けんきゅうの現場から
2013年9月号

災害廃棄物・放射能汚染廃棄物への取組~これまでとこれから~

松崎 裕司

東日本大震災が発生して2年半が経過しました。私達資源循環・廃棄物研究センター(以下「循環センター」)では、東北3県沿岸域を中心に大量に発生した災害廃棄物や津波堆積物、そして、原発事故に伴い東北・関東域の広範囲に発生した放射性物質に汚染された廃棄物・土壌(以下「放射能汚染廃棄物」)の処理に関する技術的課題の解決に向けた調査研究活動を行ってきました。

その活動の様子については、この「環環」で、筆者のこれまでの記事(一昨年7月号昨年9月号)で概要を紹介したほか、様々な研究者がそれぞれ携わっているテーマに焦点を当てて紹介してきました。個別のテーマに関するトピックスの紹介はそれら関連記事をご覧いただくこととして、今回は、災害廃棄物と放射能汚染廃棄物に関する循環センターの現在の研究活動の全体像と今後の展開などについて紹介したいと思います。

放射能汚染廃棄物への対応

放射能汚染廃棄物の問題は多岐にわたり刻々と変わっていくため、機動的かつ組織的な対応が求められます。循環センターでは、一昨年秋にセンター内で「災害・放射能汚染廃棄物等対策チーム」を編成し、各研究室メンバーが組織横断的に参画して、調査研究を進めています。この対策チームでは、出口指向の(=成果の活用を意識した)研究テーマを以下のように各種設定し、処理処分・再生利用全体を通じた体系的な活動ができるよう、チーム内での情報共有・テーマ間の連携も意識しながら、機動的な調査研究・行政支援活動を展開しています。

<放射能汚染廃棄物に関する研究テーマ>
  • ① 放射性物質の基礎物性・挙動メカニズムの解明
  • ② 処理処分・再生利用技術の開発・高度化・評価(熱処理減容化/洗浄・水処理/不燃系等減容化/コンクリート技術適用/廃棄物・土壌処分技術手法)
  • ③ 処理処分施設の長期的管理・解体廃止等技術の確立(焼却等施設/最終処分場)
  • ④ 測定分析・モニタリング技術の確立
  • ⑤ フロー・ストックの把握・管理システムの最適化
  • ⑥ リスクコミュニケーション手法の確立

それぞれの具体的な活動内容(目的や研究内容、昨年度までの研究成果、今後の研究概要)については、当研究所の東日本大震災関連ページにスライド形式で掲載していますので、是非ご覧ください。

大震災後の2年半で、福島県等各地での除染や汚染廃棄物処理が少しずつ進んでいます。しかし、先日国により公表された総点検結果にもあるように、特に国直轄地域では様々な事情があって市町村間で進捗に差が生じており、今年度中の除染や災害廃棄物処理の完了が困難な状況となっています。

これまで(特に最初の1年間)は、放射能汚染廃棄物に関する知見が圧倒的に不足している状況の中で、実態把握や基準・指針策定に必要な基礎的データ・知見の集積に注力してきました。今後は、特に福島県内での除染・処理の更なる加速化が求められていく中で、除染廃棄物の仮置場での管理、中間貯蔵施設や指定廃棄物最終処分場の施設設計に関して技術的なボトルネックとなる(又はなり得る)課題を的確に捉え、その解消のために必要な調査研究を引き続き進めていきます。これに加え、これまで得てきた多くのデータ・知見の一般化・体系化を意識した技術資料の策定・改定や成果発信も行い、放射能汚染廃棄物の処理推進に貢献していきたいと思います。

災害廃棄物への対応

イラスト:しげる

国の発表によると、東北3県の沿岸市町村の災害廃棄物の7月末時点での処理は3県全体で約8割まで進んでいます。宮城・岩手両県では今年度末という目標期間内でできるだけ早期の処理完了を目指しており、また、福島県(避難区域を除く)では今年度内に仮置場への搬入を完了させ、処理については一部地域で今年度内に、他の地域でもできるだけ早期の処理完了を目指しています。

その一方で、今後、南海トラフ巨大地震や首都直下地震による大規模災害の発生が懸念されています。内閣府の推計では、前者では最大2億5,000万トンの災害廃棄物と最大5,900万トンの津波堆積物、後者では最大9,600万トンの災害廃棄物が発生するとされており、東日本大震災の教訓を十分踏まえた上で、国の総力を結集させた取組・対策が求められています。

循環センターでは、東日本大震災直後から1年間を中心に、関係機関・研究者等と連携し、各種技術情報の提供、現場重視の緊急調査研究、多数の現地踏査に基づく技術的助言・指導などを実施しました(具体的な内容はこちらを参照)。その後は、今後の大災害発生に対する備えへの対応も強く意識し、対策チームの一部メンバーが中心となり、以下のような幅広い研究テーマを設定し、順次調査研究を実施又は着手しています。

<災害廃棄物に関する研究テーマ>
  • ① 災害廃棄物処理技術システムの確立(石綿適正管理手法/中間処理技術評価)
  • ② 災害時の生活排水分散型処理システムの確立
  • ③ 災害廃棄物・津波堆積物や建設産業副産物の利活用技術等の確立
  • ④ 災害廃棄物の量的質的推計・管理システムの構築
  • ⑤ 災害廃棄物処理に関する制度・マネジメント手法の確立/情報プラットフォームの構築/人材育成プログラムの開発

先に紹介した当研究所の東日本大震災関連ページに、昨年度までの活動成果事例をスライド形式で掲載していますので、こちらもご参照ください。

将来の大規模災害時における災害廃棄物の問題に適切に対応するためには、今回の東日本大震災での取組や得られた貴重な経験・知見を確実に活かしていかなければなりません。その際、処理処分・再生利用技術や管理手法等の技術・ハード面のみならず、制度・マネジメント・情報・人材といったソフト面も含めて多角的に分析・検証し、次に活用できるようなレベルまで明文化・体系化し、実際の制度・仕組み・指針・プログラムに反映・実装するところまでやり抜くことが重要となります。そのためには、国・自治体をはじめ産・学の関係機関も含めて一体となって取り組む必要があります。私達循環センターとしても、東日本大震災での災害廃棄物対応を通じて得た経験・知見を最大限活用し、これらの検証・体系化・実装への取組を積極的に進めていき、災害に強い技術・社会システムづくりに向けて廃棄物・資源循環分野からでき得る限りの貢献をしていきたいと思います。

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