循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 循環・廃棄物のけんきゅう!
2007年11月5日号

愛用パソコン、パソ子のゆくえ

白波瀬 朋子

 みなさんは、「えー、ご家庭に、古くなった、冷蔵庫、洗濯機、ラジカセ、パソコンはございませんか?無料でお引取り致します〜。」とアナウンスを流しながら、ゆっくり走っている回収車を見かけたことはありませんか?みなさんご存知の通り、 現在パソコンを捨てるのには、本体3150円、ディスプレイ4200円のリサイクル料金が必要です。なのに、無料で引き取ってくれるならお得!と思いますよね。でも、気をつけて下さい。ここから始まるお話は、あなたが愛用していたパソコンを捨ててからのお話です。

 真理ちゃんが愛用していたパソコンは98年製デスクトップ型、名前はパソ子。パソ子はいつも「わたしの体は、金銀パラジウムが使われている基板が入っているのよ〜ホッホホホー。日本のどこを探したって、私の基板くらい貴金属がたくさん入っている鉱石なんてないわ。 銅線だって鉄だって使われているし、資源たっぷりなのよ!」と自慢していました。その通りパソ子の体11kgには約1kgの基板が入っており、基板1kgには約140mgの金、約780mgの銀、約200mgのパラジウムが含まれています。

写真:数十部品に解体された1台分のデスクトップ型パソコン

 一方、パソ子の体には、有害な鉛や臭素系難燃剤が使われている部品もあります。パソ子にとって、有害物質の組成はあまり表示したくないものですが、安全なリサイクルのためには必要な情報であることに間違いありません (2006年12月4日号「リサイクルと化学物質について考えよう」を参照)。日本には、製品中の有害物質(鉛、クロム、カドミウム、水銀、臭素系難燃剤(PBB,PBDE))が基準以上含有されている場合に表示義務を課した「J-MOSS」という規格があります (電気・電子機器の特定の化学物質の含有表示方法(JIS C 0950))。「まったくこの規格、私の秘密が暴かれて恥ずかしいわ・・・。でも私が何から出来ているのか表示しないと、第2の人生を歩み始める時に困るって言うし、しょうがないわね・・・。」 そんなパソ子も、もう7歳(パソコンの平均使用年数)。人間の歳で言うと70歳位に相当し、まだまだ働ける部分は沢山あるのですが、流行からズレ、肩や腰にガタが出始めて、第2の人生(リユース・リサイクル)を考え始めていました。 リサイクルされるには、各パーツがどんな材料から出来ているかが分かった方が、格段に効率が良くなります。しかし彼女の体はあまりに複雑な部品が多すぎて、自分がどんな素材・元素から成り立っているのか、パソ子自身も分からなくなってしまいました。 そんな中、J-MOSSの制度が出来たことは素晴らしいことなのですが、まだ情報としては不十分です。現在は、メーカーが協力して原料から製品に至るまでの含有化学物質の情報提供の流れを構築中です。そこで、国立環境研究所としても、 複雑な素材からなる製品の金属組成の分析法を確立し、製品中の金属量の把握を行っています。現在は、パソコンを例にして、製品を数百の部品までバラバラに分解して、素材組成比を調べ、各部品について40元素を対象に含有量の把握を行っています(写真)。 先ほどご紹介しました基板1kgあたりの金、銀、パラジウムの重要はその成果の一部です。このように代表的な部品ごとの金属含有量を測定しておくと、パソコン以外の製品についても部品の数と重さを調べることで、およその金属含有量を見積もることが可能となります。 これらの組成情報を基に、効率の良い資源回収と、有害物質を環境に拡散させないリサイクルを行うことを目指しています。

 ところで、先ほどの真理ちゃん。愛用していたパソ子を捨てることを決めました。回収業者さんに「どうしてリサイクル料金を取らないの?」と聞くと、業者さんは「中古品としてリユースするんだよ。だからリサイクル料金はもらいませんよ。」と笑顔で答えました。 実際に、きちんとリユースしている業者もいますし、リサイクルされるよりリユースされる方が、エネルギー的にも断然お得です。しかし残念なことに、その業者さんは、真理ちゃんの見えないところまで行くと、高価なマザーボードだけを取り、 残りをポイっと道路脇の原っぱに捨ててどこかへ行ってしまいました(2007年2月19日号「「見えないフロー」とリサイクル・海外輸出」を参照)。さあ大変です。パソ子は、動くことも出来ず、太陽に照りつけられて劣化し、雨に打たれて有害な金属が流れ出ていってしまいました。 「こんなはずじゃなかったのに・・・。」パソ子は自分が土壌を汚染していることの悲しさと、第2の人生が歩めない悔しさで涙を流しました。国立環境研究所では、このような廃電気電子製品の資源回収後の残渣からの、有害金属の環境への排出量推定についても実験を行っています。 基板の溶出試験では、土壌環境基準0.01ppmをはるかに上回る3.7ppmもの鉛が溶出しました。

 こうならないために、真理ちゃんはその業者さんがパソ子をどこへ持って行って、どうするつもりなのかちゃんと把握しておく必要がありました。市中回収業者が回収するパソコン台数は全体の1.3%程度で、全てが悪い業者という訳ではなく、リユースに貢献しているところもたくさんあります。 みなさんの「パソ子」もきちんとリサイクルされるよう、業者さんがその製品をどこへ持って行くのか、業者さんのリサイクルの説明に納得できるか、いつでもその業者と連絡が取れるのかなど、消費者として、関心を持っておきましょう。

<もっと専門的に知りたい人は>
  1. 白波瀬朋子ほか:廃電気電子製品中の金属含有量試験法の確立、環境化学討論会講演要旨集、pp.216-217.2007
関連研究 中核研究2
HOME
表紙
近況
社会のうごき
循環・廃棄物のけんきゅう
ごみ研究の歴史
循環・廃棄物のまめ知識
当ててみよう!
その他
印刷のコツ
バックナンバー一覧
総集編
(独)国立環境研究所 循環型社会・廃棄物研究センター
HOME環環 表紙バックナンバー
Copyright(C) National Institute for Environmental Studies. All Rights Reserved.
バックナンバー