廃棄物の焼却灰は、水と接触すると水酸化物イオンを生成して、アルカリ性を示す傾向にあります。また、金属状態のアルミニウム(金属アルミニウム)は、アルカリ性の水と反応すると水素ガスを発生します。そのため、焼却灰に金属アルミニウムが含まれ、水と接触すると水素ガスが発生します。例えば、焼却炉の底部から排出された燃えがらは、飛散防止や冷却のために、直ちに水に浸されます。その時に、水素ガスが発生し、焼却灰の排出口や運搬設備等に溜まり、爆発事故につながる事例が報告されています。水素ガスが溜まらないように換気を行うことで、爆発事故を防止することができます。
焼却灰の中の有害物質の溶出を防止するために行われる「セメント固型化」という処理においても、焼却灰と水とセメントを混ぜることで、水素ガスの発生が考えられます。今回は、水素発生が、焼却灰セメント固型化物にどのような影響を与えるかについて考えてみたいと思います。
「セメント固型化」は不溶化処理の一つで、セメントと廃棄物を混ぜて固める手法です。具体的には、産業廃棄物などのうち、水銀とその化合物の溶出量が基準に適合しない焼却灰(燃えがらおよびばいじん)や汚泥とその処理物と、シアン化合物の溶出量が基準に適合しない汚泥とその処理物に対しては、セメント固型化が義務化されています。セメント固型化した後に溶出基準を満たすものは管理型最終処分場に埋めることができますが、満たせない場合は遮断型最終処分場に埋めなければなりません。また、放射性物質で汚染された廃棄物(特定廃棄物)を管理型最終処分場に埋め立てる場合も、セメント固型化が求められます。遮断型には屋根があり、廃棄物に雨が浸透しないよう構造をしています。管理型では基本的に雨水を表面から排除するようにしますが、遮断型のように完全に雨水浸透を防ぐ構造にはなっていません。そのため、特定廃棄物を埋め立てる場合、廃棄物の周囲に水を通しにくい土壌層を設けることが規定されています。このように、水が浸透するのを防ぐ構造とセメント固型化によって廃棄物と水が接触するのを防ぎ、有害物質が漏れ出るリスクを小さくすることが考えられています。
セメント固型化は、最終処分場から有害物質が漏れ出ないようにするために、最終処分場の埋立構造と合わせた二重防御の側面もあります。有害物質が漏れ出るリスクを長期的に小さくするためには、セメント固型化したものの表面積をできるだけ小さくし、強度を高く保つことが重要であると言えます。そこで、セメント固型化では、混ぜるセメントの量が定められており、固型化物の形状や大きさ、強度が決められています。この点が、焼却灰とセメントを混ぜて造粒や成型する手法(いわゆる、セメント固化)とは異なります。
セメント固型化では、すでに述べたように壊れにくい一定以上の強度が求められます。しかし、金属アルミニウムを含む焼却灰をセメントと混合することによって水素ガスが発生し、固型化物の内部に気泡ができ、ひどい時にはひび割れや破壊につながることが報告されています。その原因は、水素ガスの圧力によるものと考えられます。
セメントと水を混ぜるとセメント水和物が徐々に生成され、ゆっくりと時間をかけて固まってゆきます。また、固型化物の内部には大小さまざまな空隙が存在します。セメント固型化物の強度は、空隙量が多く、空隙径が大きいほど小さくなます。そのため、セメントが固まる前に水素ガスが激しく発生すると、ガス圧によって気泡ができて空隙量が大きくなり、結果として固型化物の強度低下につながる恐れがあります。従って、強度低下に対する影響やその対策を評価するためには、初期のガス発生速度を知ることが重要になります。
セメントが固まった後も水素ガスが長期的に発生し続けると、空隙のガス圧が上昇し、固型化物の強度を超えた時にひび割れや、破壊につながると考えられます。水素ガスは、内部に溜まる一方で、固形物の内部を移動すること(ガス拡散)によって固型化物の外に放出されます。従って、内部のガス圧が固型化物の強度を超えるかを判断するには、ガス発生量と放出量を知ることが必要です。
焼却炉の形式(ストーカ炉、流動床炉)が異なる施設から排出された5種のばいじんと1種の燃えがらから発生する水素ガス量を図1に示します。ばいじんの結果を見ると、アルミニウム含有量が大きいほど、水素ガスの発生量は多い傾向にありますが、燃えがらからの水素ガス発生量は、アルミニウム含有量が同程度のばいじんに比べて少ない結果となりました。図中の含有量は、酸に溶けたアルミニウムの量を示していて、金属アルミニウムと、酸化物などのアルミニウム化合物を合計した値と言えます。今回調査した燃えがらには、金属アルミニウムではなく化合物が多く存在したため、ばいじんと比べ水素ガス発生量が少なかったと考えられます。ばいじん中に含有されるアルミニウムもすべてが金属で存在するというわけではありませんが、含有量が水素ガス発生量の指標となると言えます。アルミニウム含有量が高いばいじんについてはセメント固型化物が破壊に至るかどうか検討が必要です。
図2にばいじんからの水素ガスの発生速度の時間変化を示します。水素ガスは、図1に示した量が一瞬で生じるわけではなく、時間経過に対して発生速度は変化することがわかります。水酸化物イオン濃度が3 mol/Lと非常に高いと、短時間で発生速度は最大になりますが、水酸化物イオン濃度が0.3 mol/L以下では、1日経過しても発生速度は大きく変わりません。セメント固型化物内のpHは12~13(水酸化物イオン濃度が0.03 mol/L程度)ですので、水素ガスは時間をかけてだらだらと発生していくと予測されます。従って、初期の気泡発生に加えて、長期的なガス圧の上昇による固型化物の破壊についても考慮し、固型化物の強度を検討する必要があると言えます。
燃やすごみの質や焼却炉の形式によって焼却灰の質(含まれる元素や化合物の形態)が変わるため、水素ガスの発生速度や発生量が異なると考えられます。どういった焼却灰(pH、アルミニウム含有量など)からの水素ガス発生がセメント固型化において問題となり得るのかを明らかにし、より安全安心な埋立処分のための基準や処理法を提案するために研究に取り組んでいます。
<もっと専門的に知りたい人は>
- Sato M.、 Yamada M. : Hydrogen generation from municipal solid waste incineration fly ash and cement solidification fly ash The 17th Korea-Japan International Symposium、 90-92、 2013.
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