最近、ごみの処理・処分やリサイクルの分野において「地域循環圏」という言葉が使われるようになりました。その定義は、第三次循環型社会形成推進基本計画(平成25年5月策定。以下「第三次循環基本計画」と呼びます)によると「地域の特性や循環資源(資源として利用できる廃棄物のこと)の性質に応じて、最適な規模の循環を形成することが重要であり、地域で循環可能な資源はなるべく地域で循環させ、地域での循環が困難なものについては循環の環を広域化させることにより、重層的な循環型の地域づくりを進めていくという考え方」となっています。もう少し簡単に言えば「ある循環資源について、環境影響がより小さく、経済性がより大きくなるように設計されたリサイクルシステムが広がる領域」となるでしょう。例えば、生ごみのリサイクルなら市町村、PETボトルなら西日本、といった具合です。
環境省では、専門家による「地域循環圏形成推進に係る検討会」を設置し(以下「検討会」と呼びます)、その定義や役割の議論を深めてきました。その成果の一つとして、平成24年7月に「地域循環圏形成推進ガイドライン」が公表されました(以下「ガイドライン」と呼びます)。これは、自治体などが地域循環圏を形成するときの指南書と言えます。
ガイドラインではまず、地域循環圏の形成を進めるときの基本的な軸として「適正で効率的な資源循環」「地域特性を活用する資源循環」「地域に活力をもたらす資源循環」の3つを示しています。
また、地域循環圏に求められる機能として下記の4項目が示されています。
Aは広い地域でたくさんの循環資源を集めて、リサイクルの規模を大きくして効率を上げる機能です。Bはある場所にさまざまな循環資源を運び、それぞれの性質に合った処理方法をまとめて選ぶ機能です。Cは同じ性質の循環資源を集めて、一体的に処理することでリサイクルの効率を上げる機能です。Dは対象地域でまだ利用されていない資源(循環資源や既存施設)を活用してリサイクルする機能です。これらの機能を全部発揮することは難しいので、地域や循環資源の特性に合った機能を伸ばすことが有効です。
さて、地域循環圏をつくろうとするとき、前述の基本軸や機能も考えつつ、完成したときの形態も想定しておくことが大事です。地域循環圏の形態は、人口、面積、地形、産業、文化、地勢などの特性の違いによって地域毎に異なるはずです。ただ、循環資源や再生製品の流れなどの大事な要素に注目すると、その形態にはいくつかの類型が見えてきそうです。ガイドラインでは以下の4つの類型が提案されています。
上記の①は農山漁村で農林水産業から出るバイオマスを出来るだけ地域内で利用する類型です。②は都市で大量に出る様々な循環資源を近郊の農村と連携して利用する類型です。③は様々な地域で出た循環資源を都市の動脈産業(鉄鋼やセメントなど)の施設で利用する類型です。④は様々な地域で出た循環資源を循環型産業が集まった地域で高度に利用する類型です。また、①~④の類型はお互いにつながることも考えられます。このような類型は、地域循環圏を作ろうとしている関係者(自治体、事業者、市民など)にとって具体像を想像しやすく、意思疎通にも役立ちます。
作るべき地域循環圏の類型がはっきりしたら、より具体的で地域特性に合った構想を考えなければなりません。ガイドラインでは、地域循環圏の形成に至る流れのうち、基本構想の策定までの部分を説明しています。まず、対象地域に存在するさまざまな資源やごみの量、その流れ、施設、コミュニティ活動などを調べます。つぎに、地域循環圏の将来像や中心となる事業、コミュニティとの連携を決めます。最後に地域循環圏の将来ビジョン、事業モデル、運営システムを決めるとともに、形成の効果を評価します。
また、ガイドラインでは、地域循環圏の形成に取り組む組織作りが重要だと書かれています。具体的には、第1段階として自治体、事業者、NPOなどが入った勉強会等を作り、第2段階として想定する循環圏の規模に合った行政(市町村、都道府県、地方環境事務所など)が中心となって、全ての関係者を入れた協議会を作る、という手順が提案されています。勉強会は循環資源利用の事業ごとに作られ、事業化すれば運営主体にもなりうる組織です。協議会は複数の勉強会(の事業)を調整・支援する組織です。
地域循環圏のようなシステムを形成しようとするとき、利害調整や合意形成が非常に重要かつ難しい作業となります。ガイドラインにおいては協議会の設置が提案されており、構想策定までの調整機能が示唆されています。しかし、それ以降の計画策定や施策・事業実施での利害調整や合意形成については明記されていません。「最終的には、…地域循環圏形成の先導役(リーダー)が、関係者を召集し、基本的な考え方について関係者間の合意形成をはかります」という記述もありますが、これは構想策定段階のはなしです。
地域的リサイクルの成功例では、有能で精力的な人材が存在し、構想策定から事業実施までを通して利害調整や合意形成を担っている場合が少なくありません。地域外の人材がやってきて、新しい考え方、技術、システム、人脈を導入する事例もあります。古くからの人材が地域の人脈を最大限活用して、業界を横断的にまとめて、事業連携を形成する事例もあります。このようにみると、人材に恵まれたり、人脈が活かされたりする地域では地域循環圏の形成が容易で、そうでない地域では困難、ということになります。そこを何とか是正する体制が必要で、有能な人材の派遣や、地域の人材の発掘・育成も対策としてあり得ます。ガイドラインでは、初期段階で地域のフローやコミュニティの状況を把握することになっていますが、こういった人材の有無を含む関係主体の現状把握が重要となるでしょう。
また、第三次循環基本計画では、地域循環圏の高度化の必要性が6項目にわたって書かれています(下記参照)。
このように、地域循環圏に期待される役割はますます大きくなっていますが、その形成に向けた方法論はまだ確立されておらず、ガイドラインの改良をはじめとして、行政、事業者、市民、そして学術研究機関が経験と知恵を出し合って編み出していくことが必要となっています。研究課題としては、「類型毎の機能の優先順位の検討(「里地里山里海型」なら「地域資源活用」を最優先する等)」、「類型と高度化の関係の整理」、「計画策定以降の関係主体の調整方法の検討」、「リーダーとなる人材の育成・活用の方法論」、「地域循環圏の積み重ねが国全体として最適か否かの分析」などが考えられます。
<「ガイドライン」は下記URLから閲覧できます>
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