特別企画
2020年2月号

令和の時代の廃棄物管理と資源循環(5):方法と役割の変化がもたらすもの

田崎 智宏

前々回前回は、モノ、方法、役割という3つの要素のうち、モノに着目して令和の時代の廃棄物管理と資源循環を展望しました。すでに軽く述べた部分もありますが、今回は、方法と役割に着目して、令和の時代の廃棄物管理と資源循環を展望します。

方法の変化

まず、方法についてですが、選択肢が増えていることを指摘できます。廃棄物となった後のリサイクルや廃棄物処理の方法も、また、廃棄物となる前のリデュースやリユースの方法もです。前者については、昔は単純焼却や手選別による資源回収、生ごみの堆肥化などが主流でしたが、現在は、エネルギー回収を行う焼却や光学センサーを使った高度な分別リサイクル、生ごみのメタン発酵、動脈産業での利用(例、鉄鋼業やセメント産業での原料としての利用)など、様々な方法が開発されてきています。後者については、前回、脱物質化やサービス化、シェアリングの話をしました。他には、リユースについても、アプリなどを使ったネット型のリユース(例えば、メルカリ)などの選択肢が増えています。

選ぶことが大切になる時代

選択肢が多いということは良いことですが、実は、選択が難しくなるという問題をはらんでいます。全てにおいて圧倒的に優れた方法があれば、その方法を選べばよいですが、なかなかそういうことはなく、一長一短となります。また、前回述べたように、リサイクル・資源循環は、産み出される価値に着目がされるようになっています。経済価値や社会的な価値、何をどれだけ高く評価するのかという悩みが大きくなることでしょう。

そうすると、方法の選択を手助けすることが必要となってきます。一般廃棄物についていえば、市町村への技術的サポートは重要性を増すでしょう。また、次の「役割」の議論にも関係しますが、誰が方法を決めるか、どのように決めるかも重要となります。方法の選択が難しい場合には、単純焼却のような大量処理型の「飲み込む技術」が選択されることも出てきてしまうでしょう。私が懸念するのは、そういった技術が間違って大規模に導入されてしまうと、リサイクルを進める余地がなくなってしまうことです。リサイクル方法の選択だけでなく、リサイクルできないものの受け皿となる技術の導入規模をどれくらいにするかという判断が非常に重要となる時代が来ています。

リサイクルの次なる指標

また、これまでのリサイクル率という指標では量しか表現できておらず、価値を測ることができていません。しかも、公表されているリサイクル率には、「発生したごみ量のうち、最終的にリサイクルされて製品となった量を表すリサイクル率」と「発生したごみ量のうち、リサイクル施設に持ち込まれた量のリサイクル率」が混在するので注意が必要です。リサイクル工程では不純物が取り除かれたりするため、リサイクル施設に持ち込まれた全量がリサイクルできているわけではありません(私はリサイクル施設に持ち込まれた量を「仕向け量」と呼び、区別しています)。また、「製品を作るときに用いる原材料のうち、リサイクル材を用いた割合」という資源利用側に着目する指標も大切です。加えて、これまでの3R(リデュース、リユース、リサイクル)の取組は飽和しつつあります(循環基本計画の進捗点検結果を見ると、3つの物質フロー指標の改善具合が小さくなってきています)。そのような飽和に近い状況では、新たな取組を進めようとすると他の取組が対象としていた廃棄物を取り合うことになったり、将来の目標値を直線で延長して設定することが不適切になったりします。私たちは、このような状況下でも取組の方向性を的確に指し示すリサイクルの指標を見つけていかなければなりません。

役割の変化~多様な主体の参画と主役の自由化

次に役割の変化についてですが、第1回で述べたように、廃棄物となるモノに関わった製造業者や小売業者、その他の関係者の廃棄物に対する責任がより求められていく動向があります。したがって、生産者が拡大生産者責任に基づいて社会的な責任を果たし、SDGsに貢献していくことが引き続き重要です。このようなことは、第3回で述べたモノの多様化によって適正処理やリサイクルが難しくなっているものほど、重要となります。廃棄物が大量に発生して処理に困るまで何もしないのではなく、早め早めに体制を整え、必要な資金調達などをしておく「先取り型」の廃棄物管理が実現されていくことが期待されます。他方、市場においては大きな小売業者(ネット業者も含む)の影響力が強まっています。これらの方々の役割についてもきちんと議論がされなければなりません。

市町村の役割も変化していくことでしょう。実際、市町村自身が一般廃棄物の処理を直接行う割合は低下しており、民間に委託するケースが増えています。複数の自治体が協力して(一部事務組合という組織を作って)廃棄物処理を行うことも、人口が少ない地域では普通になってきています。また、市町村がかかわらないでリサイクルされる量も増えてきています。例えば、古紙については自治体以外のルートでのリサイクル量が多くなっており、自治体などが発表するリサイクル率を一見するとリサイクルの後退が起きているように勘違いしてしまう状況です。第2回で述べた「循環経済」の考えに基づく取組が広まると、行政ではなく民間事業者がやることがもっと増えていくことでしょう。全体を俯瞰する監督・コーチとしての役割と、プレイヤーとしての役割を区別し、前者については官が担うとしても、後者については官と民の間でどちらが効果的・効率的に事業を行えるかを再考していくなかで、官民の役割が再構築されていくことでしょう。なお、民間委託や民営化については、これまでの公営(直営ともいう。)よりも費用面でも環境面でも効率的・効果的であることが期待できる一方、長期的な価格上昇や災害時などへの柔軟な対応などに懸念もあります。実際、欧州では民営化していた水道事業が公営化に逆戻りした都市が出現しています。しかしながら、民営化か公営化かという二分法による議論には注意が必要と私は考えています。どちらも完璧ではないからです。それよりも、どういう民営化であれば、あるいはどういう公営化であれば、期待された効果を得ることができ、想定されるマイナス点を抑えることができるのかということを、丁寧に議論していかなければなりません。複数の異なる主体が協力体制(コンソーシアムなど)を組んで実行するという選択肢もあります。現在、「循環経済」の国際規格がISOで議論されているとのことですが、製品や素材の規格や環境マネジメントの規格はすでに存在しますので、おそらく、複数の主体によるプロジェクトベースでの規格、すなわちコンソーシアムなどを認証するような規格になるのではないかと私は考えています。令和の時代の廃棄物管理と資源循環を担う主役がもっと自由な発想で提案され、活躍していく時代になっていくと思われます。

次回予告

さて、いよいよ次回は最終回です。第5回までに議論したことは、日本社会が人口減少社会を迎えているという状況下で起こっていくことです。この大きな変化がもたらす影響を最後に展望してみたいと思います。

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