循環・廃棄物の基礎講座
2015年6月号

溶出試験の役割と今後の展開

肴倉 宏史

はじめに

ごみを燃やした後の灰(廃棄物焼却灰)を最終処分場へ受け入れて良いか、溶融スラグなどの循環資材を道路材料や建設資材としてリサイクルして良いか、土壌が周辺環境を汚染していないか、などを判断する際に、溶出試験が使われます。つまり溶出試験とは、焼却灰、スラグ、土壌などから、どのような有害物質がどの程度溶け出してくるのかを調べるために行う試験です。日本では表-1に示すように、廃棄物焼却灰、溶融スラグなどの循環資材、土壌といった分野ごとに、法令や日本工業規格(JIS)に溶出試験が定められています。これらは公の機関が定めた試験なので、公定溶出試験と呼ぶことがあります。単に「溶出試験」と言う場合、その分野の公定溶出試験を指す場合が多いでしょう。

表-1 公定溶出試験

公定溶出試験以外にも色々な溶出試験が研究論文や学会で提案されています。海外でもJISの様に、ISO(国際標準規格)、EN(欧州統一規格)、DIN(ドイツ工業規格)などで溶出試験が定められています。このように、試験方法を規格として定めることを「標準化」や「規格化」などといいます。試験が標準化されれば、その方法を参照することによって、日本中、世界中の人達が同じ方法で試験することにより、様々なところで、色々なモノを公平に評価できことになるのです。

公定溶出試験については、2007年4月16日号「溶出試験」や、最近では2013年4月号「産業廃棄物の検定方法の改正」にて、豆知識としてご紹介してきました。本稿ではこれまでの記事の内容を掘り下げて、溶出試験に求められる条件や、最近の国際標準化の動きについて紹介したいと思います。

公定溶出試験に求められること

公定溶出試験には、次のような事項を満たす必要があると考えられます。

  • (1) 示された手順にしたがえば同じような結果が得られること
  • (2) いたずらに難しい方法ではないこと
  • (3) 将来の環境汚染の可能性をできるだけ正しく評価できること

試験方法として(1)は当然ですが、ここで私はわざと、「同じような」と書きました。試験は、その程度は異なりますが、ある範囲の誤差を許容しなければならないからです。溶出試験の手順は、①試料を調製する(乾燥や破砕をして、試料の乾燥の程度や大きさを整える)、②有害物質を溶かし出すための水を用意する、③ ①と②を混ぜる(撹拌や振とう)、④遠心分離やろ過によって固形分と溶出液とを分離する、⑤溶出液に溶け出た有害物質の濃度を測る、のようになります(図-1)。これらを眺めると、たくさんの項目が誤差に影響しそうなことがわかります。

では、試験方法をひたすら厳密にすれば良いのかというと、そうとも限らないのが難しいところです。厳密な方法にすればするほど、その試験は非常に面倒で時間やお金がかかるでしょうし、間違えたら何度もやり直さなければなりません。したがって、試験結果にあまり大きな影響を及ぼさない項目については、逆に、緩やかな条件の方が良いのです。つまり、試験を行う側からすれば、(2)はとても重要なことなのです。

最後に、(3)についてはどうでしょうか。溶出試験は、実際の環境の中で長い時間がかかって起こる事象を、室内で、でなるべく短い時間で評価したいのです。最も重要で、最も難しいところです。例えば土の溶出試験では、振とうや撹拌中に土粒子同士がぶつかったり容器にあたったりして土粒子がすり減ることが原因で、測定結果が高い値となる場合のあることがわかってきました。しかし、このように土粒子がすり減る現象は実際の環境の中で生じることはほとんどありません。したがって、環境汚染を引き起こさないはずの土にも莫大な処理コストを投じてしまう可能性が出てくるのです。最新の研究成果を参考にしながら、あまりに偏った条件については、適宜、修正していく必要があると考えます。

図-1 公定溶出試験の流れ

溶出試験の国際標準化

私たち資源循環・廃棄物研究センターでは、溶出試験を含めた土の化学試験に関する国際標準化活動の一環として、ISOに参加しています。特に現在は、ISO/TS 21268-3上向流カラム通水試験(土を詰めた筒に水を流す試験)がまだ正式なISO規格ではないため、これを正式規格にするために試験条件の精査や精度評価を進めるプロジェクトが、日本がリーダーとなって開始されました。以下では、この取り組みの私たちの狙いを説明します。

まず、私たちは、先に述べた 「将来の環境汚染の可能性」をより正しく評価するためには、今現在ある公定法を補うものとして、カラム通水試験が必要だと考えました。現在、公定法として定められた溶出試験はいずれも、1回の溶出操作で1つのデータを得る「単一バッチ試験」と呼ばれる方法しかありません。一方、カラム通水試験では、試料を詰めた筒に水を流すことにより、汚染物質が溶け出す濃度が時間や通水量によってどのように増減するのかを捉えることが可能となります。もちろん、実際の条件を再現できているとまでは言えませんが、前の節で述べた単一バッチ試験よりも、実際の状況に近い答えが得られると考えています。

そこでカラム通水試験を色々な方に使ってもらうために、JISが制定できればとても効果的であると考えました。ただし日本のJISは、国際標準であるISOに同様の基準がすでに存在する場合は、その基準と同様の方法を制定する約束が交わされています。私たちはカラム通水試験の必要性を唱える以前から土の化学試験に関するISO活動に参加していたので、ISOにカラム通水試験TS 21268-3があることを知っていました。ただし、TS 21268-3は技術仕様(Technical Specification)といい、前述のとおり、正式なISOの手前の段階で2007年に公表されていたものでした。

イラストそこで私たちは、将来、JISにカラム通水試験を制定することを目標として、TS 21268-3を正式なISO規格とするためのプロジェクトをISOの土の化学試験に関する技術委員会に提案したところ、2014年10月、その提案が認められました。プロジェクトの期間は3年間です。それまでに、試験方法の見直しや精度評価などでたくさんの方々に理解と協力を得ながら、着実に成果を積み重ねて行かなければなりません。道のりは平坦ではないかも知れませんが、近い将来にカラム通水試験のISO化、JIS化が達成できるよう、努力していきたいと思います。

<もっと専門的に知りたい人は>
  • 肴倉宏史 (2014) 溶出試験の現状と課題‐公定法と国際標準化の動向‐. 廃棄物資源循環学会誌, 25 (5), 361-368
  • 平田桂, 加洲教雄, 川村功一, 國松渉, 肴倉宏史, 土壌・地下水汚染に係る分析業務検討部会 (2014) 土壌溶出量試験の検液作成に係る基礎的検討. 第20回地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会, 148-152
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