循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 循環・廃棄物のけんきゅう!
2008年9月22日号

植物の力で水環境改善!

山本智子

 アジア地域における大きな環境問題の一つに液状廃棄物対策があります。特に途上国においては、生活排水(2007年3月5日号「生活排水」参照)や産業排水等の未処理もしくは不十分な処理による排出により、衛生問題や水環境問題が引き起こされています。私たちは、アジア地域において適用可能な液状廃棄物処理に関する技術システムの開発を目指し、研究を進めています(2007年11月19日号「適正な資源循環の促進のためのアジア地域での液状廃棄物対策」参照)が、途上国において衛生設備や排水処理施設を導入する上では、一般的にコストと維持管理が問題になります。電力を多く消費し、薬剤やメンテナンスに多額の費用がかかるシステムでは普及は難しいのです。

(写真)水生植物

 皆さんは、河川敷や公園の池にヨシやガマなどのいろいろな水生植物が生えているのを目にしたことはありませんか?(写真) 実は、私たちの身近な場所では、気づかないところで植物や植物の根の周り(根圏)に住んでいる微生物によって汚れた水がきれいにされているのです。(図)。水生植物の根は酸素の不足する環境に適応し生育するために、地上部から根圏部へ酸素を輸送する組織を具えていることが知られています。この根圏部に輸送された酸素は、植物だけでなく、一部の微生物によっても消費されています。植物は窒素やリンを吸収するだけでなく、微生物にとって活動しやすい環境を作り出して、汚濁物質の浄化を促進してくれています。


(図)植物と微生物による汚濁物質の浄化メカニズム

 さて、地球温暖化と水の浄化の間には深い関係があり、排水をきれいにする時にも温室効果ガスが発生することをご存知でしょうか?水処理に関連して発生する温室効果ガスは、主に二酸化炭素(CO4)、メタン(CH4)(2007年8月20日号「メタン」参照)、亜酸化窒素(N2O)です。そのうちCO2は、バイオマスの分解と消費電力の生産過程から発生します。バイオマスの分解過程で発生するCO2は、光合成により大気中から吸収したCO2に由来するため、全体として見れば大気中のCO2量を増加させていない(カーボンニュートラル)と考えられます。つまり、水処理プロセスから発生する温室効果ガスとして考慮すべきCO2は、主に消費電力の生産過程で発生するCO2になります。CH4、N2Oは汚水に含まれる炭素や窒素に由来しています。CH4やN2Oは、CO2と比べて地球を暖める力(温室効果)が強く、CH4で21倍、N2Oでは300倍とされています。

 植物を使った浄化システムはエネルギー消費が少ないことから、消費電力の生産過程で発生する温室効果ガスを抑制することができます。しかし、植物を使った浄化システムでも汚水中の有機物や窒素が分解される過程でCH4やN2Oが発生します。この時、CH4やN2Oの発生は根圏の酸素濃度に大きく影響されることがわかってきています。

 ここで、気づいた方もいるのではないでしょうか?そうです。ここで活躍するのが酸素を輸送できる植物の根なのです。CH4は嫌気条件(酸素の無い状態)で生成されますが、植物は、CH4の生成抑制や生成したCH4の酸化に寄与しています。嫌気的な場所で発生したCH4ガスは、植物の根の周りにいるCH4酸化細菌のえさとして食べられて、CH4ガスよりも地球を暖める力の弱いCO2に変えてくれるのです。N2Oについては、適度な好気条件(酸素の十分な状態)と適度な嫌気条件を作り出すことで、その発生を抑制することができます。このようなことから水生植物の根圏は、汚濁物質の浄化だけでなく温室効果ガスの発生抑制にも重要な役割を果たしていることがわかります。

 植物や微生物は、エネルギーやコストをかけずに水をきれいにする力を持っています。しかし、現在では汚濁物質が多すぎて、自然が持つ自浄作用ではその力が及ばなくなっています。そこで、私たちは、工学の力を加えることで自然本来の力を強化し、自浄作用よりも効率的に汚濁物質をきれいにできる技術の開発を目指しています。植物の種類によって根圏の状態が異なることに着目し、色々な植物の持つ力を理解しようと試みてきました。数種類の植物の水質浄化効果を比べてみると、有機物の除去は植物種に関わらず高い効果が得られました。窒素やリンの除去は植物種によって効果に差が見られました。より好気的な根圏を作り出せる植物は窒素浄化効果が高く、特に、ヨシやカンナを植えると浄化効果と温室効果ガス抑制効果が高いということがわかってきました。また、N2OやCH4の発生も根圏が好気的な植物では発生速度が遅い可能性が出てきました。もっと詳しく知るために根圏の微生物群集構造を解析しています。

環環ナビゲーター:りえ

 生物学的な制御以外にも、物理学的な制御として、汚水の流し方を変える方法があります。土壌より水位を高くして水を流す表面流方式(土壌は嫌気的)や、水位を低くし、土壌の中を水平に浸透させる浸透流方式、または垂直に浸透させる垂直流方式(両者とも土壌は好気的)などがあります。それぞれの特徴を活かして湿地を組み合わせ、土壌を水処理に適した好気・嫌気状態に近づけることで浄化性能が向上することもわかってきました。生物学的な制御には限界があるため、今後は物理学的な制御と生物学的な知見を生かしたシステム作りを考えていく必要があります。

 また、私たちは人工湿地で排水浄化に活用した植物バイオマス(2007年1月9日号「バイオマス」参照)をバイオエタノール、肥料、家畜のエサなどに資源化して循環利用する排水処理システムの構築に向けて研究を進めていきます。

<もっと専門的に知りたい人は>
  1. Inamori, R., et al.: Investigating CH4 and N2O emissions from eco-engineering wastewater treatment processes using constructed wetland microcosms. Process Biochemistry 42, pp.363-373, 2007.
関連研究 中核研究4
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