循環・廃棄物の基礎講座
2014年8月号

わが国と欧州の廃棄物・3R政策のあゆみ

大迫 政浩

1.はじめに

筆者が廃棄物や3Rの問題に関わった四半世紀は、まさに激動の時期であったように思います。経済成長に伴う廃棄物の増大と最終処分場のひっ迫、ダイオキシンや不法投棄の問題、廃棄物の越境移動などの様々な課題を突き付けられ、適正処理の確保や徹底したリサイクルによる減量化など、懸命な対応が行われてきました。

そしてこれからの廃棄物・3R政策はどのように変化していくでしょうか。あるいはどうあるべきでしょうか。その将来を展望するためには、これまでの廃棄物・3R政策のあゆみを振り返ることも大切なことのように思います。そこで、わが国の政策とわが国に影響を与えてきた欧州の政策動向を年表に整理してみました(表1)。なお、特に断らない限り、欧州の政策とは欧州連合(EU)の政策1) を示しています。

表1 わが国と欧州の廃棄物・3R政策のあゆみ

表1 わが国と欧州の廃棄物・3R政策のあゆみ

2.わが国と欧州の廃棄物・3R政策のあゆみ

以下、廃棄物・3R政策のあゆみを三段階に分けて整理してみたいと思います。

(1)第1段階(適正処理の重視)

第1段階は、廃棄物の適正処理段階であり、有害廃棄物処理への特別な配慮等が政策的にも重視されました。日欧ともに70年から90年代前半にかけて、そのような傾向が伺えます。欧州では、廃棄物枠組み指令、わが国では廃棄物処理法が法的枠組みを与えました。現在の主要な管理フレームである特別管理廃棄物制度、マニフェスト制度、施設許可制、生活環境アセス制度、不法投棄原状回復基金制度などは、1991年、1997年の廃棄物処理法の改正において整備されました。

(2)第2段階(リサイクルの重視)

第2段階は、増加する廃棄物排出量への対応のために、処理への負荷軽減のためのリサイクル促進段階であり、個別のモノごとに法律で強制力のある回収システムを構築し、リサイクルを進めました。欧州のほうが若干先行して、90年代半ばから、本格的には2000年代に入ってから、個別のリサイクル政策が打ち出されました。この時代のリサイクルは、拡大生産者責任(Extended Producer Responsibility:EPR)の原則の下に、生産者の責任による回収システムの構築が法制度で義務付けられることによって進んだといえます。EPRについては、わが国も積極的にOECD(経済協力開発機構)での議論に参加し、わが国の状況をしん酌しながら欧州に遅れをとることなく個別リサイクル法の制定を進めました。最初にリサイクル制度構築の対象になったのが、日欧ともに容器包装廃棄物です。私たちの生活様式の変化により、容器包装廃棄物は、容量で一般廃棄物の6割を占めるまでに増加しました。その後わが国では、個別リサイクル法の上位にある循環型社会形成推進基本法を制定しました。また日欧ともに、廃家電(日本は4品目、欧州は電子・電気機器としての多品目)、廃自動車などに対するリサイクル制度が制定されました。日本では他に、建設リサイクル法、食品リサイクル法も制定されました。

(3)第3段階(発生抑制への転換)

第3段階は、日欧ともに今日取り組んでいる状況ではありますが、廃棄物の発生抑制を重視する政策への転換段階です。わが国では、循環型社会形成推進基本計画において資源効率の新たな指標が導入され、目標値が設定されています。また、容器包装リサイクル法や食品リサイクル法の改正時に、発生抑制の観点が議論され、一部反映されてきた状況です。

欧州では、第6次環境行動計画が採択され、4つの重点分野と7つの個別テーマ戦略が示されました。その個別テーマ戦略の中で特に関連性が強い持続可能な資源利用戦略と廃棄物抑制・リサイクリング戦略に基づき、2008年に廃棄物枠組み指令が改正され、発生抑制を頂点とする廃棄物管理のヒエラルキーが確認され、その中でも廃棄物発生抑制への対処として、例えば、EUの各国が具体的な計画と目標をもつことが決められました。廃棄物抑制の重要性は、天然資源の消費抑制、持続可能な資源利用のための資源効率の向上という意味合いで強調されています。その他にも、指令においては、エネルギー効率によって焼却処理のエネルギー的利用と処分の区分けを行うことや、生産者責任の内部化なども明示されました。

3.将来の展望

さて、第3段階の次に来る展開は何でしょうか。3R政策はどのように進化していくべきでしょうか。その点を考える上で注視すべき政策が、欧州の「総合的製品政策(Integrated Product Policy:IPP)」です。製品のライフサイクルを考えて、あらゆる断面での環境配慮を求める総合的な製品政策であり、持続可能な資源利用や廃棄物抑制などの戦略とも密接に関係します。2005年に制定されたエコデザイン指令において、一部製品について、そのライフサイクルを通した環境調和度やエネルギー効率等に関する要件を満たす製品のみ流通可能とする仕組みが示されました。廃棄物処理・リサイクルは、製品ライフサイクルの最終段階として重要であり、廃棄物の発生抑制やリサイクルのしやすい製品設計が求められます。2008年に改正されたEUの廃棄物枠組み指令には、製品のライフサイクルアプローチとしてIPPの概念が明示されており、施策としての具体化に関する今後の議論が注目されます。

イラスト:大迫先生&じゅんさらに近年では、真に持続可能な循環型社会構築のための総合的資源管理政策として、資源効率性(Resource Efficiency:RE)を重視した政策への転換が欧州において打ち出されました。2011年3月には、「資源効率的な欧州に向けたロードマップ」が公表され、資源効率性を測る指標に関する議論も行われています。わが国では、2003年の循環基本計画にすでに資源効率性の最上位指標として資源生産性(GDP(国内総生産額)/DMI(天然資源等投入量))が導入され、資源制約の下で経済的効用の最大化を図る、又は脱物質化等による効用を維持しながら天然資源消費の最小化を図ることの新たな理念が提示され、その意味では世界的にも先駆性があったといえます。一方、欧州のRE政策におけるRE指標には、大気や水、土壌などの環境を「資源」として広義に捉え、環境効率の概念まで及んだ議論が行われています。わが国においても、循環型社会と低炭素社会、自然共生社会の統合化が第二次循環基本計画(2008)から基本的方向性として強調されています。

このように、これからの廃棄物・3R政策を展望すると、これまでの廃棄物対策に加えて、資源効率を高めるための資源の持続的利用や脱物質化対策、3Rの中では廃棄物の発生抑制、すなわちReduceがより重要になるものと思われます。また、低炭素社会や自然共生社会との統合的な循環型社会転換政策を、製品やサービスのライフサイクル全体で最適化していくことが求められているのです。

参考資料
  1. 欧州連合、欧州委員会HP、European Commission HP, Environment, Waste、又はResource
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