循環・廃棄物の基礎講座
2021年4月号

シュタットベルケ
~自然やごみのエネルギーで地域を支え、地球を守るしくみ~

稲葉 陸太

シュタットベルケとは

シュタットベルケ(Stadtwerke)とは「自治体がお金を出して作る公共サービスの会社」のことで、ドイツやオーストリアの自治体でたくさん作られています。日本では「都市公社」とも呼ばれます[1]。その特徴の1番目は、会社の元手(仕事をする元になるお金)の半分より多くは自治体が出していることです。2番目は、色々な公共サービスを行っていることです。具体的には、電力、ガス、熱(地域の暖房)、飲料水や下水道、ごみ処理、公共交通、公共施設(図書館含む)などの運営が挙げられます。3番目は、電力などの儲かる事業でお金を増やして、公共交通などのお金が足りない事業にあてていることです。こうやって、幅広い公共サービスを続けています。4番目は、地域に存在するバイオマス(木材などの生き物が元になった資源)、太陽光、風力、そして小水力(川の流れなどを利用する水力)などのエネルギーを利用することが多いことです。これらのエネルギーは、使われても自然が補充してくれるので「再生可能エネルギー」と呼ばれます(以下「再エネ」と略します)。再エネは、地球温暖化をもたらす温室効果ガスを出さないという利点もあります。その他、ごみを燃やして出た熱や、生ごみを発酵させて出たガスを利用することもあります。図1は、シュタットベルケのしくみを表しています。この図ではウィーン市のシュタットベルケ(後で説明します)を参考にして、ごみの流れも描きました。

図1 再エネと公共サービスを両立するシュタットベルケのしくみ図1 再エネと公共サービスを両立するシュタットベルケのしくみ

ドイツとオーストリアのシュタットベルケ

ドイツには、シュタットベルケが約900社もあるといわれています(2018年時点)[1]。1,400社強あるという報告[2]や1,458社あるという報告[3]もありますが、いずれにせよ1,000社ぐらいあるといって間違いないでしょう。ドイツには約1万2千の市町村がありますが、その約1割にシュタットベルケがあることになります。電力供給は51%のシュタットベルケで実施されています。また、熱供給の実施割合は40%、廃棄物処理は30%です[3]。エネルギー事業は黒字が多く、経営状況は良好のようです。環境都市としても有名なフライブルク市にもシュタットベルケがあり、エネルギー事業で収益を稼いで、お金が足りない公共交通などを支えています。

一方、オーストリアには、シュタットベルケが15社存在しています(2014年時点)[2]。その中でも、ウィーン市のシュタットベルケは、オーストリア最大のシュタットベルケで、約1万5千人を雇用しており、約30億ユーロの収益を上げています(2019年時点)[4]。現在、エネルギー(電力、熱)、公共交通(路面電車、地下鉄、バス、近郊鉄道など)、そして墓地など様々なサービスを提供しています。このうち、ウィーン・エナジーは最大の子会社で、ごみ発電、バイオマス発電、天然ガス発電で得られた電力や熱を家庭や事業所に供給しており、都市ごみはウィーン市が収集しています。

ドイツの経験から日本が学ぶべきことは、「地域(自治体)がエネルギーで自立すること、再エネに換えていくこと」を前提とした法律があること(作ること)の重要さです。こういった法律があると、事業をすすめるのがとてもやり易くなります。オーストリアの経験からは、森林・木材の産業がどうなっているかを理解すること、サプライチェーン(製品などをやりとりするつながり)の無駄をなくすこと、熱が逃げにくい家や建物を作ること、などが必要と考えられます[2]

日本版シュタットべルケ

日本では、約30のシュタットベルケが創設されています(2018年時点)[1]。日本エネルギー経済研究所の山本氏の報告[3]によると、そのうち電力を供給しているのは20社、蒸気などの形で熱を供給しているのは10社であり、自治体の出資が50%を超えるのは10社です。ごみ発電は6つの事例(そのうち新電力が5事例、熱供給が1事例)で行われており、エネルギー以外の事業としては、通信が2事例、生活支援が3事例でみられます。

日本版シュタットベルケの例として、みやまスマートエネルギー株式会社を紹介します。同社は人口4万人の福岡県・みやま市で2015年に創設され、同市が55%出資しています。太陽光発電で収益を得て、それを福祉事業に充てています[1]。福祉事業として高齢者向けの特別支援サービスを開発していて、具体的には、一人暮らしの高齢者の電力消費がいつもと違う動きをしていないかを見守るものです[5]。また、鳥取県・米子市のローカルエナジー株式会社では、同市のごみ焼却施設などで作られた電力を購入して、それを同市内の家庭や事業所に販売しています[6]

2017年には、日本シュタットベルケネットワーク(JSWNW)が設立(2019年3月時点で32の自治体が加盟[7])され、シュタットベルケを担う人たちが情報を交換したり、これから作ろうとしている人たちが専門家から助言をもらったりする場となっています。

シュタットベルケと廃棄物処理

これまでお話ししたように、ドイツ、オーストリア、そして日本のいずれのシュタットベルケでもごみ処理(発電)を行っている事例があります。将来的には、地域の様々な再エネと合わせてごみのエネルギーを利用し、家庭や企業などの電力や熱の需要を満たし、地域の内外でエネルギーを補いあい、さらには家庭や電気自動車などで蓄えられている電力を利用することも想定されます。このように色々なやりとりを捌くのは複雑ですので、IT技術によって高度に制御・最適化していくことが必要です。さらに、このようなエネルギー事業で収益を得て、高齢者の支援、育児の支援、そして防災などの事業に使い、地域の課題を解決しながら地域を活性化していくことが期待されています。

<参考文献>
  1. 諸富 徹(2018),人口減少時代の都市 成熟型のまちづくりへ,中公新書,中央公論新社
  2. 北欧研究所(2014), 分散型エネルギーに関する調査
  3. 山本尚司(2018)ドイツのシュタットベルケから日本は何を学ぶべきか, 一般財団法人日本エネルギー経済研究所ウェブサイト(2021年3月28日閲覧)
    https://eneken.ieej.or.jp/data/7847.pdf
  4. Wiener Stadtwerke, 2019 Annual Report With figures that everyone can understand,ウィーンシュタットベルケウェブサイト(2021年4月20日閲覧)
    https://www.wienerstadtwerke.at
  5. ヴッパータール研究所(2018)_ドイツと日本におけるシュタットベルケ設立の現状
  6. ローカルエナジー株式会社 ウェブサイト(2021年4月26日閲覧)
    https://www.lenec.co.jp/index.php
  7. 一般社団法人日本シュタットベルケネットワーク ウェブサイト(2021年4月26日閲覧)
    https://www.jswnw.jp/
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