で使用する様々な身近な製品に含まれています。これまでの環環の記事でも度々話題になる化学物質です。

難燃剤の中には、防炎性という有用性を示す半面、環境中で残留して生物に蓄積する性質や毒性を示すことがわかり、規制された物質があります。ポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDEs)は、有害物質として良く知られているポリ塩素化ビフェニル(PCBs)に構造が似ているため、これまでに数多くの研究・調査が実施されてきた物質です。臭素原子を4個~7個含むPBDEsについては、2009年5月に残留性有機汚染物質(POPs)条約に追加され、翌年8月から使用・製造が禁止されました(2011年12月号「POPs条約におけるPBDEsの位置付け」参照)。また、ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)についても、建築用のビーズ法発泡ポリスチレン及び押出発泡ポリスチレンに難燃剤として用いるHBCDsの製造及び使用を適用除外としつつ、2012年10月にPOPs条約へ追加され、その製造や使用が禁止されています。今後、PBDEsとHBCDsについては、製造や使用が禁止されたことに伴って上流からの環境排出が減っていく見込みです。一方、これらを含む製品の廃棄やリサイクルはしばらく続くことが予想され、下流での適切な管理や制御に関わる研究や調査が求められます。

規制された難燃剤が代替難燃剤に置き換わっていく中で、その代替物質の使用量は増加していき、環境中への排出が増えていくことが容易に想像できます。代替難燃剤としては、PBDEsやHBCDs以外の臭素系難燃剤、リンや窒素、塩素を含む非臭素系難燃剤、金属水酸化物やアンチモン系などの無機難燃剤など、多種多様な難燃剤が候補として挙げられます。これらは、物質特有の性質に応じて組み合わせや使用される製品が異なってきます。PBDEs等の臭素系難燃剤と三酸化アンチモンの組み合わせは、特に難燃効果が高く、幅広い製品に使用されてきました。イラスト:じゅん今後は、先述の規制等の影響を受けて、この組み合わせなどが変わってくるのでしょう。実際、代替難燃剤と想定されるリン系難燃剤やその他の臭素系難燃剤などが、PBDEsやHBCDsよりも高い濃度で検出される事例が国内外の室内環境モニタリング(ハウスダストや室内空気)の結果として報告されています。これは、製品に使用されている難燃剤の組成を反映しているのかもしれません。

日本では化学物質管理に関する法律「化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)」が施行されており(2009年9月7日号「化審法の改正」参照)、難燃剤を含む化成品の上市前の事前審査や上市後の継続的な管理を行うことで化学物質による環境汚染の防止を試みています。このような状況のもと循環センターでは、多種多様な難燃剤が使用されている製品のライフサイクルに着目して、難燃剤等の化学物質の環境排出実態の把握や制御に資する研究・調査を進めています。

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