循環・廃棄物のけんきゅう
2022年12月号

放射性物質に汚染された土壌と廃棄物の減容化

有馬 謙一

はじめに

2020年11月号の豆知識「環境中の放射性物質について」1)で説明しましたように、福島第一原発事故で放出された放射性物質のうち、現在でも環境中に存在して影響を及ぼしているものは放射性セシウムです。今回の記事では、この放射性セシウムが環境中にどの程度放出され、どの程度の土壌や廃棄物が汚染されたか、さらに今後の最終的な処分に向けて、どのような研究や検討が行われているかについて説明します。

放射性物質に汚染された土壌と廃棄物

2011年3月の福島第一原発事故で放出された放射性セシウムは、33000兆ベクレル(=1秒間に33000兆個=3.3×1016の原子が崩壊して放射線のエネルギーを出すということ)程度と言われています2)。このうち地上に落ちて残ったものは約20%と言われていますので3)、放射能量は6600兆ベクレル程度で、これを質量に換算すると約1 kgになります。少ないように感じますが、放射性セシウムには質量数が134と137の2種類があり、事故時の割合は18:15といわれていますので、アボガドロ数(6.022×1023)を掛けると、原子の個数としては約4.4×1024となります。また、質量数が134と137の放射性セシウムの放射能が半分になる期間(半減期)は、それぞれ2年と30年です。そのため放射能量は、事故から11年9ヵ月経った2022年12月では36%に減衰しており、100年経った2111年3月では4.6%まで減衰しますが、放射能は依然として残ることになります。

このような放射性セシウムで汚染された土壌などに対しては、人が住む地域では事故直後から除染作業が行われました。除去された土壌などは、直径と高さが1 mくらいの頑丈な袋に入れて仮置場に保管されていましたが、福島第一原発周囲に設置された中間貯蔵施設への搬入が進められ、2022年12月時点ではほぼ完了しています4)。中間貯蔵施設への搬入量は約1400万m3で東京ドーム約11個分に相当しますが、このうち1200万m3程度は放射能濃度が低い土壌で、土木資材としての再生利用に向けた検討が進められています。一方、放射能濃度が高いものを含めた再生利用が難しいものは、国の法律で中間貯蔵を開始して30年以内(2045年3月まで)に福島県外で最終的な処分を完了することになっています。

廃棄物の減容化

ところが、最終的な処分をするための用地の確保は、簡単ではない可能性があります。そのため、再生利用が難しい土壌や廃棄物では、体積を出来るだけ小さく(減容化)するとともに、管理を容易にするために、含まれている放射性セシウムを濃縮して減容化し、安定化するための研究が進められています。

このうち廃棄物については、中間貯蔵施設内の減容化施設で、2020年3月から、図1に示しますように、廃棄物や草木の焼却で発生した灰などの燃え残り(残渣)に、添加物を加えて1300℃以上の高温にして溶かし、放射性セシウムを揮発させて除去する処理が行われています5, 6, 7)。一旦溶けて放射能濃度が低くなった焼却残渣は、冷えるとガラス質で粒状のスラグとなりますので、再生利用のための検討が進められています。一方、放射性セシウムが濃縮され、焼却残渣の1/10程度となった粉状の飛灰に対しては、さらに減容化することも可能です。飛灰中の放射性セシウムは水に溶けやすい塩化物などとして存在しますので、洗浄して放射性セシウムを水中に溶け出させ、溶け出した放射性セシウムを吸着材に吸着させる方法があります8)。その吸着材としては、フェロシアン化物やケイチタン酸といわれる特殊な化合物が使われますが、このうちフェロシアン化鉄は紺青、プルシアンブルーとも言われる青色の顔料で、身近なところではインキや絵具に使われており、古くは図2の葛飾北斎の富嶽三十六景にも使われていました。

図1.焼却で発生した残渣の減容化方法例 図1.焼却で発生した残渣の減容化方法例
図2.富嶽三十六景(神奈川沖浪裏) 図2.富嶽三十六景(神奈川沖浪裏)

これを吸着材として使う場合には、1 mm程度の粒にして筒状の容器に詰め、放射性セシウムを含む溶液を通す方法などが使われます。このように放射性セシウムを吸着材に吸着させることによって、飛灰をさらに1/100以下に減容化できる可能性のあることが分かっています。また、放射性セシウムを吸着した吸着材は、減容化の度合いに反比例して放射能濃度が高くなりますので、セメントやガラスなどで固めた上で容器に詰めるといった安定化の方法についての研究も進められています。ただ、飛灰を洗浄して減容化すると、洗浄で溶けなかった残渣や廃水なども発生しますので、これらを産業廃棄物としての処分が可能か、海などへの放流は可能かなどとも合せて検討する必要があります。

まとめ

放射性セシウムで汚染された土壌や廃棄物の減容化、再生利用や処分について、いろいろな研究や検討が進められています。このなかから、技術的に実現は可能か、費用はどの程度かかるか、処分場の確保を含めた社会からの受入れ易さはどうか、などを総合的に考えながら、国では2024年度を目途に技術の選定を進めています。

<文献>
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