バイオマス利用による地域活性化

バイオマスへの期待

石炭や石油などの化石資源は、燃料やプラスチックなどの原料として大量に採掘・消費されていますが、技術的かつ経済的に採掘できる量には限りがあります。また、化石資源を燃焼すると二酸化炭素（CO₂）を排出しますが、その蓄積が地球温暖化の主な原因だと考えられています。

化石資源にとって代わる資源の１つとして「バイオマス（総集編Vol.1, p.7「当ててみよう」参照）」が注目されています。バイオマスは生物に由来する資源のことで、採取しても再び生産される「再生可能資源」とされています。もちろん、その燃焼でCO₂は排出しますが、それは植物が大気中のCO₂を以前に取り込んで固定した炭素を放出していると考えることで、正味のCO₂排出量はゼロと見なしています。バイオマスは、農林水産物に始まり、それらを原料とする木材、紙、食品などの製品から、それらを生産する間や消費した後に発生する生ごみ、排泄物、下水汚泥などの廃棄物も含まれます。日本では特に、廃棄物となったバイオマスの利用が期待されています。

バイオマス利用による地域活性化

日本では、人口が都市に集中する一方、農村などの地域の過疎化が進行しています。そのことが地方の産業の衰退、自治体の財政悪化、社会基盤の劣化、生活水準の低下をもたらし、さらにそれが人口流出・減少につながる、という悪循環を形成しています。この悪循環を断ち切って地域を活性化することが求められています。

地域の活性化にはさまざまな取り組みが必要ですが、その一つに、バイオマス利用を通じた活性化が挙げられます。地域社会においてバイオマス利用が盛んになると、先に述べたような地球温暖化の抑制や、化石資源の代替に地域として貢献することはもちろんですが、地域内でモノやカネが循環し、地域経済の発展に寄与することも期待されます。また、バイオマス利用の重要な条件として担い手の連携が必要となりますが、そのことが地域内の人的ネットワークの形成・強化・拡大を促し、バイオマス利用事業の拡大や、関連事業の創出にもつながる可能性があります。さらには、地域への愛着などといった、数字では表しにくい価値の向上にも一役買うこともあるかも知れません。これらの効果が地域活性化の要素の一部となるのです。

資源循環・廃棄物研究センターでは、研究プロジェクト３の一環として、地域の活性化につながるバイオマス利用の効果を定量的に把握することを行っています。それを通じて、バイオマス利用による地域活性化の戦略立案手法を確立することを目標としています。今回は、バイオマス利用と地域活性化との因果関係を整理した結果を紹介します。なおこの研究は、国立環境研究所の他センターや他機関の研究者と共同で行っています。

因果関係の明確化

地域活性化の要素には定量的なものと、定量化が困難な定性的なものがあります。前者の例としては、定住人口や雇用者数、後者の例としては住民満足度が挙げられます。定性的な内容も含む要素間の関係を明確にする有効な手法として、川喜田二郎氏によって考え出された「KJ法」があります。KJ法は、複数の参加者によるワークショップ（WS）の形で行います。私たちの研究チームでは、バイオマスの利用と地域活性化の因果関係を整理するためにKJ法を参考にしたWSを実施しました。また、バイオマス利用の先進事例も調査しました。

WSと事例調査を踏まえて得られたバイオマス利用と地域活性化の因果関係の図式を図１に示します。この図では、左端にバイオマス利用の用途が示されています。中央にはバイオマス利用や地域活性化に関係する要素が配置され、要素間の関係性を矢印で表現しています。この図から、3箇所で因果関係のループが形成されていることが分かります。このループは、要素間で影響が循環し、効果が促進されることを意味します。2つ以上のループに関わる要素は特に重要で、「地域経済」、「定住人口確保」、「住民満足度向上」が該当します。これらは、バイオマス利用を通じた地域活性化を考える上で特に着目すべき要素と言えるでしょう。