循環・廃棄物のけんきゅう
2012年12月号

放射性物質に汚染された廃棄物のコンクリート容器への保管

山田 一夫

はじめに

今回は、コンクリート製の容器へ、放射性物質に汚染された廃棄物を入れるという話をします。丈夫なコンクリートの箱なら安心な感じがしませんか?

廃棄物といっても色々あります。特に、資源循環・廃棄物研究センター(循環センター)では、放射性物質汚染廃棄物の焼却処理によって発生した「焼却飛灰」をコンクリート容器で安全に保管する技術開発を行っています。

コンクリートって?

図1 コンクリートの断面像(75mm角) 図1 コンクリートの断面像(75mm角)

コンンクリートを知らない人はいないでしょう。硬くて丈夫で長持ちする人工の石。高層アパートの多くは鉄筋コンクリート製です。灰色で人工的で嫌い、という人もいるかもしれませんが、鉄筋コンクリートの建物で育った人は案外慣れ親しんでいます。しかし、「コンクリートが何からできているか?」は知らないかも。

コンクリートは、セメントと水と骨材(石や砂)を練り混ぜてフレッシュコンクリート(生コン)を製造し、生コン車で運搬してやわらかいうちに型枠に流し込み、セメントが水と反応し固まっていき、できあがります。水が少ないほど強いコンクリートになりますが、型枠へ流し込みにくくなります。そこで減水剤もしくは高性能減水剤という薬品をあらかじめ混ぜることで流動性を高めます。なお、街で見かけるのは生コン工場で、セメント工場は日本には30あるのみです。

コンクリートの断面の画像を図1に示します。最大20mmの石(粗骨材)、粒径5mm以下の砂(細骨材)、それを埋める灰色のマトリックス(セメントと水が反応してできた水和生成物)、および丸い白く見える気泡からなっていることがよくわかります。

焼却飛灰

日常生活に伴い必ず多様なごみが発生します。国土が狭い日本では、それらを焼却・減容化します。焼却によりごみの大部分はガスとなり、質量で約1割が灰となります。例えば、最も多く普及しているストーカ式焼却では灰の約7割は焼却炉の底に溜まり(主灰)、約3割が焼却排ガスと共に巻き上がり(飛灰)、バグフィルターで補足されます。ごみには塩素が含まれ、焼却により塩化水素が発生します。この酸性ガスの中和に消石灰(Ca(OH)2)が用いられ、塩化カルシウム(CaCl2)が生じ、これらの物質が飛灰に多く含まれます。その他、飛灰には塩化ナトリウムや塩化カリウムなど、質量で1~3割の水溶性塩類が含まれます。別の処理方法の施設もあり、CaCl2を含まない場合もあります。なお、鉛などの重金属も飛灰により多く含まれます。

放射能汚染

イラスト:じゅん

2011年3月の福島第一原子力発電所事故由来の放射性物質のうち、半減期の比較的長い放射性セシウム(Cs)(正確には、134Cs〔半減期2.0652年〕と137Cs〔同30.1年〕)が問題です。現在、環境中で放射性Csは粘土を含む土壌や草木に 含有されていると考えられています。土壌や草木がごみに排出され焼却されることで、放射性Csは灰に移行します。飛灰は主灰の約5倍の放射性Cs濃度です。Csは主灰からは溶出しにくいのですが、飛灰には塩化セシウム(CsCl)として含まれると推定されており、ほぼ全部が水溶性です。放射能レベルにもよりますが非水溶性の放射性Csは、遮蔽ができれば管理型処分場で安心して処分できます。しかし、水溶性Csは溶出したCsが外部へ漏れ出さないように処分する必要があり、その方法として、コンクリート技術の適用を目指しています。

なお、コンクリート容器は放射能の遮蔽にも有効で、普通コンクリートなら約20cm厚さで9割低減します。遮蔽能力は遮蔽物の密度にほぼ比例するので、密度が2倍の重量コンクリートなら半分の厚さで同じ効果が得られます。密度が約5倍の鉛なら1/5です。

コンクリートの弱点とその克服

しかし、放射性Csの浸透を遅くし放射能を遮蔽するコンクリートにも次のような弱点があり、コンクリート容器の適用にあたっては、それぞれに対応しなければなりません。ひび割れがあるとそこからCsが漏れ出すからです。

コンクリートは圧縮の力に対してはとても強いですが、引張の力には弱いのです。そこで引張に強い鉄筋と組み合わせて、鉄筋コンクリートとして使います。コンクリートの結合材であるポルトランドセメントは水と反応して次第に強度が高くなりますが、その際にCa(OH)2が生成して、アルカリ環境になるのです。このアルカリ性は、鉄筋の腐食を防止する役割を持っています。このように、鉄とコンクリートの欠点をお互いに補うことで、丈夫で長持ちします。

しかし、施工直後から、また数年から数10年たつうちに ひび割れや、強度が低下する場合もあります。やや専門的な書き方になりますが、主な現象を以下にあげます。注意して街を見渡すとこのような例はあちこちにあり、場所にはよりますが決して特別ではありません。

1) 温度ひび割れ:セメントの硬化反応は発熱、温度上昇を伴います。この温度上昇により、コンクリートと周囲の温度差が大きくなりすぎると、コンクリートは硬化反応を終えた、冷える段階で収縮しひび割れることがあります。

2) 乾燥収縮ひび割れ:セメント硬化体は 乾燥により収縮し、コンクリートは長さの比で400~1000μ程度縮みます。1mの棒を考えると0.4~1mmの収縮ひび割れが入ることになります。

3) 鉄筋腐食:鉄は酸素があるとさびるのですが、アルカリ性の中では不動態皮膜と呼ばれる膜で酸化から防護されています。しかし、大気中の二酸化炭素によるセメントの水和でできたCa(OH)2の炭酸化反応でアルカリ性が中性に変わったり、外部からの塩化物イオン浸透により不動態皮膜が破られたりすると、鉄がさび始め、膨張したさびでコンクリートはひび割れます。

4) アルカリ骨材反応:骨材にはアルカリと反応しやすいものがあり、そのような骨材を使用するとコンクリート内部のアルカリ性により膨張性のゲルを生成し、数mmものひび割れが入ることがあります。

普通に作っていては上記の弱点は克服できません。ところが石炭火力発電所から排出する石炭灰(フライアッシュ)をコンクリートに適当量(例えばセメントの2~3割)添加し、高性能減水剤により水を減らせば課題を相当程度は解決できます。これは、フライアッシュを混ぜることで、セメントの発熱が減り温度ひび割れが少なくなり、さらにアルカリ性が若干低下することでアルカリ骨材反応が減ります。高性能AE減水剤を用いることでより緻密で強いコンクリートとすることができ、腐食の原因となる塩素の浸透も抑制できます。乾燥収縮を減らすには適切な骨材を選択することがポイントです。

コンクリート中のセシウムの移動

さらに、コンクリートの中へ放射性Csが染みこんだ場合の、浸透移動が問題となります。適切なコンクリートであれば実際の移動速度は遅いと予想されるのですが、保管が半永久的であることを考えると、その速度を予測することはとても重要な課題となるのです。そこで循環センターでは、コンクリートへのCsの浸透速度評価を行っています。

セメントにもいくつかの種類があり、最も使用量が多い普通ポルトランドセメントと先に述べたフライアッシュを混合したフライアッシュセメント、さらに溶鉱炉から出てくる高炉スラグを混合した高炉セメントではCsの浸透速度がまったく異なります。

これは、これらのセメントから生成する水和物の組成とその組織が異なるためと考えられます。この現象を解析し、モデル化することでコンクリート内部での移動予測ができるようになります。コンクリート容器で放射能汚染したごみを保管して安全なのか? 半年後には、その実測の結果をご紹介したいと思います。

おわりに

不幸にも放射能汚染が起きてしまいました。放射性物質に汚染された廃棄物は不安かもしれません。しかし、すでに汚染されているので、何とかしなければいけません。不安と思うのではなく、どうすれば安全に処理でき、安心を手に入れることができるのか、みんなで考えていくことが大切です。

コンクリート容器に入れれば安心、というのではなく、なぜ安心なのか?どれくらいの期間大丈夫なのか?それを予測するにはどうすればよいのか?を考えていく必要があります。技術の詳細はなかなか難しいもので、専門家に任せる必要がありますが、専門家が考えた安全が、皆さんの安心に繋がることが必要です。

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