活動レポート
2019年1月号

ウィーン工科大学への長期研究出張

稲葉 陸太
ウィーン工科大学写真:ウィーン工科大学

欧州の循環経済とオーストリアの廃棄物管理

欧州連合(European Union: EU)では2015年からサーキュラー・エコノミー(循環経済)の取組みが進んでいます。これは、廃棄物を原料としてリサイクルする前に、シェアリング(何人かで共有して使う)、長寿命化(改良して長く使う)、リユース(もう一度使う)、リファービッシュ(修理して使う)など、モノを何段階にも大切に最後まで使い、さらにビジネスとして成り立つことを目指しています。

EUの中でもオーストリアは廃棄物のリサイクルと焼却エネルギー回収(Waste To Energy、以下WtE)の両面で高い水準を保っています(家庭ごみでは2015年に各々49%と41%)。そのため、オーストリアの廃棄物管理を詳しく調べ、モノの流れを把握し、将来の状況を推定することは、EUのみならず日本を含む世界各国にとっても貴重な参考情報になります。

CEの効果を測る切り口は様々ですが、天然資源の消費量、廃棄物の発生量、および廃棄物のリサイクル量などを具体的な数量で評価することが重要です。その方法として、ある地域やシステムにおけるモノの流れを追跡する「マテリアルフロー分析(MFA)」が近年注目され、様々な国や地域での資源循環の評価に使われています。オーストリアのウィーン工科大学(Technische Universität Wien: TU Wien)のHelmut Rechberger教授らは廃棄物やMFAに関する研究で有名で、MFAに関する書籍も出版しています。

ウィーン工科大学への長期研究出張

私はこれまで、主に国内の地域的な資源循環の事例(地域循環圏)を対象として、資源の採掘、製品の生産・消費、そして廃棄物の処理などのシステム全体にわたって排出される温室効果ガスの推定や、そういったシステムを構築する方法の研究を行ってきました。先に述べたようにEUでのCEの取組み、オーストリアの廃棄物管理は貴重な情報であるため、その状況や事例を把握して国内政策の検討に反映する必要があります。また、地域規模の資源循環を適切に評価するためには、先に述べたMFAが有効です。そこで、前述のRechberger教授の研究室に長期滞在することにより、欧州のCEやオーストリアの廃棄物の管理状況を把握するとともに、MFAの手法を習得したいと考えるようになりました。

2017年11月に同教授にメールで長期研究出張の可能性を打診したところ快諾を得ました。その後、国立環境研究所からも循環プログラムでの研究業務として認められ、2018年4月から10月までの期間でウィーン工科大学に長期研究出張させていただくことになりました。同出張では、EUにおけるCEの取組みに関する情報収集、オーストリアの廃棄物管理に関するデータ収集、TU WienでのMFA手法の習得、同国の廃棄物管理に関するMFAの実施、およびそれに基づくCEの効果などの推定を目的としました。

出張の成果

出張の成果として、まず、2018年4月にオーストリア環境省の担当者にインタビューを行い、オーストリアの連邦廃棄物管理計画などの情報を入手しました。5月には欧州委員会(European Commission: EC)の担当者にもインタビューを行い、CEにおけるWtEの状況に関する情報を得ました。6月にはTU Wienが開発したMFAのソフトウェア(STAN)の講習に参加し、その使用方法を習得しました。連邦廃棄物管理計画のデータをSTANに入力し、2000年、2004年、2009年および2015年における同国の都市ごみのMFAを実施しました。9月にはその結果を前述の担当者に説明したところ、1990年、1993年および1995年分のデータ(ウェブ上では未掲載)も提供いただきました。これらのデータをふまえて1990年から2015年までを統一的に比較できるようなMFAのモデルを構築しました。今後、モデルを用いたオーストリアの都市ごみのMFAを実施する予定です。

このように、四半世紀にわたるデータの分析は貴重であり、過去から現在までの推移に基づいた将来予測にも発展できます。また、資源循環が高水準にある同国での推定結果は、日本を含む世界各国にとっても資源循環システムの構築・高度化のための参考情報となります。今後、サーキュラーエコノミーの取り組みの進展が予想されるEUにおいて、オーストリアなど資源循環の先進国が果たす役割が注目されます。

今回の長期研究出張では、日々生活する中でオーストリアの資源循環に関する取り組みを実感し、研究者や政府関係者と何度も直接議論し、それを通じて得た信頼関係により貴重なデータを入手することも出来ました。ドイツ語を十分習得できていませんでしたので、生活や調査には限界もありましたが、全体としては得られるものの方が大きかったです。こういった経験を踏まえて、これから他の方が長期研究出張を検討される場合には良いアドバイスをしていきたいと考えています。

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