循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 循環・廃棄物のけんきゅう!
2010年11月1日号

日本が海外に依存する温室効果ガス排出量

南斉規介

 日本は気候変動枠組条約に基づく京都議定書に批准し、6種類(CO2、CH4、N2O、CFCs、PFCs、SF6)の温室効果ガス(GHG: Greenhouse gas)排出量を2008年から2012年までの間に1990年と比べて6%削減することを約束しました。皆さんは日本のGHG排出量がどれくらいかご存知でしょうか? 1990年からのGHG排出量がどう変わってきたかは、国立環境研究所の温室効果ガスインベントリオフィス(GIO)のホームページを見ると分かります。1990年は12.613億トンでしたが、2007年まで伸び続けて13.690億トンに達しました。しかし、2008年に起きたリーマンショックによる経済不況を引き金に生産量や消費量が落ち込んだことを受け、2008年では12.818億トンとなっています。

Dr.グッチー&りえ

 この約13億トンのGHGは日本国内の生産と消費活動によって生み出されたものです。一方、日本は天然資源の乏しい国で、その多くを海外からの輸入に頼っています。例えば、2006年において、原油の輸入依存率は99.6%、天然ガス96.4%、石炭99.0%、鉄鉱石100%、銅地金100%、アルミ地金100%ととても高い数字です。少し考えると、これらの資源は日本へ運ばれてくる前に、既に採掘や加工、輸送の段階でエネルギーを使い、CO2を海外で排出していることに気付きます。

 もちろんこれは資源に限った事ではありません。食材や衣服、工業製品の部品から住宅の資材まで、いろいろな輸入品を目にしますが、それらを作るために排出されたGHGは海外で発生するもので、先の約13億トンの排出量の中には入っていません。では、日本はいったいどれくらいのGHGを国外で排出しているのでしょうか?

 今、このような一国の経済活動に伴い世界で排出されるGHGを計測する研究が、国内外(欧州、米国、オーストラリア等)で精力的に行われています。計測といっても、測定機器があるわけではないので、分析モデルを作り必要なデータを整備して計算によって排出量を推計します。日本を推計した例を紹介しますと、世界を87の国や地域に分けたPeters と Hertwichの推計結果では、2001年の日本は5.60億トンのGHGを国外で排出しています。また、113の国や地域に区分したDavis と Caldeira の推計結果では、2004年は4.68億トン(化石燃料の燃焼起源のCO2のみを対象)と見積もっています。

 こうした国外排出量の計算は、多地域間産業連関モデル(Multi-regional input-output model: MRIO)という膨大なデータを必要とするモデルを用います。この計算のためには、ある国である製品を一つ作るために国内および国外からどのような素材や部品をどれだけ買ってくるかを示すデータと、それを製造する現場でGHGがどれだけ排出されるかを示すデータを、あらゆる製品やサービスについて国ごとに整備することが必要です。そのため、欧州ではEXIOPOL(A new environmental accounting framework using externality data and input-output tools for policy analysis)プロジェクトやWIOD(World input-output database)プロジェクトのように数億円の研究費を掛けて、モデル開発、データ整備、実証分析を行っている例もあります。その一方で、データ整備にかかるコストや労力を下げる方法論やツールの開発に取り組んでいる研究グループもあります。

 私達の研究グループも、データ整備の手間を簡略化しながらも、日本のグローバルなGHG排出量を詳細に分析するためのモデル(Global link input-output model: GLIO)を開発しています。紹介した2つの先行事例では,世界各国を同じ詳しさで記述するため、日本は57部門の産業で構成されています。一方、開発しているGLIOでは,日本に焦点を当てる構造で、日本を約400部門の産業で表現することが特徴です。部門を細分化することで、産業レベルでのグローバルGHGではなく、商品レベルでのグローバルGHGを推計することが可能です。

 例えば、図は日本のアルミ圧延製品(アルミ缶の材料)の生産によるCO2排出量の世界分布(2000年)を試験的に推計した結果です。百万円相当の生産をすると、ロシアやオーストラリア、中国、南アフリカ共和国へCO2排出を誘発すること示唆しています。見方を変えれば、日本は、こうした国々に資源だけなくCO2排出も依存していると言えるでしょう。ですから、日本でアルミ缶をリサイクルすることは、これらの国のGHGを減らす、つまり排出の海外依存を下げることに繋がりますね。

図 日本における「アルミ圧延製品」の生産(百万円相当)に伴う誘発CO2排出量の世界分布(2000年)

 現在、私達の研究グループは、いろんな商品やサービスについて上記のような分析を行い、日本の生産消費システムとグローバルなGHG排出との関係を明らかにしています。また、推計精度を上げるためのデータ整備を続け、GHGだけなく、他の環境に負荷を与える物質や消費される天然資源の量に関する分析も進めています。

 さて最後に、近頃は円高の影響で輸入品の食材や衣服などが安く買えますね。商品を手にしたら、どの国でどれくらいのGHGを排出してきたのか、想像してみるのもいかがでしょうか?

<もっと専門的に知りたい人は>
  1. Nansai, K. et al.: Improving the completeness of product carbon footprints using a global link input-output model: the case of Japan, Economic Systems Research, 21(3), pp.267-290, 2009.
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