けんきゅうの現場から
2019年7月号

災害で出た片付けごみはどうしたらよいのでしょう

宗 清生

片付けごみの出し方

近年、災害は毎年のように起きています。そしてどんな災害でも、しばらくして、危険な状況がなくなると、壊れたり、水浸しになったりした自宅の片づけが始まります。すると大量のごみ(「片付けごみ」と呼ばれています。なお、災害で出た片付けごみも含めた全体のごみは「災害廃棄物」と呼ばれています。)が出てきます。この片付けごみは、どうしたらよいのでしょうか。日常のごみの出し方と同じように、「燃えるもの、燃えないものに分けて、自宅前あるいは近くのごみ置場(ステ-ション)に出す」という行動でよいのでしょうか? そうではありません。「大体10種類くらいに分けて、「仮置場」という場所まで車で運び、種類ごとに決められた位置に置く」という行動が正解です。なお、「仮置場」というのは、市区町村等の行政が決める広い場所で、災害廃棄物を受け入れ、集積するところです。(図1参照)

図1 災害廃棄物の仮置場の例(ゴミが置かれている様子) 図1 災害廃棄物の仮置場の例

では、なぜ①多くの種類に分け、②仮置場まで自ら運ばなければならないのでしょうか。

先ず、①については、言い換えると、日常のごみでも分けるのは面倒なのに、自宅が被害にあって大変な状況にある被災者が、どうして多くの種類に分けなければならないのかという疑問になります。日常、家庭から出るごみも、燃えるもの、燃えないもの、その他数種類に分けていますが、それは各々を処理する施設で受け入れることのできる条件になっているのです。その条件に合わない、つまり、分けられていないと処理施設の機械(設備)が壊れたり、故障してしまったりすることになり、ごみ処理全体がストップしてしまいます。例えば、ごみ焼却施設では燃えるごみしか受け入れられませんが、燃えないものが分けられずに多く入っていると、燃えるものが少なくなるので焼却炉の中の温度が低くなったり、石油ストーブや自転車など大きくて硬い不燃物が入ると焼却炉のレンガを壊してしまったりして、うまく焼却できなくなるのです。片付けごみも同じで、種類ごとに分けられていないと、処理施設でうまく処理できません。また、片付けごみには、日常、家庭からあまり出てこない屋根瓦、壁材、柱等の建物が壊れたものも入ってますので、分ける種類も多くなります。

次に②は、日常の家庭ごみは、自宅前あるいは近くのごみ置場(ステ-ション)まで運べばよいのに、なぜ車で遠くまで運ばなければならないのかという疑問です。その理由は、被害が大きく、片付けごみの量が多い場合、行政で保有している収集車の数倍、数十倍の数が必要になり、ステ-ションなどに出された片付けごみを収集できなくなるのです。その結果、片付けごみが街中にあふれてしまい、害虫や悪臭が発生し、生活環境の悪化や公衆衛生上の支障を招くことになります。

このような事情から、被災者の方々に、ご負担をお掛けすることになりますが「分けて運ぶ作業」を、お願いしなければならなくなるのです。もちろん、高齢の方や車で運ぶことができない方には十分配慮して、特別に自宅まで収集に行くなどの対応が必要です。

被災現地の実情とこれから必要なこと

図2 混合廃棄物の例(山積みになったゴミの様子) 図2 混合廃棄物の例

実際の災害の現場では、災害が起こって直ぐはなかなか「分けて運ぶ作業」の協力が得られず、分けられてない片付けごみ(「混合廃棄物」と呼んでいます。)が、空地や仮置場などに山積みになる(図2参照)ことが度々起こっています。

被災者の方々からすれば、こんな大変な時に、どうして手間のかかることをさせるのかという率直な不満があることや、分け方に関する行政からの周知が徹底されていなかったり、分け方を指導する行政側の人が仮置場にいなかったりすること等々の問題が原因で、起こっていると考えられます。

混合廃棄物が発生し、被災自治体のみでは対応できない場合は、他の自治体や民間業者、あるいは昨年の「平成30年7月豪雨」災害のように自衛隊に収集の応援を依頼することはできますが、片付けごみが大量で、国土の広範囲に及ぶ大規模な災害になると限界がありますので、混合廃棄物を発生させないように努めることが大事です。また、混合廃棄物が発生すると、「分けて運ぶ作業」を被災者一人一人に代わって行政が行うことになりますので、被害が大きくなればなるほど膨大な時間と労力、そして経費(税金)が余分に掛かることになります。結果として、災害廃棄物の処理が遅れ、最悪の場合被災した市区町村の復興が遅れるという事態に発展してしまいます。混合廃棄物を発生させないためには、行政も住民も災害が起こる前から、災害時には「自ら分けて運ぶ作業が速やかな復興の第一歩になる」ことをよく認識し、実際に行動できるレベルにまで理解を深めておくことが重要です。被災家屋の片づけを手伝っていただけるボランティアの方々は、「分けて運ぶ作業」の大きな力になりますので、ボランティア関係組織にも同様に理解を深めていただくことは、非常に有効だと考えられます。しかし、その取り組みはほとんどなされておらず、災害が発生してから「分けて運ぶ作業」をお願いしているのが実情です。また、近年、大きな災害が断続して発生している状況や、災害はいつどこで起きるか分からないということも思い合わせれば、一刻も早く「自ら分けて運ぶ作業が速やかな復興の第一歩になる」との認識が社会の共通認識になり実践されるよう、我々研究者はもとより、社会全体で取り組みを始める必要があると考えています。

資源循環・廃棄物研究センター オンラインマガジン「環環」 資源循環・廃棄物研究センター HOMEへ戻る 国立環境研究所 HOMEへ戻る 近況 循環・廃棄物の基礎講座 循環・廃棄物のけんきゅう 循環・廃棄物の豆知識 けんきゅうの現場から 活動レポート 素朴な疑問Q&A特別企画 表紙 総集編 バックナンバー バックナンバー