けんきゅうの現場から
2012年9月号

放射能汚染廃棄物の問題と循環センターの取組

松崎 裕司

昨年の7月号に「行政政策への貢献~東日本大震災の災害廃棄物対策への取組~」というタイトルで記事を書いてから1年2か月が経ちました。その時は、地震や津波により発生した災害廃棄物(震災・津波廃棄物)の問題に主に焦点を当てて、資源・循環廃棄物研究センター(以下、循環センター)の活動概要を紹介しました。当時は、東北3県の被災地の眼前に存在する膨大な量の災害廃棄物の処理の問題を抱える一方で、今回のタイトルにある「放射能汚染廃棄物」、すなわち、原発事故に伴い放出された放射性物質によって汚染された廃棄物に関する問題が、福島だけでなく東北・関東・首都圏でも次々と表面化し、国や自治体、社会がその全く未経験の問題への対応に追われていた時期でした。

今回は、放射能汚染廃棄物をテーマに挙げ、問題の概要を説明したのち、循環センターの取組を紹介したいと思います。

放射能汚染廃棄物の問題の概要

(図1 放射性物質に汚染された廃棄物の問題の全体像) (図1 放射性物質に汚染された廃棄物の問題の全体像)

図1は、放射能汚染廃棄物の全体像を模式的に示したものです。原発事故に伴い放出された放射性物質(主に放射性セシウム)は広域に移流拡散し、降雨に伴って地上に降下沈着しました。国が行った航空機モニタリングの地図データなどを見ると、福島県内をはじめとして東日本の広範囲に放射性物質が分布し、関東でも千葉県の北西部や茨城県の南部、栃木県や群馬県の山麓部などに相対的に高い線量の地域が分布していることが良くわかります。

これらの地域では、放射性セシウムを含む一般廃棄物(家庭などから出る一般ごみ)が焼却施設で焼却・減容され、もとの廃棄物より放射能濃度の高い焼却灰が発生します。これは、日常生活の中で放射性セシウムを含む土壌が付いた雑草を除去したり、放射性セシウムが付いた樹木等の剪定などで生じた草木類のごみが主な原因だと考えられています。また、下水道や上水道では、放射性セシウムが付着した土壌粒子が下水処理過程や浄水過程に流入することで、放射性セシウムの汚泥中濃集がみられます。農村部では、降下物の付着による放射性セシウムを含む稲わらや堆肥も発生しています。

さらに、福島県を中心とした除染活動に伴い、多量の除去土壌や除染廃棄物が発生しています。また、警戒区域や計画的避難区域の再編・解除等で社会生活・日常生活が再開されていくにつれて、その地域で残されている放射能汚染された震災・津波廃棄物も多く発生しています。

このように、福島県をはじめとして東北・関東の各地では、様々な場所・由来で、多種多様かつ多量の放射能汚染廃棄物が発生しており、今後も当分の間発生し続けます。廃棄物の処理は、発生から分別・保管~収集運搬~中間処理(焼却・破砕・洗浄等による減容化・濃集・分離)~再生利用~最終処分と様々な工程(プロセス)が必要ですが、以上のように、各プロセスで前例の全くなかった様々な課題に直面しています。これらの廃棄物の処理処分が滞ると、除染活動や復興、通常の生活活動・産業活動に大きな支障を来すことになります。

こうして見ると、今般の放射能汚染廃棄物の諸問題に対処していくためには、汚染のもととなる放射性物質(その大部分が放射性セシウム)の特性やそれによる被ばく影響、放射線管理などに関する知識はもちろんのこと、廃棄物処理処分に関する広範かつ深い知識・経験・知見が必要不可欠であるといえます。

循環センターの放射能汚染廃棄物問題への取組

循環センターでは、資源循環・廃棄物分野に関する多様な課題に総合的に取り組む研究機関として、これまでの研究で長年培ってきた廃棄物管理の知見・専門性・ネットワークを最大限活用し、多数の現地調査(仮置場、焼却施設、処分場等)、国・関係自治体・現場関係者への技術的助言と並行して、放射能汚染廃棄物の諸問題解決に向けて様々な調査研究を実施しています。

具体的には、各種フィールド調査・基礎実験等により、放射性セシウムの物性や燃焼時の挙動予測、実際の焼却施設等での挙動把握、焼却灰等からの溶出性評価、土壌等の吸着能評価、埋立層内挙動のモデリングと予測、浸出水処理技術の評価、測定分析方法の標準化など各種の緊急調査研究を実施し、放射能汚染廃棄物等の適正処理に必要となる技術的知見の集積を精力的に進めています。

得られた知見・成果は、国の検討会等を通じて随時情報提供し、国が定める技術基準やガイドライン等に反映されるとともに、技術資料としてとりまとめて研究所のHP上で公開し、国や関係自治体、関係事業者など各方面の方々にご活用いただいています。この技術資料は全部で100ページを超える文量がありますが、その内容をできるだけ分かりやすく、挿絵などを使って説明・紹介した「概要版」もHPに掲載していますので、ご関心のある方は是非ご覧下さい。

放射能汚染廃棄物の処理推進に向けて

大震災から約1年半が経過し、今回の放射能汚染廃棄物に対処するための法律や基準・ガイドライン等が定められ、また、各種基礎データや知見も徐々に得られ、適正な処理処分のための環境が少しずつ整いつつあります。しかし、その一方で、個々の現場では時間の経過とともに新たな問題・課題が生じ、各地域では仮置場や処理施設、処分場等の確保・整備などの課題に直面しています。

循環センターでは、これまでの様々な活動や成果をベースとした上で、関係する行政機関・研究機関・民間との連携を更に進め、処理処分の現場が抱える課題解決のために必要な調査研究等を行っていきます。これまでと同様、現場重視という視点を常に持ちつつ、放射能汚染廃棄物処理における各工程で必要とされる知見の集積を引き続き進めるとともに、得られた知見の一般化・体系化にも取り組み、成果の情報提供・情報発信を通じて、各地の処理処分・再生利用が全体として円滑に進んでいくよう、できる限りの貢献を果たしていきたいと思います。

参考資料
(当循環センター関連)
  1. 放射性物質の挙動からみた適正な廃棄物処理処分(技術資料)第二版/第二版追補版
    http://www.nies.go.jp/shinsai/techrepo_r2_120326s.pdf
    http://www.nies.go.jp/shinsai/techrepo_r2_s10+_120416.pdf
  2. 放射性物質の挙動からみた適正な廃棄物処理処分(技術資料)概要版
    http://www.nies.go.jp/shinsai/techrepo_publicver_120725ss.pdf
(環境省関連)
  1. 東日本大震災への対応について
    http://www.env.go.jp/jishin/index.html
  2. 原子力発電所事故による放射性物質対策
    http://www.env.go.jp/jishin/rmp.html
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