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2009年1月26日号
壊れたノートパソコンで金の指輪できる?
川口光夫
ある日、ある研究員と娘の会話。
- 「パパ、お仕事何しているの? 学校でお友達に聞かれたんだ。」
- 「毎年古くなったパソコンや家電製品がたくさん捨てられているのを知っている? そこにはたくさんの貴重な金属、特に金や銀が大量に使われていて、まるで町に鉱山があるように思えるので都市鉱山と呼ばれているんだ(2007年11月5日号「愛用パソコン、パソ子のゆくえ」「基板と貴金属」参照)。
でも、パソコンや家電製品は世界中から部品を買ってきて組み立てているから、どのような金属やプラスチックがどこにどの程度使われているか、よくわかっていないんだ。
しかも、パソコンや家電製品に必ず使われている電子回路基板(以下基板)には、プラスチックを燃えにくくする化学物質が使われているんだけど、低い温度で燃やすと「臭素化ダイオキシン類」と呼ばれる有害な化学物質ができるそうだよ(2008年8月25日号「臭素化ダイオキシン類の発生源としての難燃剤」、2008年11月4日号「廃電子回路基板の適正処理(燃焼法)」参照)。だから、パソコンや家電製品にどんな金属やプラスチックがどれくらい使われているか計ったり、環境汚染につながるかもしれない物質が含まれていないか調べたりしているんだよ。」
- 「パソコンは毎年どのくらい売られて、どのくらい捨てられているの?」
- 「資料によるとね、2004年はデスクトップパソコンが540万台、ノートパソコンが630万台売られていてね、それぞれ410万台と340万台捨てられているそうだよ。」1)
- 「たくさん捨てられているんだね。捨てられたパソコンはその後どうなるの?」
- 「廃棄されたノートパソコン340万台中、日本国内で再使用されるものが130万台、同じく日本国内で解体され、貴金属やその他の金属を資源として回収するか、部品として再利用されるのが120万台、再使用やスクラップにする目的で海外に輸出されるのが90万台だそうだ。」2)
- 「このあいだ動かなくなった私のノートパソコンには、貴金属がどのくらい入っているのかなあ?」
-
「もう壊れたの? パパが使った期間を入れても、未だ3年半だよ。みんなが使っている期間よりだいぶ短いなあ。
ノートパソコンに入っている貴金属の量はまだ調査を始めたばかりなんだ。古いパソコンにはフロッピーディスクが付いていたけど今ではもうほとんどないし、プリンターにつなぐ部品もいつのまにかなくなったよ。
その代わり、USBが3つも付いているんだ。その上軽くしたり性能を上げるために、毎年基板の電子部品もどんどん変わっているから、生産された年ごとにパソコンを調べないとはっきりしたことは言えないんだけどね。
調査の終わった1999年製ノートパソコン(重さ3kg)は、再使用可能なCDドライブ、ハードディスク、バッテリー、フロッピーディスクを除くと、基板が440g、金属が420g(主に鉄、アルミニウム)、プラスチックが740g、液晶部品が510gだったよ。
ちょうど次に調べる予定の基板の写真があるから見てごらん。金メッキしてある部品がたくさん光っているだろう。基板にはいろいろな部品が付いていて、金メッキされている部品や、金が使われているCPUやメモリもあるけど、金色に光っている部品以外は、見ただけではどこにどの金属がどのくらい使われているかわからないよね。
そこで、基板を細かく砕いて酸で溶かして調べたところ、このノートパソコン1台には、金が150mg、銀が520mg、パラジウムが28mg、銅が107g使われていたよ。
デスクトップパソコンも同じくらい使われているそうだよ(2007年11月5日号「愛用パソコン、パソ子のゆくえ」参照)。
特に、メモリ基板は1枚の重量が9gなのに金を10mgも含んでいて、今日本で一番金の含有量の高い菱刈鉱山(鹿児島県伊佐市)の鉱石の数倍から20倍も多く含まれていることになるんだ。
その上、苦労して鉱石を掘らなくてもネジ1本だけで簡単に取り出せるからね。ほら、都市鉱山って言われる意味が分かるだろう?」
- 「でもパソコン1台では、金のアクセサリーが作れるほどは入っていないのね。」
- 「1台では無理かな。でも100台分集めれば指輪ぐらいできそうだね。」
- 「じゃ、金を取り出してノートパソコン買おうと思ったけど、やっぱりパパの去年買ったノートパソコンをもらうよ。」
- 「あげるからもう壊さないでね。それと、壊れたノートパソコンはゴミ箱に捨ててはいけないよ。きちんとリサイクルしなきゃ(資源有効利用促進法に基づく家庭系パソコンのリサイクルは平成15年10月開始)。リサイクルすれば部品の再利用や貴金属の回収もできるしね。
比較的新しいパソコンにはリサイクルシールがついているから、ただで引き取ってもらえるよ。でも、もったいないから何とか直してみるか。もし直らなかったら、研究材料にしようかな。新しいパソコンの情報は必要だからね。
リサイクルや再利用ができなくなる分、パパは仕事が必ず役立つように頑張るよ」
<もっと専門的に知りたい人は>
- JEITA:IT機器の回収・処理・リサイクルに関する調査報告書、2006(http://www.jeita.or.jp/japanese/)
- 吉田綾ほか:誤差最小化による使用済みパソコンのマテリアルフローの推計手法、第3回日本LCA学会研究発表会講演要旨集、pp.52-53、2008
- 白波瀬朋子、貴田晶子:詳細解体による廃パソコン中の金属含有量の推定、廃棄物学会論文誌、印刷中
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