活動レポート
2019年8月号

公開シンポジウム2019
~資源循環・廃棄物研究センターの研究活動発表~

萩原 葉子
公開シンポジウムの様子写真1:会場の様子

国立環境研究所は、「変わりゆく環境と私たちの健康」をテーマとした公開シンポジウムを、6月14日に北九州市で、6月21日に東京都港区で開催しました。資源循環・廃棄物研究センター(以下「循環センター」)の研究者による講演やポスターセッションにも多くの方々にご参加いただき、活発な意見交換がなされました。

梶原夏子主任研究員の講演の様子写真2:講演

梶原夏子主任研究員の講演は、「身の回りの製品に含まれる化学物質のちょっと気になる話」という演題で、プラスチックなどの燃えやすい素材を燃えにくくするために添加されている「難燃剤」を取り上げました。難燃剤として使われてきたいくつかの物質は残留性や生物蓄積性などが明らかとなったため、近年、残留性有機汚染物質(POPs)に関するストックホルム条約(POPs条約)によって新たな製造や使用は規制対象となりましたが、既に出回っている製品が処分またはリサイクルされる際にそれらの規制物質がどのような挙動を示すかを調査した研究の最前線が報告されました。来場者からは「繰り返しリサイクルをすると化学物質の濃度が薄まるかと思うが、どこまで追跡可能か?」「規制物質の代わりとなる製品や物質はあるのか?」「規制物質の動きを追いかける調査や研究は、それに必要な費用に見合うものなのか?」といった質問が寄せられました。

松神秀徳主任研究員の発表写真3:ポスター発表

ポスターセッションでは、3件の発表が行われました。松神秀徳主任研究員の発表は、近年、POPsとして新しく規制対象となった「短鎖塩素化パラフィン」を取り上げました。使用済みとなった自動車を工業用シュレッダーで細かく砕いて、鉄やアルミ、銅などの金属をリサイクルした後に残った「自動車シュレッダーダスト」を対象に実施した、短鎖塩素化パラフィンに関する含有実態調査の結果が紹介されました。今回の調査結果では、塩化ビニル樹脂や難燃性ゴムが多く含まれている廃棄物で、短鎖塩素化パラフィンの含有量が比較的高くなることが明らかになりました。今後はこのような廃棄物の保管、処理によって、どの程度環境中に短鎖塩素化パラフィンが排出されるかを調べていく予定です(詳しくは、9月号の環環で紹介する予定です)。

上島雅人特別研究員の発表写真4:ポスター発表

上島雅人特別研究員は、重金属による土壌汚染が、工場の操業などによる人為的なものか、それとも、天然の土壌にもともと含まれていたものかを判別する新しい方法を開発し、その概要を発表しました。この方法は銅、カドミウム、ヒ素といった有害物質の由来の特定に応用でき、工業および農業分野における土壌汚染対策への活用が期待されます。

小口正弘主任研究員の発表写真5:ポスター発表

小口正弘主任研究員は、廃棄物に含まれて廃棄物処理やリサイクルへ移動した化学物質がどこへ行き、どの程度環境に排出されているかを把握するために、「化学物質排出・移動量登録制度(PRTR制度)」のもとで国が集計・公表しているデータを活用する方法を紹介しました。PRTRデータからは、化学物質がどの廃棄物に含まれて、どのような処理へ移動したのかといった手掛かりが得られるため、今後、このデータを利用して化学物質のゆくえを推計する方法を検討する予定です。

私たちが日常生活で使う様々な製品のライフサイクルの最終段階ともいえる、廃棄物処理・処分・リサイクルといった段階で、製品に含まれる化学物質がどうなるのかを知ることは、健康や環境へマイナスの影響がでないように十分な対策をとるうえで、とても重要です。循環センターは引き続きこの分野の研究を推進してまいります。

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