最近、新聞やニュースで使い捨てプラスチックに関する記事をよく見かけるようになりました。昨年7月からレジ袋が有料化され、今年3月には「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律案」が閣議決定されたように、使い捨てプラスチックの使用量を削減するための政策が進められています。
循環・廃棄物のけんきゅう「陸上の廃棄物が海洋マイクロプラスチックになるという話」に書かれている通り、使い捨てプラスチックはマイクロプラスチック(MP)問題と深く関わっています。プラスチック製品が河川や海洋中に放出されると劣化して小さな欠片となり、MPの流出源となってしまうためです。また、プラスチックが強い熱や日光を浴びていると劣化が進行してMP流出量がさらに増えます。プラスチックの劣化は、いまや世界中の研究者が注目するテーマの一つと言っていいでしょう。
プラスチックの劣化を調べる方法は色々ありますが、最も基本的で重要な方法が「見た目の変化を観察すること」です。この記事ではこれを「劣化観察」と呼ぶことにします。今回は「電子顕微鏡」を使ったプラスチックの劣化観察についてご紹介します。
顕微鏡で大事なことは「高い倍率で」「鮮明に」観察できること。肉眼では新品とあまり変わらないように見えるプラスチックでも、実は目に見えない小さなキズによってボロボロに劣化している場合もあるのです。
高倍率の観察によく用いられるのが走査型電子顕微鏡(SEM)と呼ばれる装置です。SEMなら1万倍以上の倍率での観察も可能ですが、「電気が流れない物質の観察は苦手」という弱点があるため、プラスチック表面に金属を薄くコーティングするといった対策が必要になります。
実際の写真を見てみましょう。図1は防水シートに使われたポリエチレン不織布の写真です。新品の不織布(図1左)と屋外で日光を浴びた不織布(図1右)を比べてみても、大きな違いは無いように見えます。しかし、その不織布を1000倍に拡大した走査型電子顕微鏡写真(図2)では様子が異なります。新品の不織布(図2左)に対して、屋外で日光を浴びた不織布(図2右)は劣化して無数の小さなキズが出来ていることが分かります。さらにもう一つ、図3は屋外で劣化した電線ケーブル被覆材の1000倍写真です。大きなひび(クラック)が観察され、不織布とは劣化の様子が異なります。劣化したプラスチックが雨で洗い流されたり、風に飛ばされたりすることでMPが流出しますが、このケーブル被覆には難燃剤等の添加物が含まれているため、MPだけでなく添加物の流出量も増大すると予想されます。
このように劣化観察で得られた情報は、プラスチックの劣化を理解する上で重要なヒントになります。プラスチック製品が抱える諸問題に対応する上で、劣化観察の技術は今後ますます重要になってくるでしょう。(おわり)
- 中谷 久之: 海域と陸域におけるプラスチック微細化機構の違い、環境省令和2年度海洋プラスチックごみ学術シンポジウム、2021年3月3日、
http://www.env.go.jp/water/b-3_nakatani_nagasaki_univ.pdf- 株式会社日立ハイテク: SEMと友だちになろう、
https://www.hitachi-hightech.com/jp/science/products/microscopes/request/sem_guide/