使用済みとなった電気製品(E-waste)の中の鉄、銅、アルミ、プラスチックの他、金や銀のような貴金属をリサイクルして廃棄物の埋め立て処分量を減らし、鉛や難燃剤などの有害な化学物質を分別して取り除くことは、未来の子どもたちの社会のために大切なことです。しかし、アジア途上国では、E-wasteのリサイクルしによって有害な化学物質による汚染問題に直面しています。E-wasteの細かな部品やE-wasteの中に溜まっていた埃が、風雨で運ばれたり、排水で流されたりして、有害な化学物質がリサイクル現場の土壌や川を汚染しています(2011年12月号E-wasteリサイクル現場の土とダストを調べる、2015年1月号E-wasteリサイクルに伴う有害化学物質のゆくえ)。その物質はさらに、リサイクル現場の周辺で飼育されていた鶏などの家畜へと取り込まれていきます。
難燃剤は、テレビやパソコンなどの電気製品のプラスチックに使用される化学物質です。難燃剤の中でも特にポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDE)は、難分解性(環境中で分解しにくい)、高蓄積性(生物の体内に蓄積しやすい)、生物や環境への有害性、長距離移動性(環境に放出されると国境を越えて長距離を移動する)という4つの特性をあわせもち、現在では、有害な化学物質として国際的に製造と使用が規制されています(2011年12月号POPs条約におけるPBDEsの位置づけ)。私たちは、ベトナムにあるE-wasteのリサイクル村で生産された鶏肉と卵を使ってPBDEによる食品汚染の調査を行いました。
PBDEは、リサイクル村の鶏肉と卵から見つかりました。リサイクル村以外の鶏肉と卵よりも、その汚染濃度は1桁以上高く、E-wasteのリサイクルによって鶏の体内にPBDEが取り込まれて蓄積していたことが明らかとなりました。
リサイクル村で暮らす人々は、PBDEにより汚染された食品を毎日のように食べているかもしれません。さらに、PBDEにより汚染された埃や土壌を、呼吸や手指から直接体内に取り込んでいることも考えられます。PBDEについては、げっ歯類での研究から、甲状腺ホルモンを減少させるなど、塩素化ダイオキシンやPCBと似たような影響を及ぼすことがわかっています。E-wasteのリサイクルが健康に与える影響を明らかにするためには、食品、呼吸、手指など、体内に取り込まれるPBDEの総量を明らかにすることが重要です。アジア途上国でのE-wasteの安全なリサイクルに向けて、私たちは、E-wasteのリサイクルが健康に与える影響を明らかにするための調査研究に引き続き取り組んで行きたいと思います。