循環・廃棄物のけんきゅう
2014年11月号

災害廃棄物中のアスベストの有無を迅速に判定する

山本 貴士

はじめに

写真1 災害廃棄物中の石綿含有建材 写真1 災害廃棄物中の石綿含有建材建材にある「a」マークは、アスベストを含む建材であることを示すため業界が自主的に表示しているものです。

東日本大震災では、多くの建物が地震や津波により倒壊し、大量の災害廃棄物が発生しました。これらの建物の中には、アスベストを含む建材(石綿含有建材)を使用していたものがあり、石綿含有建材が災害廃棄物に混入することとなりました(写真1)。災害廃棄物の処理では、分別により発生する土砂などをできるだけ復興資材として活用する取組がなされていますが、石綿含有建材が災害廃棄物に混入するとそのような資材にアスベストが混入することにもつながりかねず、石綿含有建材を分別して適正に管理する必要があります。

ある建材がアスベストを含むか否かを判定するのに、通常JIS A 1481という方法が用いられます。この方法は、位相差分散染色法とX線回折法により存在の確認と定量を行いますが、複雑な操作と高価な装置が必要であり、結果が出るまでに数日から一週間ほど要します。災害廃棄物中の石綿含有建材の分別には、迅速で簡便な判定方法が望まれていることから、私達はより安価で迅速・簡便な偏光顕微鏡を用いた方法について検討を行いました。

なお、今年の3月にJIS A 1481は改定され、従来の方法に加えて偏光顕微鏡を用いた方法も追加されています。

偏光顕微鏡によるアスベストの判定方法

クリソタイル グラスウール 写真2 クリソタイル(上)とグラスウール(下)の直交ニコル条件での偏光顕微鏡による観察

通常の光には様々な振動面が混在しています。振動面が特定の方向に揃った光を偏光と呼び、偏光板を通過させることにより偏光が得られます。偏光顕微鏡は、光源と観察試料の間、また観察試料と接眼レンズの間に偏光板を挿入することで、試料の様々な光学的特性を観察することができる顕微鏡です。

アスベストは繊維状の鉱物であり、特徴的な光学的特性を持っています。偏光顕微鏡を用いることで、アスベストとそれ以外の繊維、またアスベストの種類についても区別することができます。例えば、アスベストは繊維の伸びる方向とそれに直交する方向に異なる屈折率を持っています。これを複屈折と呼びます。繊維が複屈折を持つかどうかは、偏光板を光源と観察試料の間、観察試料と接眼レンズの間に挿入した条件下(直交ニコル条件下)で偏光顕微鏡で繊維を回転させながら観察すると、一回転する間に4回明滅することで分かります。グラスウールは複屈折を持たない繊維であり、同様に観察した場合に暗いままなので、アスベストと区別できる訳です(写真2)。

災害廃棄物中のアスベストの有無を判定する

私たちは、災害廃棄物の集積場で採取した建材試料32種類について、偏光顕微鏡による迅速判定の適用を試みました。迅速判定のおおまかな流れは、次の通りとなります(図1)。①建材試料を採取し、実体顕微鏡で観察して繊維があるかを調べる。②繊維があった場合、ピンセットなどで繊維を分取し、偏光顕微鏡観察試料を作る。③試料を偏光顕微鏡で観察して、光学的特性に基づき繊維がアスベストかそれ以外の繊維かを同定する。④繊維がアスベストであった場合、アスベストの種類を同定する。

この方法でアスベスト判定に要した時間は、1試料あたり10~15分でした。判定結果は、アスベストありとされた試料数が18、なしとされた試料数が14でした。確認されたアスベストの種類は全てクリソタイルであり、その他の繊維としてセルロース系(植物由来)のものが確認されました。JIS A 1481の方法(分散染色法とX線回折法)による判定結果では、アスベストありとされた試料数は20、なしとされた試料は12でした。これを正しい結果とすると、迅速判定の正解率は94%となりました。誤判定には、アスベストが「ない」試料を「あり」とする間違い(偽陽性)、アスベストが「ある」試料を「なし」とする間違い(偽陰性)の2種類があり、私たちの方法では、偽陽性となった試料数は0でしたが、偽陰性となった試料数は2でした。

アスベストを管理する上で、アスベスト「あり」の試料を「なし」としてしまうこと(偽陰性)は避けなくてはなりません。今回偽陰性となった試料は、アスベスト濃度が2.0~2.6%と低く、実体顕微鏡での観察の際に繊維を見つけることが困難であったと考えています。このような偽陰性を少なくすることが今後の課題です。ただ、アスベスト濃度が3%以上である試料について誤判定は起きておらず、石綿含有建材の多くはアスベスト濃度が5%以上であることから、誤判定が起こるケースは少ないと考えています。

図1 アスベスト迅速判定法の流れ 図1 アスベスト迅速判定法の流れ

おわりに

今回私たちが検討した迅速判定の方法は偏光顕微鏡を用いたものでしたが、この他にもアスベストの赤外線の吸収に基づく方法(近赤外分光法)もあり、既に可搬型の装置が市販されています。今回検討した方法も含め、迅速判定が災害廃棄物はもちろん、平常時の建物の解体で発生する建設廃棄物中のアスベストの判定にも広く活用され、アスベスト飛散による健康被害が少なくなることを願っております。

しげる
<もっと専門的に知りたい人は>
  1. 山本ほか、災害廃棄物中石綿含有物の迅速判定方法の検討、第25回廃棄物資源循環学会研究発表会要旨集、507-508 (2014)
<関連する調査・研究>
  1. 政策対応型廃棄物管理研究
    4:負の遺産対策・難循環物質に係る処理技術及び計測手法の開発・評価
  2. 災害廃棄物及び放射性物質汚染廃棄物等の処理処分等技術システムの確立に関する研究
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