近況
2011年7月号

非常時の対応力

大迫 政浩

環環は暫く充電期間を頂いていましたが、本号から再スタートします。新しい体制でさらに充実した内容を読者の方々にお届けしたいと思います。

さて、東日本大震災からの復旧・復興に向けた懸命な努力がなされていますが、災害廃棄物処理の問題に取り組んできたこれまでの4ヶ月間に感じた「非常時の対応力」について、率直にお話したいと思います。

1.「非常時の体制」について

日本では、縦割りでの責任・役割分担の下で個別に緻密な法制度や行政組織がつくられています。しかし今回の震災では、それらが機能しない面が多くあることがわかりました。福島県の原発事故により、ガレキ、上下水汚泥、土壌などが放射性物質で汚染されました。それらの処理や汚染除去の観点からは、汚染物として一体的な扱いが合理的であると考えられます。しかし、平常時はそれぞれが異なる府省・部局において別々の法律で扱われているので、非常時には相互の意思疎通や連携がなかなかしにくい状況です。その点が、少なからずこれら汚染物への対応の進捗に影響しているのではないでしょうか。非常時には、強いリーダーシップの下に権限を一元化した体制をつくっていくことが良いのではないかと感じます。

また、非常時には、政治や行政だけでなく、民間企業の経験やノウハウも機動的に活かすことができる体制づくりが必要だと思います。今回の大震災は想像をはるかに越えた災禍であり、その対応のためにはあらゆる立場から「知」を結集し、復旧・復興に向けた構想と戦略・戦術、そしてスケジュールを早期に描く必要がありました。人・モノ・カネをいかに機動的に動かしていくか、その判断のための情報をいかにスピーディかつ効率的に収集していくかが鍵になります。まさにマネジメントの原則であり、そのような感覚は民間企業のほうが長けています。今回の災害廃棄物処理の場合には、市町村がその処理を担うことになりましたが、被災により行政機能も低下しており、ましてや今回の震災は未曾有のものであり、通常の行政の体制では到底対応できるものではありません。早期からコンサルタント企業などの支援が円滑になされるような体制づくりが必要であったと思います。

2.「非常時の意思決定」について

平常時の行政上の意思決定は、平常時の「社会のバランス」の下に定められた法制度等に基づいてなされます。しかし非常時には、その「社会のバランス」が崩れ、優先すべき事項が変わるので、判断基準・ルールを柔軟に見直すことも必要になります。

放射性物質に汚染された災害廃棄物の問題を例にします。「放射性廃棄物」か「通常の廃棄物」かの線引きを「クリアランスレベル」と言いますが、今回の原発事故により、クリアランスレベルを超える大量の災害廃棄物や上下水汚泥が発生しました。しかし、平常時に決められたクリアランスレベルは極めて安全側の低いレベルを設定しており、非常時にそのまま適用すると社会が立ち行かなくなるという事態になりました。ちなみに、クリアランスレベルは10μSv/年、放射性セシウムの濃度だと0.1Bq/gであり、最近原子力安全委員会が許容限度の目安として示した1mSv/年に比較して1/100の極めて低いレベルです。そこで国では、非常時の判断基準を新たに設定して、安全安心を確保した上で適切な処理を進めようとしています。このような対応は、非常時にはある部分仕方ないことだと思いますし、元の状態に戻ったらまた「平常時モード」にリセットすればよいのではないでしょうか。

ただ、非常時において新たな判断基準のもとに意思決定を行っていくことは、経験知が乏しい状況では大変勇気がいることです。しかし、誰かがそのリスクを背負い決断しなければ、前に進むことは出来ません。また、決断がどうしてもできない場合は、試行的な取組を先行して行うことが有効だと思います。試行により課題を見つけてそれを改善し最も適切な方法を見出して進めていくことが、迅速に物事を進める良い手段になります。今回の震災においては、意思決定に関わる人たちが、このような決断力に欠けている面もあったことは否めないと思います。

「非常時の対応力」について、ある意味で自省として述べました。これからの取り組みに生かしていきたいと思います。

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