2011年の3月に起きた震災に起因する福島第一原子力発電所の事故によって、セシウム137などの放射性物質が環境中に放出され、福島だけでなく東日本一帯に広まりました。大気中の放射性物質は、草木に付着したり、雨で流されたりした結果、剪定枝・落ち葉や下水道の汚泥、それらを焼却炉で燃やした時の燃え残り(焼却灰)等の廃棄物などからも検出されています。通常、環境を汚染するような廃棄物(ただし、有害性の高いものを除く:2012年12月号豆知識「遮断型最終処分場」参照)は、一般廃棄物最終処分場または管理型最終処分場(以下、処分場)で地中に埋めて処分されます。これらの処分場は、汚染物質を環境中に出さない構造(遮水工や浸出水集排水設備など)を持っています。従って、廃棄物中の放射性物質が再び環境を汚染しないようにするために、埋立処分が有効であると言えます。
放射性物質を含む廃棄物を埋立処分するには、どのようなことに注意する必要があるでしょうか。二つの注意すべき点があります。
放射性物質からは人体に害を及ぼす放射線が出ています。そのため、処分場の作業員や周辺住民の放射線を受ける量(放射線被ばく量)を小さくすることが最重要になります。廃棄物からどれくらいの放射線が出るかは、放射能濃度(Bq/kg)で判断することができます。そこで埋立をする作業員の被ばく量を低減するため、埋立処分できる廃棄物の放射能濃度は8,000Bq/kg以下という基準が定められています。なお、Bqはベクレルと読み、1秒間に崩壊する(つまり、放射線を出す)原子の数となります。
埋立処分で注意するべきもう一つは、放射性物質による環境の汚染を防ぐことです。地下水汚染を防ぐために、処分場には汚染物質を含んだ水(浸出水)を閉じ込めて集める構造と浸出水処理施設があります。しかし、放射性物質である放射性セシウムの塩(塩化セシウム等)は水に溶けやすく、一般的な水処理では除去できません。特に焼却灰(飛灰)中の放射性セシウムは塩化セシウムとして存在しており、含有量のおよそ70%が水に溶け出るとの報告1)があります。ですから、溶出してきたセシウムを捕捉するために、セシウムを吸着する土壌を廃棄物の下に設置することが義務付けられています。実際にこの方法を用いて、8,000Bq/kg以下の廃棄物(特定一般廃棄物または特定産業廃棄物と呼ばれる:2013年1月号豆知識「事故由来放射性物質に汚染された廃棄物の種類」参照)は処分場で埋立処分されています。
ところが、放射性物質で汚染された廃棄物を焼却することで、8,000Bq/kg以上の焼却灰が発生しました。放射能濃度が高いということは、放射線量が高く、放射性物質の溶出濃度が高くなる可能性があります。そのため、放射線を遮ること、廃棄物を埋める場所への水の侵入と外部への漏えいを防ぐこと、放射性物質の溶出を抑えることが必要になります。とに関しては、2012年12月号けんきゅう「放射性物質に汚染された廃棄物のコンクリート容器への保管」で取り上げた通り、コンクリート容器に入れる方法があります。そこで今回はに関して、焼却灰とセメントを混ぜることで固める方法をご紹介します。
セメントで固める方法では、セメントと水が反応し、セメント水和物が生成されます。この水和物が、セメントの硬化を進めます。セメント粒子と焼却灰粒子の隙間がセメント水和物で埋まって塊になると考えると、硬化を理解しやすいのではないでしょうか。
セメントで固めることが、どのように汚染物質の溶出抑制に働くかを考えてみましょう。
まず、汚染物質がセメント水和物の中に取り込まれる固定化があります。そして、セメント中の強塩基と反応し、水に溶けにくい水酸化物として沈殿することが考えられています。これらの溶出抑制については、重金属に関した研究が行われています。例えば、カドミウムは強塩基と反応してCd(OH)2となって沈殿しますし、セメント水和物であるエトリンガイトやモノサルフェートの結晶構造の中にクロム(CrO42-)などの重金属が固定されると言われています。放射性セシウムや他の放射性物質に対して、固定化が起こるかどうかは現在、研究中です。
最後に、焼却灰粒子の周りをセメントやセメント水和物が覆うことで、汚染物質と水との接触を低減することです。結果として、溶出する速さが遅くなると期待できます。ここで低減するとしたのは、セメントで固めたものの中に、微細な空隙(孔径はnm~μmオーダー)が存在し、毛細管現象によってのみ水が浸透するからです。仮に固型化物に常に水が接触しているとすると、空隙内に放射性セシウムが溶出し、拡散(濃度差による物質の移動現象)によって固型化物から溶出する可能性は考えられますが、その速さにはセメント固型化物の緻密さが関係します。そのため、放射性セシウムを含むセメント固型化物からどれくらいの速さでセシウムが溶出するのかを明らかにする研究に取り組んでいます(2012年12月号けんきゅう「放射性物質に汚染された廃棄物のコンクリート容器への保管」参照)。