循環・廃棄物の基礎講座
2020年4月号

新型コロナウイルス感染拡大の中で考える循環型社会
~公衆衛生の観点から再認識すべき廃棄物処理の重要性~

寺園 淳

新型コロナウイルス感染拡大のなかで求められている廃棄物対策

2020年4月現在、国内外で新型コロナウイルスの感染が拡大しています。感染症対策と循環型社会・廃棄物処理も決して無関係ではありません。

環境省は今年(2020年)1月以降、家庭や医療機関などに対して廃棄物処理における取組みを呼びかけています(環境省, 2020)。すなわち、家庭に対しては、感染した方や疑いのある方が家庭にいる場合、マスクやティッシュなどのごみを捨てる際は、「ごみに直接触れない」「ごみ袋はしっかりしばって封をする」「ごみを捨てた後は手を洗う」ことを心がけるよう求めています。このような捨て方はインフルエンザの感染に伴い排出される廃棄物と同様であり、ご家族だけでなく、私たちが出したごみを扱う市町村の職員や廃棄物処理業者の方にとっても、感染症対策として有効であるとしています。また医療機関などに対しては、新型コロナウイルスに係る感染性廃棄物も他の感染性廃棄物と同様に処理可能であると伝えています。

環境省では2009年の新型インフルエンザや2014年のエボラ出血熱などの経験も踏まえて、処理方法や処理体制を定めた「廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル」(2018)、及び処理業者による事業継続計画などを示した「廃棄物処理における新型インフルエンザ対策ガイドライン」(2009)を作成してきましたが、今回の新型コロナウイルスを機に改めて関係機関に周知しています。これらに共通する重要事項は、関係者の感染防止対策とともに、流行時においても処理事業者などに対して事業の継続を求めていることです。新型コロナウイルス感染拡大によって医療体制維持の重要性が指摘されていますが、廃棄物処理も国民生活を維持するために不可欠なサービスとして認識することが必要です。加えて新型コロナウイルスの影響として、使い捨て容器や食べきれない食材の排出量増加、マスク不足の清掃員の労働環境悪化などの状況も懸念され、それらに対してもきめ細く対応しなければなりません。

ごみの捨て方:①ごみ箱にごみ袋をかぶせます。②マスク等のごみに直接触れないようにごみ袋をしっかりしばって封をします。③ごみを捨てた後は石鹸を使って手をよく洗いましょう。出典:環境省(2020)

公衆衛生から始まった日本の廃棄物処理

ここで、日本の循環型社会づくりに向けた歴史を振り返ります。環境省(2014)では、「公衆衛生の向上」の時代(1950年代まで)、「公害の対応と生活環境の保全」の時代(1960年代~1970年代)、「循環型社会の構築」(1980年代~2000年代)と大別しており、公衆衛生から日本の廃棄物処理が始まったことがわかります。

東京二十三区清掃一部事務組合HPには、さらに興味深い記述があります。「幕末の頃、外国との交流をきっかけに日本中でコレラが大流行し多くの死者を出し」、「その死者数は日清戦争、日露戦争の戦死者数をはるかに超え」、「コレラの流行は、衛生的なごみ処理を進めるきっかけとなりました」とあり、グローバル化による新型コロナウイルスの感染拡大と、その被害を抑制するための廃棄物処理が必要となっている現代に通じる教訓がありそうです。そして、1930年(昭和5年)には、焼却処理が自治体の責務として明記されたといわれています。しかし、清掃工場(焼却施設)の建設は追いつかず、東京都では「夢の島」といわれた埋立処分場でハエが大量発生して、1965年7月には生ごみの断崖(高さ約20メートル幅約270メートル)を焼き払う「夢の島焦土作戦」が実行されたり、1971年9月には東京都知事が「ごみ戦争」を宣言して対策を進めたりした結果、事態がようやく収束に向かいました。このように公衆衛生と生活環境の保全のために、日本では廃棄物の焼却処理が大きく進むことになりました。

ハエの発生を防ぐために殺虫剤を散布していた、昭和40年代の埋立処分地
夢の島焦土作戦(昭和40年)
出典:東京二十三区清掃一部事務組合HP

焼却処理を進めながら変わりゆく重点課題と対応

こうして日本の廃棄物処理が公衆衛生の観点から焼却を中心に進められるなか、1980年代から徐々に焼却施設からのダイオキシン類に対する社会的な関心が高まりました。1997年の廃棄物処理法政省令改正などによって、完全燃焼や排ガス処理のための施設整備が行われてダイオキシン類の排出削減が進み、有害物質の制御という観点からも廃棄物焼却の役割はさらに大きくなったといえます。同時に、処理施設は迷惑施設と考えられたことから、施設の改善と周辺住民の理解も大きな課題となっていきました。

一方で、循環型社会づくりの機運も高まり、2001年施行の循環型社会形成推進基本法(以下、循環基本法)によって、資源の循環的利用と廃棄物処理についての優先順位(①発生抑制、②再使用、③再生利用、④熱回収、⑤適正処分)が法定化されました。加えて、容器包装リサイクル法(1997年施行)、家電リサイクル法(同2001年)などの整備によって個別製品のリサイクルも進みましたが、日本は他の先進国と比べて廃棄物焼却の割合が高く、リサイクル率が低いと批判されることがあります(国立環境研究所 社会対話・協働推進オフィス, 2017)。

2000年頃から、廃棄物焼却で発生する二酸化炭素について、地球温暖化防止の観点からも削減が求められるようになります。廃棄物焼却における熱利用や発電などのエネルギー回収は、循環基本法では単純焼却より高いものの再生利用よりは低い優先順位とされています。しかし、2001年11月には内閣府の循環型経済社会に関する専門調査会がサーマルリサイクルをマテリアルリサイクルと同等に位置付けたように、エネルギー回収を伴う廃棄物焼却がリサイクルの一つであるように認知されることが多くなってきました。こうして日本では、公衆衛生の確保、ダイオキシン類対策及び地球温暖化防止といった課題に対して適切に対応しつつ、廃棄物焼却の継続を維持してきました。一方、欧州では改正廃棄物枠組み指令(2008/98/EC)で「1. 予防、2. 再使用のための準備、3.リサイクル、4. 他の回収、(例:エネルギー回収)、5. 処分」という廃棄物政策の優先順位が示され、リサイクルにはエネルギー回収は含まれないことが明示されています。

循環型社会づくりにおける近年の課題と、公衆衛生の再認識

近年は、海洋プラスチック汚染に対する国際的な関心が高まってきました。これは、年間480~1270万トンのプラスチックごみが海へ流れ出しているとする推計や、2050年には海洋プラスチック量の方が魚類量よりも多くなるという推計などが2015年頃に相次いで発表されたためと考えられます。資源循環・廃棄物の多くの研究者にとっても、公衆衛生、処理施設整備、ダイオキシン類などの有害物質管理、温暖化防止などの様々な課題に応えてきたつもりが、新たな難題を突き付けられた形です。地球環境の有限性に対する配慮には、これまでも「成長の限界」(1972)や「プラネタリ―・バウンダリー」(2009)といったものがありましたが、海洋へのプラスチックごみ流出削減も新しくて大きな課題となっています。日本国内でも政府による「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」や「プラスチック資源循環戦略」が昨年(2019年)策定され、リデュース、リユース、リサイクルにバイオマスプラスチックの大幅な導入を含めた循環型社会づくりへの対策強化が求められています。

また、気候変動に伴う自然災害の激甚化・頻発化によって、災害廃棄物の処理や廃棄物処理施設の被害も大きな問題になっています。リサイクルにも配慮しながら災害廃棄物を迅速かつ適正に処理していくことは、まさに公衆衛生確保の視点であり、災害に強い施設を整備していくことは公衆衛生確保のための廃棄物処理機能を維持していくことにほかなりません。

新型コロナウイルスの感染拡大によって、ほぼすべての社会経済活動が甚大な影響を受けている現在、改めて循環型社会の目指すものについて考えてみました。はじめに環境省の呼びかけを紹介しましたが、感染症への対処を含む公衆衛生の確保と、廃棄物処理の機能維持の重要性は改めて見直されているといえるでしょう。そのような公衆衛生確保と廃棄物処理の機能維持を最低条件としながら、資源の循環的利用の促進、地球温暖化防止、海洋汚染防止、災害対応など、今後の循環型社会づくりに向けては、より多面的でバランスの取れた対応が求められているといえます。

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