循環・廃棄物の豆知識
2020年11月号

環境中の放射性物質について

有馬 謙一

自然由来の放射性物質

地球上には90種類を越える元素があり、そのなかには放射線を出す物質、放射性物質があります。身近に存在するものとしては、宇宙から飛んでくる放射線の影響によって生成した放射性カリウムや放射性炭素などがあり、皆さんが日常食べている食物や体の中にも、ごく微量ですが、含まれています。放射性物質は不安定で、放射線を出しながら壊れて安定な物質となり、その際に放射線を出しますが、半分に減るまでの時間(これを半減期といいます)は物質によって決まっており、半減期が短いほど放射性物質の壊れる速度が大きく、放射線が多いことになります。例えば、カリウムのほとんどは質量数39(陽子19個、中性子20個)で安定ですが、質量数40(中性子21個)の放射性カリウムが0.012%の割合で含まれており、その半減期は12億年です。同じように、炭素はほとんどが質量数12(陽子6個、中性子6個)で安定ですが、質量数14(陽子6個、中性子8個)の放射性炭素が0.00000000012%の割合で含まれており、その半減期は5700年です。放射性炭素は、この性質を利用して年代測定に使われており、例えば遺跡にあった骨のなかの放射性炭素の割合が半分の0.00000000006%であれば、それは5700年前のものということになります。

福島原発事故由来の放射性物質

原子力発電所ではウランが燃料として使われていますが、ウランが核分裂すると、自然界には無い様々な放射性物質が発生します。2011年3月の福島第一原子力発電所の事故では、本来であれば原子炉の中に閉じ込められている放射性物質が広い範囲で環境中に放出されました。このうち、現在でも環境への影響が大きいものが放射性セシウムです。セシウムはナトリウムやカリウムと同じアルカリ金属といわれる元素の一種で、ほとんどは質量数133(陽子55、中性子78)の安定セシウムですが、質量数137(中性子が82)の放射性セシウムが、原子力発電所からの距離や場所によって異なりますが、安定セシウムの0.0001%程度含まれています。半減期は30年ですので、放射性カリウムや放射性炭素に比べて減るのは早いですが、その分発生する放射線の量は多いことになります。

環境省では、このような放射性セシウムで汚染された地域において、住民の方が元の生活を取り戻すことが出来るように、表面の土ははぎ取り、燃えるものは焼やして灰にした上で、福島原発の周りに設置した一時的な保管場所である中間貯蔵施設に集めています。さらにその次のステップとして、放射性セシウムの量が少なく放射線の量が自然にあるものと大きな差が無いものについては、再生利用する技術について研究が進められています。また、放射性セシウムの量が多いものについては、放射性セシウムを取り除く処理を行い、放射性セシウムが除去された物は再生利用し、放射性セシウムが濃縮された物は安定して保管する技術について研究が進められています。

  • 除染作業の状況
  • 中間貯蔵施設への埋立
  • 焼却施設の外観
(写真は環境省資料からの抜粋です)
参考資料
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