2020年6月現在、世界的に新型コロナウィルスの感染が広がって大変な状況が続いています。こんなことになるとは、半年前の2020年頭には多くの人が予測できなかったのではないでしょうか。未来を予測することの難しさを痛感した人も少なくなかったかと思います。でも、この災禍を無駄にしないためにも、未来に起こるかも知れないことをできるだけ予想して、問題が起こらないようにしたり、問題が起こったときに被害を小さく抑えたりできるように備えることが重要であるとも言えます。
私たち国立環境研究所の資源循環・廃棄物研究センター(以後、「循環センター」とします)では未来のモノやごみの状態に関心を払っています。例えば、未来では今よりごみが増える可能性があるなら、「どんなごみが、どこで、どれくらい増えるか」などできるだけ詳しく見込んでおき、その上でそれらがちゃんと回収され、リサイクルされ、あるいは埋め立てなどされるしくみをあらかじめ作っておかなくてはなりません。もし、「もうだめ、トラックが足りなくて回収し切れない!」などということになれば、道路にごみがあふれてしまいます。そうなればネズミなどが増えて感染症が広がる危険性も出てきます。さらに、道路にあふれたごみが雨によって川に流れだせば、やがて海にただよう…といような結果になるかも知れません。プラスチックでこういうことが起これば?そう、いま世界中で問題となっている「海洋マイクロプラスチック[環環2019年2月号「けんきゅう(石垣さん)」]」がさらに増えてしまいますね。そんなわけで、循環センターでは、世界でモノがどれだけ使われて、日本でどれだけごみが出ていて、どれくらいリサイクルされているか、といったモノやごみの流れ=マテリアルフロー[環環2012年10月号「豆知識(寺園さん)」] [環環2014年12月号「けんきゅう(南斉さん)」] [環環2015年10月号「豆知識(南斉さん)」]を調べています。そうすることで、「ある資源は一部の国だけで大量に採られている」「日本はまだ大量のごみがリサイクルされていない」などといったことが分かります。それが分かれば「何を、どれだけ、どうすれば良いか」という対策を考えることができます。さらに、その対策の効果も調べています。また、昔や今の状態を調べるだけでなく、未来での状態についても見通そうとしています[環環2019年8月号「特別企画」]。
日本のごみについては、循環センターでは「未来(2030年)ではどれくらいごみが出て、またリサイクルされるか」を見通して、「その流れに問題がないか、あるとすればどういう対策をどれくらい行って、その効果はどれくらいか」を考えてきました。そのやり方としては、環境省が公開している統計情報やさまざまな文献や論文からごみの流れを表すデータを選び出し、また、ごみに関わる物事のしくみ(ごみの回収、リサイクル、焼却、埋め立てなど)を表すモデルを作り、それを使ってごみの流れの量を導き出しています。未来のごみの発生量については、過去から現在までの変わり方から予測しています。また、未来での人口はごみの発生量に大きくかかわってきますが、これについては他の研究結果を参考にしています。
これまで、「モデルを使ってごみの流れの量を導き出す」と説明してきましたが、そのためにはモデルに条件となる数値を入力しなければなりません。この条件は、表現したい社会の状態(シナリオ)によって違ってきます。私たちは、こういったシナリオを想定してごみの流れを分析しました。まず、現在(研究を始めた時期により2015年としました)、未来(2030年)という2つの時点を想定し、2030年ではさらに「従来対策だけ」と「追加対策あり」という2つのシナリオを想定しました。「従来対策だけ」では、これまでも実施されてきたリサイクルなどの対策を2030年でも実施するというシナリオです。「追加対策あり」という状態では、「ごみ有料化」「生ごみ分別・堆肥化」などの対策が実施される自治体の数が増えると想定して、その実施割合などの数値を変えてモデルに入力し、ごみの流れの量の変化を調べました。このようにして分かった追加対策の効果を図1と図2に示します。図1は一人当たりの排出量を示しています。現状(2015年)シナリオと比べて、未来(2030年)の「従来対策だけ」シナリオではほとんど排出量が変わりませんが、「追加対策あり」では減少しています。つぎに、図2は循環利用率(発生したごみのうち、リサイクルなどで使われた割合)を示しています。現状と比べて、未来の「従来対策だけ」シナリオでも循環利用率がわずかに高くなるのですが、「追加対策あり」では明らかに高くなることが分かります。
未来のごみシナリオの分析結果として、図1や図2では追加対策の全国での効果をお示ししました。実はこれは、1700以上ある市町村毎に追加対策をとった場合の結果を全国でまとめたものです。まず、なぜ市町村毎で対策を考えたかといいますと、地域によって人の暮らし方は異なり、暮らし方でごみの種類と量は違ってくるからです。例えば、大都市では一人暮らしの人が多く、プラスチック製の使い捨て容器が大量に出るかも知れません。また、近郊の都市では子供がいる家庭が多く、生ごみの量が多いかも知れません。また、地域によってごみの分別・収集・処理の仕方も変わります。大都市ではあまり細かい分別をお願いできない一方、財政が強いので発電ができる大型ごみ焼却炉があるかも知れません。あまり人口が大きくない自治体では市民の協力で細かい分別が実施でき、リサイクルもしやすいかも知れません。こういった市町村毎の状況を統計情報などから推定して、条件を満たす対策を実施する、というシナリオを与えて分析を行いました。それにより、「一人当たりのごみ排出量は人口が多い自治体ほど2030年での増加も大きい」、「リサイクル率は人口が少ない自治体ほど追加対策の効果が大きい」などの結果が出ています。
この記事の始めで、新型コロナウィルス感染拡大のことを書きました。ニュースでは国内外の感染者数、自粛生活、医療現場などの話題が多く流れているかと思います。そんな中、ごみへの影響についてのニュースも時々見られるようになりました。「Stay at Home」を実践した人々は自宅で三食を摂ることが多いため、家庭からのごみが増える[川崎市報道発表:2020年5月13日]一方、事業所からのごみは減ります[朝日新聞ウェブ記事:2020年6月2日]。また、持ち帰り用のプラスチック製のお弁当箱や飲料ボトルが増えている可能性があります。こういった状況は、新型コロナウィルス感染が収束したら元の状態に戻るかもしれません。しかし、例えば在宅勤務が引き続きある程度認められる、などの生活様式の変化が固定化する場合、未来の社会全体が、そしてモノやごみの流れも変わっていく可能性があります。わたしたちは、このような現状をできるだけ把握し、新型コロナウィルス収束後の状況(例えば、飲食店の持ち帰りサービスが定着して、プラスチック製容器の使用・廃棄が減少しないなど)についても予測して、対策を練っていきたいと考えています。
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【第3期中期計画】【第4期中長期計画】
- 循環型社会研究プログラム研究プロジェクト 3
- 資源循環研究プログラム 3
- 基盤的な調査・研究
1:循環型社会形成のための制度・政策研究- 環境研究基盤の整備
資源循環・廃棄物に係る情報研究基盤の戦略的整備