循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 循環・廃棄物のけんきゅう!
2008年8月25日号

臭素化ダイオキシン類の発生源としての難燃剤

梶原夏子

 本誌2007年9月18日号の「当ててみよう!」でご紹介しましたように、1990年代後半から廃棄物の焼却によるダイオキシン類の発生が問題となり、現在に至るまで国が中心となってダイオキシン類対策の強化が進められてきました。 ここで言うダイオキシン類とは正確には「塩素化」ダイオキシン類を指しており、2個のベンゼン環のいずれかの水素原子が塩素原子(Cl)に置き換わった構造を持っています。今回は、塩素化ダイオキシン類の塩素の部分が臭素(Br)に置き換わった構造をもつ「臭素化」ダイオキシン類の生成についてお話したいと思います。

 臭素化ダイオキシン類には、「ポリ臭素化ダイオキシン」と「ポリ臭素化ジベンゾフラン」があり、それぞれ75種類および135種類の物質の総称です。 塩素化ダイオキシン類は難分解性で生物への蓄積性が高いことに加え、発がん性や催奇形性などの毒性を示すことから社会問題になったわけですが、臭素化ダイオキシン類も同様の特徴を持つと考えられています。近年、大気や土壌、生物中から臭素化ダイオキシン類の検出が報告されていることを受け、その発生源の特定や排出量の削減、毒性影響について研究が進められています。

Dr.グッチー・たけ

 そこで私たちは、臭素化ダイオキシン類の発生源の一つとして臭素系難燃剤の光分解に着目し、プラスチック中の臭素系難燃剤が太陽の光に照らされるとどのような変化を生じるのか、臭素化ダイオキシン類を生成しないのかどうか、ということを一年間かけて実験的に調べましたのでここで紹介したいと思います。 難燃剤については、これまでにも本誌2006年12月18日号「ハウスダスト研究(ほこりの研究)」や2007年9月18日号「「はかる」ことを評価する」で取り上げてきたとおり、火災の延焼を遅らせることを目的にテレビやパソコンのケーシング(外箱)、カーテンやじゅうたんなどの繊維製品、車の内装品、建物の断熱材などに幅広く添加されているものです。 臭素系、リン系、無機系など様々な難燃剤が生産されていますが、ここではデカブロモジフェニルエーテル製剤という臭素系難燃剤を取り上げます。デカブロモジフェニルエーテル製剤の主成分は臭素原子が10個ついたBDE209という物質です。その他にも臭素原子が9個以下の異性体も少量含まれており、これら物質をまとめてポリ臭素化ジフェニルエーテル類(PBDEs)と呼びます。

図1 テレビケーシング中におけるPBDFsの生成 図2 BDE209の推定分解経路

 実験では、細かく砕いたテレビケーシング試料を太陽光に暴露させ、一定期間経過後の試料中のPBDEsと臭素化ダイオキシン類の量を測定しました。224日間実験を続けた結果、臭素化ダイオキシン類のうち冒頭に触れたポリ臭素化ジベンゾフラン(PBDFs)とよばれる物質群の量が太陽に暴露させた期間が長いほど増加することが分かりました(図1)。 同時に行った別の実験から、プラスチック中のBDE209は太陽光により比較的速やかに分解されることがわかっていますので、今回の結果と合わせて考えると、テレビケーシングに添加されたデカブロモジフェニルエーテル製剤由来のBDE209は光分解し、BDE209より毒性の高いPBDFsを生成していると言えます。図2に示すように、BDE209の二つの臭素原子が外れると、PBDFsの一つである臭素原子を8個持つオクタジベンゾフラン(O8BDF)が生成します。 また、BDE209から臭素原子が一つ外れると別のPBDEが生成されます。このようにして、O8BDFや他のPBDEから臭素原子や水素原子が外れることで様々なPBDFsやPBDEsが次々に生成されると考えられます。BDE209の分解に伴ってPBDFsの生成は続くと考えられますので、テレビケーシングなど高濃度にBDE209を含む難燃化製品は長期的にPBDFsを生成し、室内空気やハウスダスト中PBDFsの汚染源となることが予想されます。

 国内では、2011年の地上デジタル放送開始に伴い、年間1,000万台程度のブラウン管テレビが家電ごみとして排出されるとの推計があります。廃テレビのケーシングにはBDE209が含まれている可能性が十分考えられますので、リサイクルする際に注意が必要かもしれません。 また最近では、途上国に集められた電気・電子機器廃棄物(E-waste)に含まれる臭素系難燃剤が処理過程で環境中に放出していることが心配されるなど、臭素系難燃剤を含む製品の取り扱いは国際的にも重要な課題となっています。

<もっと専門的に知りたい人は>
  1. Kajiwara, N., et al.: Photolysis studies of technical decabromodiphenyl ether (DecaBDE) and ethane (DeBDethane) in plastics under natural sunlight. Environmental Science & Technology 42, pp.4404-4409, 2008.
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