循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 循環・廃棄物のけんきゅう!
2008年11月4日号

廃電子回路基板の適正処理(燃焼法)

野馬幸生

(写真)電子回路基板(ベースが緑色の他、茶色のものなどもあります)  みなさんの身の周りに、写真のような電子部品はないでしょうか。パソコンを自作したり、ラジコンを作ったり、電気電子機器を分解したことがある方なら見覚えがあるかもしれません。これは、電子回路基板(以下、「基板」)といって、家電やパソコン、携帯電話などの内部にあり、みなさんがこれら製品のボタンを押して指示したことなどを瞬時に処理するための装置です。

 今、廃基板が大きな関心を集めています。もちろん、ゴミではなく資源としてです。2007年11月5月号のまめ知識「基板と貴金属」で紹介しましたが、基板は金などのレアメタルと呼ばれる金属が多種使用され、その重量割合が鉱石中より多いとされています。最近では、廃基板を海外から逆輸入して、レアメタルを回収しようとする動きさえあります。資源の少ない日本にとって、使用済み金属を集めて再利用することは、資源確保という面でも資源の有効利用という面でも良いことだと思います。

 ところで、パソコンなどを使った後に本体を触ると暖かく感じたことはありませんか。これは、電子回路に電気を流して処理をさせた結果、熱が発生したためです。しかし、基板やその上に装着されている部品の多くはプラスチックで出来ているため、発火する危険性があります。このため、難燃剤、特に臭素系の難燃剤が使用されます(2006年12月18日号「ハウスダスト研究(ほこりの研究)」参照)。「環環」をよく読まれている方は、これでピンときたでしょうか。臭素系難燃剤は、プラスチックなどを燃えにくくする良い面がある一方で、難燃剤そのもの、もしくは難燃剤の副生物である臭素化ダイオキシン類が環境汚染物質となる悪い面もあります(2008年8月25日号「臭素化ダイオキシン類の発生源としての難燃剤」参照)。したがって、廃基板からレアメタルを回収したり、廃棄処理する過程において、こうした難燃剤や副生物がどのように発生しているのかをまずは把握し、環境に放出されているとすればそれを抑える必要があるといえます。

 廃基板の主要な処理方法の1つは、高温加熱処理、つまり燃焼法です。このため、この処理方法における化学物質の挙動を明らかにする目的で、当研究センターの熱処理プラント(実験用の焼却炉)で廃基板を燃焼させ、燃焼過程や排ガスの処理過程で廃基板に含まれる臭素系難燃剤やその副生物がどのように生成・分解・除去されるか確認しました。

 臭素系難燃剤はポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDEs)やポリ臭素化ビフェニル(PBBs)が世界的に使用規制され、他の難燃剤への代替が進んでいます。そこで、最近の廃基板中のこれら難燃剤の含有量を把握しました。廃基板には様々な難燃剤とその副生物が含まれていましたが、過去の廃基板に比べて、PBDEsや臭素化ダイオキシン類などは大きく減少していました。一方で、デカブロモジフェニルエタンやプラスチックと結合させ使用する難燃剤由来の2,4,6-トリブロモフェノールは、新しい廃基板の方が高くなっていました。つまり、使用される難燃剤の種類が変化していることがわかりました。

 また、難燃剤を含有した廃基板を加熱して燃やした場合(一次燃焼)、臭素系難燃剤は廃基板に含まれる量の30%〜99.99%が分解しました(図)。一方で、難燃剤以外の臭素化合物、例えば臭素化フェノールや臭素化ベンゼン、臭素化ダイオキシン類が生成しました。また、塩素化ダイオキシン類や臭素化塩素化ダイオキシン類も生成がみられました(図)。

 燃焼で発生したガスは、高温(900℃)で再度燃やした(二次燃焼)後、150℃まで急冷し、バグフィルタによる飛灰の除去、活性炭吸着処理を行いました。この結果、廃基板の燃焼で発生したガスに含まれる臭素系難燃剤やダイオキシン類は、大部分が分解・除去され、最終的に環境に出る排ガス中の化学物質量は、廃基板中に含まれている量より数桁低くなっていました(図)。このことは、適切な燃焼や排ガス処理をすることで廃基板に含有する、或いは副生する臭素系化合物の環境放出を抑制できることを意味しています。

(図)廃電子回路基板の燃焼過程における臭素系難燃剤と臭素化ダイオキシン類の挙動

 この燃焼実験では、廃基板を燃焼することで灰が発生します。この灰にも臭素系難燃剤やダイオキシン類が含まれていましたが、これら化学物質のほとんどは、灰中の量が廃基板中の量を大きく下回っていました。もともと廃基板中の含有量が少ないダイオキシン類については、灰中と廃基板中の量は同じレベルでしたが、その量は特別管理廃棄物として管理が必要となる基準値3ng-TEQ/gを大きく下回っていました。

 これらの結果から、廃基板の熱処理において、焼却炉の適切な管理をすることで、臭素系難燃剤やダイオキシン類の環境放出を抑制できることが明らかとなり、適切に処理できることがわかりました。

 ところで、廃基板のような廃電子機器の多くは、アジアの途上国、特に中国やベトナムなどに輸出されているのをご存じでしょうか。このような地域では、有害化学物質に関する情報や認識が不足しているため、野焼きなどの不適切な処理がなされ、臭素系難燃剤やその副生物による環境汚染が発生しているという報告があります。当センターでは、このような不適切な処理が行われた場合に、臭素系難燃剤やその副生物がどのように生成して環境中に放出されるかという定量的な把握など、途上国における適正処理に役立つ研究も実施しています。

<もっと専門的に知りたい人は>
  1. Watanabe, M. et al.: Formation and degradation behaviors of brominated organic compounds and PCDD/Fs during thermal treatment of waste printed circuit boards. Organohalogen Compound, 70, pp. 78-81, 2008.
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