特別企画
2020年3月号

令和の時代の廃棄物管理と資源循環(6)(最終回):人口減少等がもたらすもの

田崎 智宏

最終回の今回は、人口減少・高齢化などの国内変化に着目して、令和の時代の廃棄物管理と資源循環を展望します。これまでの回では、モノ、方法、役割の3つの要素に着目してきましたので、それらの変化を強調しながら説明します。

人口オーナス

まず、「人口オーナス」と呼ばれる現象について説明したいと思います。「オーナス?」「何それ?」と思う方もいるでしょう。他方、「人口減少」という言葉は皆さん知っていますよね。これらの用語は同じようなことを表現しているのですが、実は、人口減少で引き起こされる様々な問題をより正確に表しているのは「人口オーナス」という表現です。人口減少という表現では「人口が減る」という以上のことが表現できていません。しかも、人口が減るといっても、15歳未満の若年人口と15~64歳の生産年齢人口は減りますが、65歳以上の老齢人口は当面増加します。また、生産年齢人口が減少することで税収が減少し、特に地方財政が厳しい地域がでてきます。人口減少で心配されていることは、このような複合現象に由来する問題であり、単に人口が減るというだけ問題ではないのです。そこで、「重荷」という意味をもつ「オーナス」という言葉を、人口が増えていくときに得られる様々な恩恵を総称する用語である「人口ボーナス」と対比的に使うのです。

人口オーナス時代の廃棄物管理

それでは、人口オーナスは、廃棄物管理にどのような問題を引き起こすでしょうか。私が想定する6つの主要現象を一つずつ説明します。
(1)総人口の減少は、廃棄物量の減少というモノの変化をもたらします。その結果、現在のリサイクル・処理施設の処理能力に余りができ、規模の経済による便益を得ることができなくなり、リサイクル・処理が非効率化します。つまり、廃棄物1トンあたりの処理費用やリサイクル費用が高くなっていきます。さらに、施設が余ると、施設どうしでモノ(廃棄物等)の奪いあいが起こりやすくなります。したがって、施設の設計段階における施設の大きさの設定がシビアになり、とても大切になります。余裕をもって施設を作ってしまうと、廃棄物量は減少しつづけるので、処理を行う自治体や事業者の金銭的な痛みは増すばかりです。

他方、人口減少に合わせて施設を小規模していくと、廃棄物処理が非効率性となってしまいます。そこで、これを防ぐ必要があります。施設を統合することが有効策の一つですが、施設の近隣住民の反対にあったり、施設統合した施設を複数の自治体などできちんと運用できるかの課題が問題になったりしますので、施設統合は戦略的に取り組まなければならなくなります。これまでは焼却施設の統合ばかりが着目されていましたが、粗大ごみ破砕処理施設や資源化施設についても、複数の自治体が運用していくことを検討することが求められます。そのためにも、第3回で述べたように「後追い型」からの廃棄物管理から脱却し、「先取り型」に転換していく必要があります。将来、どの地域で施設集約の検討が求められるかについては、私どもの調査研究成果[1]をご覧ください。
(2)人口密度の低下は、廃棄物等の収集効率を低下させます。同じ量のモノを集めるのに、より長い距離を移動しなければなりません。また、一つのごみステーションを管理する自治会の担い手が減少します。結果として、一人一人の作業負担が増えていきます。そのため、ごみステーションの管理を自治会が担うのではなく、事業者などに任せるといったことも起こります。これまで廃棄物の収集を担ってきた方々などの役割の変化が起こりえます。
(3)高齢者の増加は、おむつや介護ごみ等の高齢者のごみを増やします。このモノの変化に適応して、廃棄物処理の方法を調整していかなければなりません。また、ごみ出しが難しくなる高齢の方が増えますので、その支援が求められるようになります[2]。家を一軒一軒まわって収集する戸別収集や地域と協力した収集などの方法が試みられているところです[3]。ごみ収集の担当者は、トラブルを引き起こさないように家のなかには立ち入らないことを基本としてきましたが、福祉関係者との連携を図るなどして、家の中からごみを出すことについても役割変更が起こるかもしれません。さらに、高齢者でもごみを分別しやすいように、異なる素材を分けやすい商品開発もされていくでしょう。
(4)生産年齢人口の減少は、廃棄物処理を担う人々の確保をさらに難しくさせます。リサイクル・廃棄物処理業の後継者を探すことも難しくなります。中小の事業者が合併・吸収される現象はすでに起きていますが、その傾向は続くと思われます。
(5)地域の財政が厳しくなるため、自治体による一般廃棄物の処理事業を同じ形で続けることを難しくなります。資源価値が上昇しなければ、コストをかけて行っていたリサイクルに係る取組が停滞するおそれがあります。
(6)最後に、地域産業が衰退していくので、廃棄物処理を委託等で行ってきた廃棄物事業者や、ペットボトルやアルミ缶、白色トレーなどの店頭回収(リサイクル)を担っていた店舗がなくなってしまうおそれがあります。

ところで、これらの影響は、全国一律に起こるわけではありません[4]。地域差が大きいので、同様の人口動態が起こる地域どうしでの活発な情報交換が大切になります。国が個別自治体の先端的な現象を把握して対策を講じていくことには限界があるので、国が推進する取組を受け身で実施するような姿勢では、取組が遅れてしまうと考えた方がよいでしょう。

さらに、このような国内の変化とともに、グローバルな変化が同時進行します。(1)については、外国から大規模な廃棄物処理事業者が本格的に参入してくるかもしれませんし、(3)については、外国人の雇用により人材を確保できるかもしれません。他方、第2章で述べたSDGsが目指す社会は、外国人労働者が搾取されるようなことを一切許しません。静脈産業はなかなか社会からのスポットライトが当たらないので問題が表面化しにくいのですが、問題のしわ寄せが特定の弱い立場の方々に集中したり、不適正処理や不法投棄が増えたりしないように十分に注意する必要があります。

終わりに

令和の時代においては、日本の廃棄物管理と資源循環がさらに変容することが予見されました。第2回でも述べたとおり、どのようになっていくかは、これからの私達次第であります。

全6回にわたる連載記事をお読みいただきありがとうございました。本連載記事が令和の時代に的確に向き合う視点を少しでも提供できれば幸いです。

<もっと専門的に知りたい人は>
人口オーナス時代の廃棄物管理全般については、
田崎智宏、稲葉陸太、河井紘輔(2018)人口オーナス時代の廃棄物管理~人・ごみ・施設・財政の観点から. 環境技術, 47 (4), pp. 181-186.
<関連する調査・研究>
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