Sai-haiとは何でしょうか?さいはい、さいはい、・・・采配?災廃?そうです、災害廃棄物を適切に処理できるよう、市町村が普段から進める対策をマネジメント(采配)するオンラインツールのことです!正式名称は「災害廃棄物対策マネジメントツール Sai-hai」ですが、広く活用いただきたいという願いを込めて、語呂合わせの通称を作りました。国立環境研究所が作成・公開したこのSai-haiがどのようなツールであり、どのように役立っている、役立ってほしいのか、紹介します。
災害廃棄物対策とは、災害廃棄物の処理に向けて普段から行う事前準備のことです。災害廃棄物処理計画を定めておくこと、仮置場の候補地をリスト化しておくこと、様々な関係者と協定を結んでおくこと、災害時のごみの出し方お知らせ(チラシ)の案をあらかじめ作っておくこと等、その内容は様々です。いざ災害が起きた時に市町村がスムーズに対応するためには、こうした対策を着実に進めておく必要があります。一方で、なかなかそこまで手が回らない、という実情も見受けられます。過去の調査から、全国の約半分の市町村ではごみ処理業務を担当する職員が2人以下しかいない中で、計画づくり、ごみ処理業者との連携に関する事務、住民からの問い合わせ対応等、多様な業務を日々担っていることが分かっています。このような状況で、現状の課題を理解して、どの災害廃棄物対策に優先的に取組むべきかを判断し、計画的に進める手助けをするマネジメントツールがあるとよいのでは、という問題意識でSai-haiを作りました。
Sai-haiでは5つの目標状態が示してあり、その達成度を自己評価することで、組織の現状を理解することができます。例えば、「災害廃棄物処理に必要な資源を確保する」という目標状態については、その達成度を評価するための問いかけとして「仮置場候補地リストで各候補地の特徴が整理され、優先順位が判断できるようになっていますか?」等の設問を8つ用意し、それら達成度を5段階で評価していきます。ここで、1から5の評価値を選ぶ際の参考になるよう、各設問には「評価の視点」を複数示しています。先ほどの設問でいえば「候補地について現地確認が行われている」を含む4つのポイントです。これらに対して、「はい」「いいえ」で答えることで、全て「はい」になった場合は最高評価の5を付けるといったように、評価値を選びやすくしています。また、評価値の理由を「根拠」欄に記録できるようにし、例えば評価が低かった場合に具体的に何が課題であったかを、後々見返したときに分かるようにしています(図1)。すべての設問に対して評価すると、図2のようにレーダーチャート式の評価結果シートが作られ、自分たちの現状を理解・説明できるようになるのです。これをふまえ、対策の事例リスト(図3)から弱点を克服することにつながりそうな対策を参照して、次に行う対策を計画していくことができます。
ツールの利用者は主に市町村のごみ処理業務を担当する職員を想定していますが、アカウントを作成すればどなたでも無料で使うことができます。市町村で行う災害廃棄物処理のポイントを知ることができますので、ぜひ一度アクセスしてみてください。
さて、こうして作ったツールも、ホームページに載せて「ご自由にどうぞ」としてはなかなか使ってもらえません。誰がどのような場面で、どのように使うと効果的なのか、わかりやすく示してPRすることが重要です。我々が特に重視しているのは、上司、後任者、役所内外の関係者とのコミュニケーションで使っていただく場面です。災害廃棄物対策に時間や予算を割くことへの理解を得るためには、現状の課題を示して対策の必要性を分かりやすく示すことが重要です。Sai-haiを使用すれば、組織がどの点で十分な対策が取れていないかを詳細に理解・説明できるようになります。また、評価作業を進める中で、他の部署や団体に問い合わせないと適切に評価できない項目があることに気づくこともできます。さらに、過去に研修会で試行した時には、一人で評価作業を実施した後に、グループで評価結果について議論することで、評価結果に対する自信が深まっていました。議論を通して、評価の考え方(何ができていれば「5」の評価になるか、など)に対する理解が深まったことがその理由の一つと考えられます。いずれの点からも、評価作業の過程と評価後の関係者とのコミュニケーションが、組織としての災害対応力を高める効果を得るうえで重要であることがうかがえます。
現在、コミュニケーションのツールとしての効果的な利用方法を明らかにするための研究を、いくつかの市町村と協働で進めています。その中で、Sai-haiは担当者が災害廃棄物処理のポイントを体系的に理解しやすくしたり、災害廃棄物処理計画の見直しに役立ったりすることなどが分かってきています。一方で、組織の規模が大きく、災害廃棄物に関連する担当部署が細分化されていると、ごみ処理を担当する職員以外の関係者に自分事として評価作業に加わってもらうことが難しく、ひと工夫が必要になる等の課題もでています。こうしたツールが本当に社会に役立つために、作りっぱなしではなく、使ってもらうための方法や条件を整理することも重要な研究テーマなのです。
<もっと専門的に知りたい人は><関連する調査・研究>
- 多島良, 森嶋順子 (2021) 災害廃棄物対策のマネジメントに向けた基礎自治体向け評価ツールの開発. 土木学会論文集G(環境), vol.77, no.6, p.207-216
【第5期中長期計画】【第4期中長期計画】
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