以前の記事で、マイクロプラスチックの発生には、プラスチック製品の劣化が深く関係していることをお話ししました。
今回は、海岸に漂着したプラスチックごみがどれだけ劣化しているのか、現地調査の様子も踏まえてご紹介しようと思います。
2022年10月上旬、沖縄県石垣島でマイクロプラスチックの調査を行いました。主な調査目的は、(1)河川水に含まれるマイクロプラスチックの回収、(2)海岸砂に含まれるマイクロプラスチックの回収、(3)海岸に漂着したプラスチックの回収、の3つです。今回は(3)をメインにご紹介します。
海岸は特にマイクロプラスチックが発生しやすい場所だと言われています。紫外線によってプラスチックが劣化しやすく、波や岩石等との衝突によって劣化したプラスチックからマイクロプラスチックが放出されるためです。沖縄のように温暖で日光が強い地域であれば、プラスチックの劣化は特に進みやすいと考えられます。
実際に海に行って初めて気づくことも少なくありませんでした。まず、海岸に漂着したプラスチックごみの量は、場所によって大きく違っていました。例えば、石垣島北側の一部海岸では多くのプラスチックごみが見つかりました(図1)が、近隣の海岸ではプラスチックごみはわずかでした。海岸の地形が凹の形になっているとプラスチックごみが集まりやすいようです。次に、ごみの量だけでなくごみの国籍も場所によって変化しました。島の北側では中国語と見られる商品ラベルが多く見られた一方で、島の南側では国内の商品と見られるごみが集まっていました(図2)。軽いプラスチックごみは海を渡って汚染を広げてしまうようです。そして、海岸でマイクロプラスチックを回収する時の意外な強敵となったのは、軽石です(図3)。見た目が白っぽいためプラスチックと見間違えやすく、しかも水より軽いため比重分離※1 で取り除くことも難しかったのです。私は結局、ピンセットで軽石を除きながら1つ1つマイクロプラスチックを拾い集めていました。他にも、植物、貝、プランクトン等がプラスチックにくっついて分析の邪魔をすることも多く、現在も頭を悩ませています。
このような苦労を乗り越えて、ようやく劣化したプラスチックを入手できます。
次に、プラスチックの劣化した様子を顕微鏡で観察した結果(ここでは、劣化観察と呼びます)をご紹介します。あいにく石垣島のプラスチックはまだデータが揃っていないため、今回は山口県の海岸で拾ったプラスチックで劣化観察を行いました。
図4は、ポリプロピレン製のポリバケツを光学顕微鏡※2 と走査型電子顕微鏡※3 で観察したものです。表面に無数のひび(クラック)が出来ていることが分かります。また、ポリバケツの断面を観察してみると、クモの巣のように無数のクラックがプラスチックの中に出来ていることが分かりました。わずかな衝撃でも容易に割れてマイクロプラスチックが発生してしまうでしょう。
このように、プラスチックの劣化によってクラックが成長してもろくなることを「脆化(ぜいか)」といいます。もろくなったプラスチックは小麦粉くらい細かいマイクロプラスチック(直径100 μm以下)を放出し続ける状態であり、深刻なマイクロプラスチック発生源と言えます。
その一方で、ポリエチレンテレフタレート製の卵パックやペットボトルにはクラックがほとんど出来ていないことが分かりました(図5)。卵パックなんて、あまり頑丈そうには見えませんが、日光には意外と強いのかもしれません。このように、プラスチック製品の原料によって劣化の様子が全く異なることが分かったのです。
プラスチックが劣化してマイクロプラスチックを放出する仕組みについては、ここで紹介したひび(クラック)の他にも、まだまだ多くの謎が残っています。その仕組みを解明するためには、この「脆化」を理解することが不可欠です。身近なプラスチック製品に起きている、目に見えない小さな変化を、これからも観察し続けようと思います。
最後になりますが、本記事の調査には沖縄県衛生環境研究所の比嘉元紀様および山口県環境保健センターの梶原丈裕様にご協力を頂きました。深くお礼申し上げます。
(参考資料)
- 鈴木剛、宇智田奈津代ほか: 河川・海岸砂マイクロプラスチックの物理・化学的評価に基づく汚染実態把握(1), 第2回環境化学物質3学会合同大会要旨集(2023), P-017, pp.415-416.
- Takahashi et al.: Cross-sectional microstructural analysis to evaluate the crack growth pattern of weathered marine plastics, Chemosphere, 331, 138794, 2023. https://doi.org/10.1016/j.chemosphere.2023.138794
- 初心者でもわかる!マイクロプラスチック研究〜もっと細かいナノプラはどうやって測るの?(国立環境研究所動画チャンネル)、https://youtu.be/NId31MzY_H8
- 10分で要点をつかむ! 環境省 河川マイクロプラスチック調査ガイドライン(国立環境研究所動画チャンネル)、https://youtu.be/69R5b2VUPDc
- 沖縄県 海岸漂着物対策について
https://www.pref.okinawa.jp/site/kankyo/seibi/ippan/marine_litter/index.html- 山口県 やまぐち海洋ごみアクションプラン
https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/soshiki/40/20770.html