けんきゅうの現場から
2012年12月号

災害・放射性物質汚染廃棄物のリスクコミュニケーション

秋山 貴

リスクとは

東日本大震災以来、「リスク」という用語がよく聞かれます。これは単に「危険」の意味で用いられることがありますが、専門的には、望ましくない事柄が発生するときの損失の大きさと、それが起きる確率の積で定義されます。すなわち、

[リスク]=[事象の危険度]×[起きる可能性]

です。つまり、リスクは物事の危険さだけではなく、それが起こる確率も考慮した概念であり、リスクの本質は結果の大きさや発生するかしないかが不確かである「不確実性」にあるといえます。このことからリスクやリスク認知(リスクの感じ方)については次のような特徴が指摘されています。

イラスト:たまき
  • リスク削減に莫大な費用が掛かる、ある要素を改善すると他の要素が悪化するなど、リスクを完全になくすこと(いわゆるゼロリスクの達成)は困難である
  • 市民、行政、専門家のように立場が異なると、同じ事柄に対するリスク認知が異なる
  • 情報の送り手の信頼感がリスク認知を大きく左右する
  • 安全(リスクが小さいこと)と安心(心理的に不安を感じないこと)が結び付かない(例えば、リスクが十分に小さくとも心理的な不安が解消されない。その逆の場合もある)

さらに、今回の原発事故に特有な点としては、

  • 従来から放射性物質(放射能)に対して強い不安感と拒否感が存在し、リスクが実際よりも大きく見積もられやすい

ことが挙げられます。

リスクコミュニケーションとは

複雑な現代社会においては、あらゆる事象に便益(利益)とリスクが含まれ、また、それらの影響が人によって異なるため、解決すべき社会問題において全ての人が納得する解答を得ることは容易ではありません。このようなとき、民主主義の思想に基づけば、市民や行政、企業などの利害関係者が参加したうえで議論を行うことが重要です。そのような場では多様な考え方が認められるべきですが、誤解や認識不足による衝突が起こることは問題です。そこで、「リスクに関する情報を全ての関係者が共有し、意思疎通と相互理解を図ること」が有効であり、このために行う情報や意見のやり取りのことをリスクコミュニケーションと呼んでいます。リスクコミュニケーションにおいては、行政や専門家の判断を一方的に伝えるのではなく、双方向的な対話の中で問題に関する理解を深め、互いの信頼感を醸成することが大切です。

廃棄物処理に係わるリスクコミュニケーション

図1 除染廃棄物の仮置き場(福島県内) 図1 除染廃棄物の仮置き場(福島県内)
図2 除染・賠償などに関する住民説明会(福島県内) 図2 除染・賠償などに関する住民説明会(福島県内)

先月号(高田光康:福島における循環センターの活動と取組み(2012.11))で紹介しているように、福島県の災害・放射性物質汚染廃棄物処理は遅れがちです。また、他の被災県においても必ずしも全ての処理が順調に進んでいるとはいえない状況です。これに関しては、もちろん技術的課題の問題が大きいのですが、リスクコミュニケーションもまた大きな課題になっています。放射性物質汚染焼却灰の埋立や除染廃棄物の仮置き場(図1)設置には周辺住民や土地所有者の理解を得る必要がありますが、(ゼロではない)一定のリスクがあるため、これがなかなか進まないのです。放射性物質汚染廃棄物処理は、一連の流れ、例えば、除染で出る土壌では、除染~仮置き~中間貯蔵~埋立で完結するため、どこかで処理が滞ると全体が止まってしまうのです。このため、仮置き場設置などの住民理解を得るため、各地でリスクコミュニケーションの一つとして住民説明会(図2)が行われています。しかし、震災以降、国や専門家、科学技術に対する信頼が損なわれていて、対話や信頼感醸成が難しい状況です。

資源循環・廃棄物研究センターは、技術的課題への対応としてハードの分野とともに、リスクコミュニケーションの支援や緊急時の行政管理手法の提案など、ソフトな課題でも震災復興に貢献していきます。

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