最近、海洋ごみとしてのマイクロプラスチック問題やレジ袋の有料化義務化といった話題がマスコミ等で盛んに取り上げられています。そのきっかけは、現在、国の審議会で検討されている「プラスチック資源循環戦略」策定の議論です。具体的には、今年の6月に第四次循環型社会形成推進基本計画が策定され、その大きな柱の一つとして「ライフサイクル全体での徹底的な資源循環」が打ち出されました。その中の素材別の取組として、「プラスチック資源循環戦略」を策定し、施策の推進を図ることとされたことから、国での議論が始まったわけです。私も国の審議会のメンバとして参画していますので、今回は近況としてこのプラスチック資源循環の問題を取り上げたいと思います。
プラスチック資源循環の方向性を考える際には、まず、以下のような背景となる課題を理解しておく必要があると考えています。
以上のような課題を解決していくための方向性として、先日の平成30年10月19日の審議会会合で「プラスチック資源循環戦略(素案)」(以降、戦略素案)が環境省から提示されました。本稿では、私が重要と思ったポイントを紹介したいと思います。
戦略素案では、まず基本原則が提示されており、それに「3RプラスRenewable(持続可能な資源)」という表現が添えられています。リデュース、リユース、リサイクルの理念を守りつつ、カーボンニュートラル(2008年11月17号、2018年3月号参照)であるバイオマスプラスチックへの合理的な転換による低炭素化や、プラスチックの海洋流出防止によるマイクロプラスチック問題への対処などにより環境負荷低減を図ることの重要性が、「3RプラスRenewable」の意味に込められているものと解釈しています。
戦略素案では、取組みの方向性として四つの重点戦略が示されました。①プラスチック資源循環、②海洋プラスチック対策、③国際展開、④基盤整備、の四項目です。これまでの議論では、先述した様々な課題とその解決の方策が整理されずに議論されてきた感がありました。解決すべき問題は、資源枯渇や気候変動、マイクロプラスチック汚染等の環境への影響であり、これらの考えるべき影響に対してプラスチックごみの問題がどの程度関係していて、どのような対策が最も効果的なのか、客観的事実に基づいて冷静に議論されていない印象がありました。例えば、マイクロプラスチックがPCB等の難分解性有機汚染物質(POPs)を吸着して運ぶ媒体になることは知られていますが、最終的な人や生態系の生物へのPOPsの曝露にはほとんど寄与していないとするのが一般的見解です1)。プラスチックを焼却すると温暖化やダイオキシン汚染につながるという論調も、エネルギー回収や高度なダイオキシン類対策が進んだ日本の現状においては、バランスを欠いた意見のように思います。
以上のような意味において、取組みの方向性として、①プラスチック資源循環と②海洋プラスチック対策を明確に分けた点は、問題がわかりやすく整理され良かったと思います。①において、資源保全や低炭素化のための3Rの徹底とバイオプラスチック(バイオマスプラスチックと生分解性プラスチックの両方の意味を含んでいます)の利用促進の方向性を示し、②において、プラスチックのポイ捨て・不法投棄撲滅、流出抑制対策、海洋ごみ回収など、実効性の観点から必要な海洋流出防止対策が示されています。
また、プラスチックの適正処理のシステムが脆弱で、環境への負荷が現実的に大きい途上国への支援を③国際展開として挙げている点、さらに①~③を支える横断的な④基盤整備として、社会システム、産業振興、技術開発、連携協働、情報基盤などの観点からの取組みの方向性を示している点で、全体として網羅性をもった戦略が提示されていると思います。
戦略素案で示された取組の方向性に記載されている事項は、比較的具体性のあるものから抽象的な記載にとどまっているものまで様々ですが、個人的に関心があり今後議論が必要だと思われるポイントをいくつか挙げたいと思います。
まず、リデュース(Reduce)等の徹底の取組として、レジ袋の有料化義務化(無料配布禁止等)が打ち出されている点です。大手スーパーマーケット等の事業者単位や地域単位では既に導入されている取組ですが、具体的な減量効果以上に、消費者のライフスタイル自体の変革をねらいとした象徴的な取組として期待されています。中小を含めた事業者にどこまで理解してもらい国民的運動として強力に推進していけるかが鍵であるように思います。
次に、バイオプラスチックの利用促進です。海外では、化石資源由来のプラスチック製ストローが規制により禁止になる国や、プラスチックストロー等を紙製やバイオマスプラスチックに将来転換するといった大手のコーヒーチェーン店の動きなどが話題になっています。しかし、プラスチックには素材としての様々な優れた機能があり、私たちの生活を支えていることも否定できません。すべての化石資源由来のプラスチックをバイオマスプラスチックや紙製に転換することは容易ではありません。バイオマスプラスチックの利用は、焼却してもカーボンニュートラルであることによって低炭素化につなげることが目的です。したがって、リサイクルができないほど汚れてしまい焼却処理せざるをえないプラスチックの用途や、バイオマスプラスチックでも従来の化石資源由来プラスチックの機能を十分担える用途等について利用促進を図るなど、本来のプラスチックの機能確保とのバランスも含めて合理的な用途を考えていく必要があります。
最後に、プラスチックの素材リサイクルとエネルギー回収のバランスの問題です。欧州の循環経済パッケージにおけるプラスチック戦略においては、エネルギー回収は最も優先順位(ヒエラルキー)が低い有効利用の方法になっており、そのヒエラルキーは日本の循環型社会形成推進基本法においても同じです。しかし実態としては、日本全体のプラスチックの有効利用のうち半分以上はエネルギー回収であり、素材リサイクルは1/4程度しかありません。しかも、そのほとんどが中国等への輸出による海外での有効利用になっています。中国等の輸入規制により海外への廃プラスチックの輸出が難しくなることが予想される中で、国内での素材リサイクル産業や再生材の需要を増加させることが一朝一夕に実現できないことは明白です。素材リサイクルとエネルギー回収のバランスについては、ヒエラルキーに基づく長期的な方向性を共有しつつ、時間軸に沿ったロードマップを描くことも必要だと考えています。
<参考文献>
- 1)Koelmans et al., 2016. Environ.Sci.Technol., 50, 3315-3326