日本では、一般廃棄物は、分別、収集運搬の後、中間処理を経て、最終処分場に埋立てられます。現在、国内の中間処理は、焼却が主となっていることから、最終処分 (埋立) されるのは主に焼却残渣 (廃棄物を焼却した後の灰や不燃分) ですが、一部、完全に無機化されていない燃え残りが含まれる場合があります。また、過去に可燃性ごみ等の有機物が埋立てられている場合もあります。一方、東南アジア諸国では、廃棄物は中間処理されずに直接埋立てが多いことから、最終処分場の埋立物は有機物が多く含まれます。
最終処分場における有機物は、主に、酸素がない嫌気的環境下における微生物反応によって、無機化が進行されます。図1に廃棄物層における微生物による有機物の物質変換の概要を示します。生ごみ等に含まれ、焼却時にも水分が多いため燃え残りやすい、炭水化物や脂肪等の易分解性高分子有機物は、可溶化、加水分解によって、単糖、高級脂肪酸等の低分子有機物に変換されます。その後、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の揮発性脂肪酸や、エタノール等のアルコール類、二酸化炭素、水素等に分解されます (酸生成)。続いて、揮発性脂肪酸から酢酸と水素が生成された後 (酢酸生成)、酢酸または水素と二酸化炭素からメタンが生成され、無機化されます。また、硫黄含有化合物については、硫酸塩還元反応によって、硫化水素に変換されます。タンパク質等の窒素化合物はアンモニア化、硝化、脱窒を経て、アンモニア態窒素、硝酸態窒素、亜硝酸態窒素および窒素等が生成されます。一方、紙等の構成成分であるリグニン、セルロース等の難分解性有機物は、反応はゆっくりですが、一部は、加水分解反応を受け、低分子有機物へと変換されたり、残存するタンパク質等と重縮合して安定な腐植物質となります。上記の一連の反応には、様々な種類の微生物によって進行しています。
廃棄物層内において、微生物反応によって生成された代謝物は、廃棄物層に浸透した雨水に溶け込み、浸出水として処分場より排出されます (廃棄物埋立地浸出水、2014年3月)。浸出水の水質は、廃棄物層内の物質変換に伴い変化し、初期においては、低分子有機物、揮発性脂肪酸、アルコール類等の易分解性の有機物が多く含まれますが、後期になるにしたがって、易分解性有機物の濃度は低下し、リグニン、セルロース等の難分解性有機物や窒素が主となっていきます。加えて、浸出水には、塩類や重金属等も溶存され、特に埋立物が焼却残渣の場合には、濃縮された無機成分が高濃度で溶存されます。日本においては、浸出水の処理は、物理化学的処理と併せて微生物反応を利用した生物学的処理によって、有機物や窒素等の汚濁物質の除去が行われ (環環 2010年2月号)、水質を制御した上で環境に放流されます。近年、埋立物が焼却残渣に変化したことから、高濃度塩類による浸出水処理性能の低下が課題となっています。一方、東南アジア諸国等の開発途上国の多くでは、経済力・技術力の観点から、浸出水を人工的に作った池 (貯留池) に集めて、自然蒸発することで水量を削減し管理をしています。しかし、廃棄物量の増加に伴って、雨季における大量の降雨により、貯留池の容量を超えた未処理の浸出水が系外に漏出される等の問題を抱えています。現在私達は、微生物反応、植物の吸収、ろ材の吸着作用による汚濁物質の除去と植物による蒸散による水量削減効果の両方を兼ね揃えた人工湿地を活用した、東南アジア諸国に適した浸出水管理システムの構築を進めています (環環 2013年2月号、環環 2014年10月号)。これまでの検討において、主に微生物反応によって窒素が除去されることが明らかとなりました。また、人工湿地の他に、浸出水を処分場に返送する浸出水循環法という技術についても検討を行っています。浸出水循環は、蒸発による水量削減と、処分場内での微生物反応を活用した汚濁物質の除去を目的としたものです。一方で、浸出水を返送することによって、塩類等の蓄積により微生物反応が阻害されることが懸念されます。これまでの検討によって、高塩類濃度によって、微生物種の構成が変化するとともに、微生物群集構造の変遷が阻害され、メタン生成等の有機物の無機化が阻害されることが示されました。また、浸出水循環を実施する時は、特に阻害作用が強いアンモニアの濃度を制御することが重要であることを明らかとしました。
最終処分場では、予定していた廃棄物の埋立てが全て終了したら、埋立てられた廃棄物が露出しないように土もしくは砂によって埋立地全体を覆って整地します (廃棄物埋立地の覆土 2008年6月号)。この最終覆土においても、微生物反応によって、物質の変換が生じています。特に、メタン酸化細菌によって、廃棄物層において有機物の無機化によって生成されたメタンの一部が、二酸化炭素に変換される反応は重要です。メタンは、可燃性ガスであり、二酸化炭素よりも地球温暖化に与える効果が強い温室効果ガス (地球温暖化係数:二酸化炭素の25倍) (地球環境研究センター) であるため、メタン放出を抑制することは、環境負荷低減に繋がります。メタン酸化細菌は、炭素化合物の生合成経路や細胞質内膜の構造によって分類することができ、メタン放出量の違いによって、存在するメタン酸化細菌の種類が異なることが報告されています。処分場の安定化 (廃棄物の分解や反応、廃棄物からの汚染物の放出が収まって、環境への影響が無い土になっていく (引用:埋立地ガスのモニタリング方法の開発 2007年5月号) が進むほど、メタン放出量も低下していくので、メタン酸化細菌の分類を調べることで、処分場の安定化進行度を把握できる可能性があります。また、メタン酸化反応は、pH、含水率、温度、透気性等に影響を受けることから、最適条件に適した覆土材を利用することで、処分場からのメタン放出量の削減に役立てることができます。
以上のように、最終処分場では、廃棄物層内、浸出水処理、最終覆土等様々な場面において、微生物反応により物質の変換が行われています。逆の視点から考えると、微生物反応は処分場内の物質変換をダイレクトに反映していると考えられます。処分場内の物質変換は埋立物、埋立経過年数、安定化の進行度によって異なり、その複雑性から詳細な状況を理解するのは困難であります。現在、処分場の状況把握は、浸出水の水質、ガスの測定や、処分場内部の温度、地盤の安定度など、主に物理化学的な手法で行われています。それらに加えて、微生物反応を評価することで、より詳細な処分場内の状況を把握することができます。処分場の安定化において鍵となる微生物反応の特性を理解し、制御することができれば、環境負荷低減に役立つことが期待されます。しかしながら、微生物の観点から処分場を評価している研究例は少なく、特に、易分解性有機物が少なくなり、難分解性有機物や窒素が残存している埋立経過年数が長い処分場や、高塩類の焼却残渣が埋立てられている処分場内での微生物反応による物質変換については、未知の部分が多いのが現状です。様々な条件下の複雑な微生物反応を1つ1つ調べていくのは、長い時間がかかり困難です。そこで、本研究グループは、微生物反応を司る機能遺伝子をターゲットとしたマイクロアレイを用いた網羅解析や微生物の代謝物を網羅的に解析するメタボロミクス等を活用した評価ツールを構築し、様々な条件の処分場における微生物反応の可視化を進めています。今後、データベース等を充実することができれば、微生物反応の評価は、処分場内の状況を詳細かつ的確に把握できる指標として利用でき、将来の物質変換の推測に活用できる可能性もあります。
- Yuka Ogata, Tomonori Ishigaki, Yoshitaka Ebie, Noppharit Sutthasil, Chart Chiemchaisri, Masato Yamada (2015) Water reduction by constructed wetlands treating waste landfill leachate in a tropical region. Waste Management, 44, 164-171.
- 尾形有香, 中川美加子, 石垣智基, 山田正人, 浸出水循環による塩類蓄積が微生物群集構造に及ぼす影響 (2014) 第25回廃棄物資源循環学会要旨集, 421-422.
- Tomonori Ishigaki, Hiromi Sawamura, Kaoru Ikeda, Masato Yamada (2012) Community Shift of Methane-oxidizing Bacteria in Cover Soil of Waste Landfills Due to Methane Emission, Environment and Pollution, 1 (1), 75-84.
- 内田佳子, 小峯秀雄, 安原一哉, 村上哲, 遠藤和人 (2008) 廃棄物最終処分場覆土材におけるメタン酸化細菌の育成可能な条件の提示、地盤工学ジャーナル、l3 (1)、85-93.
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