循環・廃棄物の基礎講座
2017年2月号

拡大生産者責任(EPR)の導入と展開
~OECDの新たなガイダンスマニュアル~

田崎 智宏

拡大生産者責任(EPR)とは

リサイクルや廃棄物処理の責任を誰が担うべきでしょうか。また、リサイクルや処理をしやすい製品を世の中で主流とさせていくために(あるいは逆に、リサイクルや処理がしにくい製品を作らないようにするために)どのような制度設計をしたらよいでしょうか。これらの問いは、リサイクルや廃棄物の問題を考えるうえで非常に本質的な問いです。その答えを見つけるうえで重要な考え方に「拡大生産者責任(EPR: Extended Producer Responsibility)」というものがあります。90年代から先進国を中心に広まった考え方です。昨年(2016年)、国際機関である経済協力開発機構(OECD)が拡大生産者責任の考え方についての新たなマニュアルを公表したところですので、その内容もふまえつつ、EPRの考えやその国際的な動向を概観してみましょう。

じゅんEPRは、文字通り、生産者の責任を拡大するという考えです(以前の記事でも説明していますので、そちらも参照ください)。どのように拡大するのでしょうか。従来、生産者の製品に対する責任は、その製品が使用されている段階まででした(「製造物責任」と呼ばれるもので、皆さんが購入した製品が正常に使用できない場合、生産者は必要な対応をしなければなりません)。EPRでは、それを製品の廃棄・リサイクル段階まで拡大します。これにより、廃棄物の発生を抑制するような製品設計やリサイクルしやすい製品設計を促すとともに、生産者の能力を活かしてリサイクルや廃棄物処理を効果的に実施できるようになると考えられています。

EPRの対象となる廃棄物は全ての廃棄物ではなく、製品廃棄物に適用されます。工場等から排出される産業廃棄物にはEPRは適用されず、「排出者責任」という考えが適用されます。工場等からの産業廃棄物を減らすには工程や原材料を変更することが必要ですが、排出者である工場等はそれらの対策を講じることができます。したがって、排出者に廃棄物処理の責任を負わせておけば、生じてしまった廃棄物の処理を費用をかけて行うのか、そもそも廃棄物の発生を減らすのかの調整が図られるようになります。製品廃棄物の場合、排出者である消費者にも、また、我々の代わりに処理・リサイクルを行う自治体にも、製品設計を変えることはできず、生じてしまう製品廃棄物の処理を行うという後始末しかできません。製品の設計・製造を行う生産者を廃棄物問題に関与させることによってはじめて、廃棄物の少ない、リサイクルのしやすい製品を広めることと、生じてしまう製品廃棄物を処理・リサイクルすることの調整が図られるようになります。すなわち、EPRは生産から消費、廃棄までの全体最適化を図ろうとする考え方なのです。なお、EPRは自治体から生産者に責任を移転する考えであるとの理解がされていますが、廃自動車のように元々自治体が処理・リサイクルを行っていなかった品目も対象となっていることからも、多くの場合にあてはまるとはいえ、厳密には適当な認識ではありません。生産者が廃棄段階に関わるというところに本質があります。

EPRの導入の歴史と現状

EPRを導入した制度は、世界的にみて90年代から増えました。この背景として、廃棄物の処理を担う自治体にとって処理・リサイクルを行うことが難しい廃棄物が増えてきたことがあります。日本でも、容器包装や家電製品を端緒にEPRの考えを導入したリサイクル法を制定して、もとこ生産者による収集やリサイクルの義務あるいは費用負担を求めてきました。生産者をリサイクルや廃棄物処理に関わらせるEPR制度は、現在、世界中に約400存在しており、そのうち3/4程度は2001年以降に成立したものです。

これらのEPR制度が対象としているのは、電気電子製品、容器包装、自動車、タイヤなどです。欧米や日本、韓国といった先進国での導入がほとんどで、全体の9割を占めます。

EPR政策の留意点~OECDのガイダンスマニュアルの要点~

2001年に、OECDがEPRについてのガイダンスマニュアルを策定しました。各国政府がEPR制度を設計・導入するうえで参考となる情報をまとめたものです。日本も、独自の経験をもとにマニュアル策定に貢献しました。2016年の新しいマニュアルは、2001年以降の15年間の各国での導入・実施の経験をふまえ、新たな情報を追加するものです。ここでは両方の内容をまとめて簡潔に説明をします。

OECDのガイダンスマニュアルでは、EPR制度は次の事項を満たすことが望ましいとされています。

  1. (a) 対象品目に固有な特徴を組み込み、具体的な方法は事例ごとに選択すること。
  2. (b) 明確な目的を設定すること。
  3. (c) 責任は明確に定義され、希薄化されないようにすること。
  4. (d) 生産者が製品設計の変更・改善を行う動機づけを与えること
  5. (e) 制度実施において生産者に自由度をもたせて、イノベーションを促すこと。
  6. (f) 生産者責任の拡大は、製品に関わる主体(生産者、販売者、消費者、廃棄物・リサイクル業者、行政など)どうしのコミュニケーションを増やすように行われること。
  7. (g) 環境配慮設計へのインセンティブを最大化するために、生産者は自らが生産した製品の廃棄費用のフルコストを調達すること。廃棄に係る費用は、理想的には、当該製品の価格に内部化され、消費者により支払われること。
  8. (h) 反競争的な行為が行われないように制度設計されること。
  9. (i) 定期的な評価を行うこと。
  10. (j) 対象範囲の拡大を検討すること。

ここで特徴的なことは、EPRは目的指向で、いかに効果を得るかという視点で責任を割り当てるべきこと、責任内容として実施することをがちがちに決めてしまうのではなく、ある程度の枠のなかで生産者が検討・判断できるようにすることが述べられている点です。また、コミュニケーションを増やすようにというのも興味深い点です。生産者に「お前の責任だ」と言い切るだけではコミュニケーションが増えたとは言えません。EPRは生産者の責任に主眼を置きますが、EPR制度の効果を高めるには生産者以外の主体の協力や連携が必要との認識が2001年版で示されています。目的指向で、社会的によりよい状態を目指す建設的な議論を行うことが生産者を含む関係者全員に求められているのです。

新たなマニュアルでは、EPR制度のパフォーマンスを評価するための情報が得られるようにすること、環境配慮設計に関する取組を強化すること、対象範囲の拡大を検討することなども推奨しています。また、(g)のように生産者による費用徴収と消費者への価格転嫁や(h)の競争性の確保を明確に述べている点も興味深いです。さらに、費用対効果の高いEPR制度の強化を目指し、国内外にEPRに関する経験を共有することも求めています。日本がこの分野で世界を先導できるとよいですね。

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