けんきゅうの現場から
2023年6月号

海岸漂着プラスチックの「もろさ」をみる ~現地調査でわかったこと~

高橋 勇介

以前の記事で、マイクロプラスチックの発生には、プラスチック製品の劣化が深く関係していることをお話ししました。
今回は、海岸に漂着したプラスチックごみがどれだけ劣化しているのか、現地調査の様子も踏まえてご紹介しようと思います。

石垣島の海岸でごみ拾い

2022年10月上旬、沖縄県石垣島でマイクロプラスチックの調査を行いました。主な調査目的は、(1)河川水に含まれるマイクロプラスチックの回収、(2)海岸砂に含まれるマイクロプラスチックの回収、(3)海岸に漂着したプラスチックの回収、の3つです。今回は(3)をメインにご紹介します。

海岸は特にマイクロプラスチックが発生しやすい場所だと言われています。紫外線によってプラスチックが劣化しやすく、波や岩石等との衝突によって劣化したプラスチックからマイクロプラスチックが放出されるためです。沖縄のように温暖で日光が強い地域であれば、プラスチックの劣化は特に進みやすいと考えられます。

実際に海に行って初めて気づくことも少なくありませんでした。まず、海岸に漂着したプラスチックごみの量は、場所によって大きく違っていました。例えば、石垣島北側の一部海岸では多くのプラスチックごみが見つかりました(図1)が、近隣の海岸ではプラスチックごみはわずかでした。海岸の地形が凹の形になっているとプラスチックごみが集まりやすいようです。次に、ごみの量だけでなくごみの国籍も場所によって変化しました。島の北側では中国語と見られる商品ラベルが多く見られた一方で、島の南側では国内の商品と見られるごみが集まっていました(図2)。軽いプラスチックごみは海を渡って汚染を広げてしまうようです。そして、海岸でマイクロプラスチックを回収する時の意外な強敵となったのは、軽石です(図3)。見た目が白っぽいためプラスチックと見間違えやすく、しかも水より軽いため比重分離※1 で取り除くことも難しかったのです。私は結局、ピンセットで軽石を除きながら1つ1つマイクロプラスチックを拾い集めていました。他にも、植物、貝、プランクトン等がプラスチックにくっついて分析の邪魔をすることも多く、現在も頭を悩ませています。

このような苦労を乗り越えて、ようやく劣化したプラスチックを入手できます。

  • ※1 比重分離: 物体の比重(密度)の差を利用して、ねらった物体を回収する方法。海岸で回収したプラスチックを水に投入すると、軽いプラスチックは水に浮く一方、プラスチックに混入・付着した砂や石は水に沈むため、プラスチックだけを回収できる。
    なお国立環境研究所の調査では、普通の真水ではなく、汚れを除いた海水やヨウ化ナトリウム水溶液を使用している。
図1 海岸に漂着したプラスチックごみ(石垣島) 図1 海岸に漂着したプラスチックごみ(石垣島)
  • 石垣島の海岸(北側)石垣島の海岸(北側)
  • 石垣島の海岸(南側)石垣島の海岸(南側)
図2 海岸漂着ごみの回収場所による違い
図3 海岸に漂着したマイクロプラスチック
図3 海岸に漂着したマイクロプラスチック
色が濃いプラスチックに比べ、白色マイクロプラスチックは無数の小さな軽石に紛れてしまって回収が難しい

海岸漂着プラスチックの劣化観察

次に、プラスチックの劣化した様子を顕微鏡で観察した結果(ここでは、劣化観察と呼びます)をご紹介します。あいにく石垣島のプラスチックはまだデータが揃っていないため、今回は山口県の海岸で拾ったプラスチックで劣化観察を行いました。 

図4は、ポリプロピレン製のポリバケツを光学顕微鏡※2 と走査型電子顕微鏡※3 で観察したものです。表面に無数のひび(クラック)が出来ていることが分かります。また、ポリバケツの断面を観察してみると、クモの巣のように無数のクラックがプラスチックの中に出来ていることが分かりました。わずかな衝撃でも容易に割れてマイクロプラスチックが発生してしまうでしょう。

このように、プラスチックの劣化によってクラックが成長してもろくなることを「脆化(ぜいか)」といいます。もろくなったプラスチックは小麦粉くらい細かいマイクロプラスチック(直径100 μm以下)を放出し続ける状態であり、深刻なマイクロプラスチック発生源と言えます。

その一方で、ポリエチレンテレフタレート製の卵パックやペットボトルにはクラックがほとんど出来ていないことが分かりました(図5)。卵パックなんて、あまり頑丈そうには見えませんが、日光には意外と強いのかもしれません。このように、プラスチック製品の原料によって劣化の様子が全く異なることが分かったのです。

プラスチックが劣化してマイクロプラスチックを放出する仕組みについては、ここで紹介したひび(クラック)の他にも、まだまだ多くの謎が残っています。その仕組みを解明するためには、この「脆化」を理解することが不可欠です。身近なプラスチック製品に起きている、目に見えない小さな変化を、これからも観察し続けようと思います。

最後になりますが、本記事の調査には沖縄県衛生環境研究所の比嘉元紀様および山口県環境保健センターの梶原丈裕様にご協力を頂きました。深くお礼申し上げます。

  • ※2 光学顕微鏡: 光学レンズを用いて、肉眼またはデジタルカメラを通して対象物を拡大観察する顕微鏡。一般的に顕微鏡といえば光学顕微鏡を指す。
  • ※3 走査型電子顕微鏡: 対象物に電子線を当てて観察を行う顕微鏡。光学顕微鏡に比べて高倍率で観察できるが、色情報が失われる・真空中で観察する必要がある、といった問題点がある。
図4 ポリプロピレン製ポリバケツの劣化観察(山口県の海岸で回収) 図4 ポリプロピレン製ポリバケツの劣化観察(山口県の海岸で回収)
図5 ポリエチレンテレフタレート製品の断面の劣化観察(山口県の海岸で回収) 図5 ポリエチレンテレフタレート製品の断面の劣化観察(山口県の海岸で回収)
(参考資料)
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