循環・廃棄物の豆知識
2023年3月号

マイクロプラスチックより小さい“ナノプラスチック”とは

田中 厚資

最近、マイクロプラスチックという言葉を耳にするようになりました。マイクロプラスチックは、海や大気中などさまざまな環境中から見つかり問題となっていますが、“ナノプラスチック“と呼ばれる、マイクロプラスチックよりさらに小さい粒子も環境中にたくさん存在しているのではないか、ということが言われてきています。

ナノプラスチックの定義

マイクロプラスチックは一般的に粒径1 µm(マイクロメートル*1))~5 mmのプラスチック粒子とされます。ナノプラスチックの定義については複数の意見があり、粒径1~100 nm(ナノメートル*2))、あるいは粒径1 nm~1 µmの粒子とする意見があります。「粒径1~100 nm」とする定義は、旧来のナノテクノロジーの分野におけるナノマテリアルの定義からきています。これは、ナノマテリアルの粒径が100 nmより小さくなった時に特有の性質が現れること(電子の動きが制限されることなどによる)に注目して決められたもので、ナノプラスチックを定義する上での直接的な関連はありません。一方で「粒径1 nm~1 µm」とする定義は、粒径が1nm~1µmの粒子がブラウン運動によって水中に安定して分散しやすいなどの性質を示すことに基づいています(このような粒径の粒子をコロイド粒子と呼びます)。こちらの定義の方が、ナノプラスチックの環境中での動態を考える上で重要な側面を捉えている1)ということから、最近では広く受け入れられてきているようです。

  • *1 1マイクロメートルは、1 mmの1000分の1の長さです。
  • *2 1ナノメートルは、1 mmの1,000,000分の1の長さです。

ナノプラスチックの研究

ナノプラスチックが環境中にどれくらい存在するのか、これまでわかっていませんでしたが、最近いくつかの分析結果が論文で報告されました2,3)。このうち中国で行われた研究では、ポリプロピレン、ポリエチレンをはじめとする6種のプラスチックについて調べ、河川水で1リットルあたり0.28~0.79 µgのナノプラスチックが含まれることを明らかにしました2)。この量はそれほど多く感じられないかもしれませんが、これを数に換算すると1リットルあたり数千万個のナノプラスチックが存在している可能性があると見積もられています。まだごく限られた地点での結果が得られたのみの段階ですが、今後さらに多くの研究が行われていくことで、環境中でのナノプラスチックの広がりが明らかになっていくと考えられます。

プラスチックを取り込んだ生物への毒性としては、粒子としての物理的な影響や、プラスチックに含まれる添加剤等の化学物質による毒性などがあります。ナノプラスチックはマイクロプラスチックに比べて生物の体内に取り込まれやすく、このためマイクロプラスチックよりも毒性が強いと考えられています。今後、ナノプラスチックの環境中での存在状況の正確な評価、それに基づいた毒性リスク評価が必要であり、国立環境研究所でもこうした研究に取り組んでいます4,5)