人の命に限りがあるように、みなさんが生活の中で使っている家電製品や自動車、住んでいる家や通っている学校、会社の建物など、モノもいつか寿命を迎えてごみとなります。モノの寿命、すなわち社会にモノがどのくらいの間とどまっているかは、ごみとして出てくるモノの量や社会に存在するモノの量を見積もる上で欠かせない情報です。そこで、わたしたちの研究センターではモノの寿命を知るための研究を行っています。
人の寿命といえば生まれてから亡くなるまでの期間を指しますが、モノの場合は一口に寿命といってもいろいろな期間を考えることができます。図1は家電製品や乗用車など耐久消費財と呼ばれるモノを例として、寿命とそれにまつわる様々な期間を整理したものです。
例えば、製品が作られてからリサイクルやごみとして処理されるまでの「製品寿命」や工場を出荷されてからごみに出されるまでの「国内サービス期間」があります。この2つは、製造から出荷までの「出荷準備期間」やごみの「収集期間」を含むかどうかで異なりますが、それらの期間がそれほど長くない場合(家電製品などはこれに当てはまります)、「製品寿命」と「国内サービス期間」はほぼ同じと考えてよいでしょう。
このほかに、みなさんが製品を買ってからごみに出すまでの「保有期間」があります。みなさんはこの「保有期間」をモノの寿命としてイメージすることが多いかもしれません。しかし、中古品としてリユースされることがあると、新品と中古品の両方に「保有期間」があることになりますから、モノの寿命と捉える上ではこの点に注意が必要です。また、「保有期間」は実際にモノが使われている「使用期間」と使わないのにごみとして出さずに押し入れなどにしまい込んでいる「退蔵期間」にわけることができます。特に携帯電話などの小型製品は長期間退蔵されるものも多いといわれており(「使用済み小型家電と退蔵」参照 )、「保有期間」と「使用期間」は明確に区別することが重要です。
寿命のデータを使ってごみになるモノの量を推計するとき、寿命がどの期間を指しているのかによって推計値の持つ意味が異なってきます。例えば、「製品寿命」を使うとリサイクルや処理の対象となるモノの量、「国内サービス期間」を使うとごみとして排出されるモノの量を推計できます。「保有期間」を使っても消費者から排出されるモノの量が推計できますが、データが新品の「保有期間」であった場合は中古品リユースされるモノ(ごみとはならないモノ)も含んだ量が推計されます。また、「使用期間」を使うと、退蔵されるモノ(すぐにはごみとして出てこないモノ)も含んだ量が推計されます。このように、推計値の持つ意味が異なりますから、推計の目的に応じてどの寿命のデータを使うかを適切に選ぶ必要があります。
また、いわゆる寿命に相当する期間ではありませんが、モノが作られてから使用中のある時点までの「製品年齢」という期間もあります。「製品年齢」は人でいう年齢に相当しますから、寿命と混同しないように注意が必要です。
モノの寿命は、古くから品質管理などのために、モノを実際に壊れるまで動かしたりして調べることが行われています(寿命試験や信頼性試験といいます)。しかし、現実には壊れていないのに(まだ使えるのに)捨てられたり解体されたりするモノもたくさんあります。特に家電製品などはみなさんにも経験があるかもしれません。このため、現実社会でのモノの寿命は寿命試験で調べた寿命と同じにならないことも多いでしょう。
では、現実社会における実際のモノの寿命はどうやって調べることができるでしょうか。
1つの方法として、ごみとなったモノがどのくらいの間使われたかを調べる方法があります。具体的には、家電製品であればリサイクル工場や清掃工場に集められた製品の製造年を調べるとか、アンケート調査などで家電製品を捨てた人にその製品を何年使ったか聞く、といった具合です。これとは別の方法として、いつ作られたモノが今どのくらい残っているかを調べる方法もあります。この方法では、消費者へのアンケート調査などを行って、現在使われているモノがいつ作られたかを調べます。このデータに基づいて、過去に作られたモノのうち現在まで捨てられたり解体されたりせずに残っているモノの割合(残存率)を計算することで平均寿命を知ることができます。
モノの寿命は、研究の目的だけでなく景気動向の判断のための基礎情報などとしても調査、報告されています。代表的なものとして、検査登録制度(車検)のデータに基づいて計算されている自動車のデータ(新車・中古車の「保有期間」の合計)や内閣府「消費動向調査」による家電製品のデータ(新品の「使用期間」)などを挙げることができます。
しかし、モノの寿命のデータは様々な文献でバラバラに報告されているのに加え、上で説明した寿命の種類や調査方法もバラバラです。そこでわたしたちは、研究論文や国の調査、業界団体の報告書など様々な文献でバラバラに報告されていた情報を集めてLiVES(寿命を意味する英語"life"の複数形)というデータベースにまとめ、情報を広く活用してもらうためにホームページで公開しています。
このデータベースに収録された過去の報告データから、モノの寿命がどのくらいなのかを少し見てみましょう。図2は、主な日本における家電製品や電子機器の平均寿命の例として、「製品寿命」または「国内サービス期間」のデータのみを抜き出してまとめたものです。いくつもある報告値の中央値(大きさ順に並べたときにちょうど真ん中にくる値)がそれぞれの製品の平均寿命を代表する値と考えて見てみると、乗用車は10年弱、家電製品は10~13年となっており、パソコンは7年強と他の製品よりも短めになっています。もしこれよりも長くモノを使っているようなら、みなさんは平均よりもモノを大事にして長く使っているといえるかもしれません。
なお、わたしたちが調べた範囲では、外国ではモノの寿命を調べた例が日本と比べてあまり多くありませんでした。モノの寿命を知るには前に説明したような細かな調査が必要なため、特にアジアなどの開発途上国ではほとんど調べられていないようです。そこでわたしたちは、海外のいろいろな国におけるモノの寿命を明らかにするとともに、より簡単にモノの寿命を調べるための方法を探して今も研究を続けています。
<もっと専門的に知りたい人は>
- S. Murakami、 M. Oguchi et al.: Lifespan of commodities、 Part.I The creation of a database and its review、 Journal of Industrial Ecology、 14(4)、 598-612 (2010)
- M. Oguchi et al.: Lifespan of commodities、 Part.II Methodologies for estimating lifespan distribution of commodities、 Journal of Industrial Ecology、 14(4)、 613-626 (2010)
<関連する調査・研究>