けんきゅうの現場から
2022年5月号

河川マイクロプラスチック調査方法の共通化の取り組み

鈴木 剛

地方環境研究機関と推進する河川マイクロプラスチック調査について

マイクロプラスチックの海洋流出は、生物がエサと間違えて食べてしまうことや有害化学物質の運び屋になってしまうことなど、海洋環境への影響が懸念されており、国際社会で対処すべき喫緊の課題となっています。発生源の把握やそこでの削減対策を含む流出抑制対策を適切に検討するためには、海洋マイクロプラスチックがどこから来ているのかを把握することが重要です。これまでの調査研究を通じて、河川は海洋マイクロプラスチックの主な流出経路のひとつと考えられるようになっており、環境省は河川水中の1mm以上5mm未満のマイクロプラスチックの分布実態を把握するための調査方法を定めた「河川マイクロプラスチック調査ガイドライン(環境省ガイドライン)」を2021年6月に公表しました。

国立環境研究所(国環研)では、地域の状況を熟知している全国の地方環境研究所(地環研)と、地域ごとの環境問題に関するさまざまな共同研究を進めています。この一環として、私たちの研究グループでは、全国31機関の地環研の研究者と共同して、「河川プラスチックごみの排出実態把握と排出抑制対策に資する研究(2021年度~2023年度)」に取り組んでいます。本研究では、河川マイクロプラスチックを含むプラスチックごみの海洋への流出実態の把握や流出抑制対策による削減効果の検証に資するモニタリングのあり方を地環研と検討・提案することを目的としています。

ここでは、河川マイクロプラスチックの海洋流出実態の把握にむけて、なぜ・どのように環境省ガイドラインを基に調査方法の共通化を進めているのか、共同研究で実施している取り組みを紹介します。

調査方法の共通化にむけた取り組み

河川マイクロプラスチックの調査方法の共通化は、調査を通じて得られるデータを比較可能なものにするために、重要なステップです。調査では、河川水中のマイクロプラスチックを植物片などと共にプランクトンネット(水中のプランクトンをこしとって集めるもの)で採取し(試料採取)、前処理を行ってマイクロプラスチックと思われる粒子や繊維を取り出して(前処理)、プラスチックであるかどうかを分析装置で確認します(測定)。このとき、プランクトンネットの網目の大きさ(目合い)が異なれば採取できるマイクロプラスチックの大きさも異なり、適切な前処理が行われなければマイクロプラスチックの回収量に差が出ます。つまり、調査に際しては、分析データに大きな影響を与える可能性のある機材や前処理方法を同じものにしておくことが重要になります。環境省は、測定データを相互に比較可能なものにするため、ガイドラインを作成したと言えます。

環境省ガイドラインを正しく運用して、調査方法を適切に共通化するために、私たちは次の3つのことに取り組みました。一つ目の取り組みは、試料採取に使用する調査機材の共通化です。はじめに、国環研において、目合い0.3 mmの簡易プランクトンネットやデジタルろ水計(ろ水量を計測するもの)など、試料採取に使用する機材一式を揃えました(写真1)。必要に応じて、国環研から地環研に試料採取機材一式を送付して、実態調査に使用してもらうと共に、機材を購入する際の参考にしてもらっています。調査機材は必要に応じて追加しており、現在は濁度計(水の濁りを計測するもの)なども揃えています。

写真1 河川マイクロプラスチック調査の試料採取に使用する調査機材一式
写真1 河川マイクロプラスチック調査の試料採取に使用する調査機材一式
①簡易プランクトンネット(目合い0.3 mm、アクリル筒底管)、②プランクトンネット用布製袋、③プランクトンネット用布製カバー、④デジタルろ水計、⑤ろ水計固定具一式、⑥三又ロープ、⑦ロープ、⑧フローティングストラップ

二つ目の取り組みは、体験型の試料採取デモンストレーションの実施です。これは、「試料採取経験のある地環研の実施方法をみてみたい、学んでみたい」、そういった声に応えたものになります。新型コロナウィルス感染者数の落ち着いた2021年11月に、河川マイクロプラスチック調査を先進的に取り組んでいる福岡県保健環境研究所環境科学部の古賀智子さんの協力のもと、福岡県御笠川で開催しました(写真2)。当日は、地環研9機関が現地参加すると共に、現地配信も実施して地環研10機関がオンライン参加しました。現地参加もオンライン参加もできなかった機関には、録画の共有を通じて、試料採取の手順の共通化を図りました。

写真2 福岡県で実施した試料採取デモンストレーションの様子
写真2 福岡県で実施した試料採取デモンストレーションの様子
左側:二人一組で試料採取体験を実施しているところ、右側:デモンストレーション終了後の集合写真

三つ目の取り組みは、前処理・測定デモンストレーションの実施です。このデモンストレーションは、室内で実施するものなので、新型コロナウィルスの感染予防を行う上で大切な密閉・密集・密接の3密を避けることができないと判断して、オンライン参加のみという開催方式をとりました。2022年2月に国環研で開催して、地環研26機関がオンライン参加しました。当日は、ネットによるろ過、酸化処理、比重分離といった前処理パートと、マイクロプラスチックと思われる粒子や繊維の取り出しとプラスチックの種類の確認といった測定パートについて、予め作成しておいた動画の配信と実験室からの質疑応答を行いました(写真3)。いずれのパートについても、活発な質疑応答があり、前処理や測定に際しての悩みやその対処方法を共有することができました。

写真3 国立環境研究所で実施した前処理・測定デモンストレーションの様子
写真3 国立環境研究所で実施した前処理・測定デモンストレーションの様子
左側:オンライン配信されている動画、右側:実験室の分析装置前から質疑応答しているところ

今後の展望

2022年3月に開催された国連の会議では、プラスチックごみ対策の国際的な枠組みを作ることが決まりました。ここで紹介した環境省ガイドラインに基づく河川マイクロプラスチック調査方法の共通化の取り組みやそれに基づく流出実態調査結果が、海洋プラスチックごみ対策に役立つことを期待しています。

共同研究では、調査方法の共通化の取り組みで撮影した動画を活用して、環境省ガイドラインの作業内容や要点を簡便に説明する電子動画マニュアルを作成しましたので、関心のある方はご覧ください。環境省ガイドラインの適切な運用の一助となれば幸いです。

<もっと専門的に知りたい人は>
  • 二瓶泰雄, 田中周平, 鈴木剛, 冨野正弘, 高橋和輝 (2022) 河川マイクロプラスチック調査ガイドラインの要点と課題. ぶんせき(受理)
<関連する調査・研究>
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