循環・廃棄物の基礎講座
2013年7月号

小型家電と金属のリサイクル

寺園 淳

小型家電リサイクル法の始まり

今年の4月から、「使用済小型電子機器等の再資源化の促進に関する法律」、略して小型家電リサイクル法が施行されました。この法律は、使用済みの小型家電などについてリサイクルを促進して、適正な処理と資源の有効利用を図ることを目的として、昨年8月に国会で可決・成立したものです。

使用済みの小型家電は一般に、市町村の不燃ごみや粗大ごみなどとして収集されてきました。鉄やアルミニウムなどの一部を除いて、最終的には多くの金属が埋め立てられていて、リサイクルされずに「もったいない」ことがこの法律の背景にありました。そして、資源価格の高騰や供給国が偏在しており世界情勢によって供給不安のリスクがあるといったことと、最終処分場の逼迫や鉛、ヒ素などの有害物質の適正な管理が必要といったことから、その必要性が議論されてきました。

イラスト:もとこ

具体的な小型家電として、携帯電話、パソコン、デジタルカメラ、ビデオカメラ、電子レンジ、電気掃除機、炊飯器などの28品目が政令で指定されています。この中には、マッサージ器、ランニングマシンなど、とても「小型」とは言えないものも一部ありますが、家電リサイクル法の対象であるテレビ、エアコンなどと比較して、多くは小型または中型の電気電子機器が示されています。これらの中から市町村が各々の実情にあわせて回収品目を選定するので、市町村によって対象品目は異なることになります。

国は市町村支援に必要な資金確保と情報収集など、消費者には分別排出、市町村には分別収集と認定事業者への引渡し、認定事業者は市町村からの引取りの責務があります。小売業者は適正排出への協力の責務があり、市町村の回収に協力したりするだけでなく、認定事業者になって回収することなどもできます。また、使用済み小型家電の総重量に対して、国全体として20%という回収率が目標に掲げられています。

どのように流れが変わるか

ほとんどの場合は、市町村による回収が行われますから、消費者が市町村へ排出することは変わりません。ただし、回収の方法は自治体が決めることになっており、ボックス回収、ステーション回収、ピックアップ回収などが想定されています。指定した収集箱へ消費者が小型家電を投入するボックス回収や、家庭ごみの集積場所で収集するステーション回収では、新たな分別区分に対応して消費者が排出することになります。清掃工場などで市町村の職員が分別するピックアップ回収は、消費者には負担はありませんが、市町村の負担は増すと考えられます。

市町村が回収した後は、国が認定した事業者へ引き渡され、認定事業者で中間処理と金属回収が行われます。今年の6月28日には14の事業者が国に認定されて、全国の41都道府県が収集区域としてカバーされました。同じ6月28日に発表された自治体アンケートの調査結果では、1,305市区町村(人口カバー率約90%)が参加中または前向きな参加の意向を示しました。回収体制の準備ができた市町村から、この制度が順次開始されています。

市町村は原則として認定事業者に引き渡すことになりますが、法律では認定事業者以外に引き渡すこともできるとされています。しかし、その場合は認定事業者と同等以上に適切なリサイクルを実施できることが条件となっており、国内外での不適正処理につながらないように市町村が判断することが求められます。

小型家電リサイクル法の制度開始にあたっては、国内の制度整備とあわせて、海外への不適正輸出の防止を求める意見も多く出されました。掃除機や炊飯器など中型の家電は金属スクラップに混入して輸出されることが多く、有害物質管理、資源流出、火災防止などの観点で問題があることを指摘してきました(2011年1月号「不用品回収と金属スクラップ(雑品)輸出に関する3つの問題」)。この法律では、中古利用目的も含めた、国内取引の適正化と、海外への不適正輸出防止の対策も求められています。

他のリサイクル制度との違い

リサイクル関連の制度は多くて混乱しそうですが、小型家電リサイクル法は他の法律と何が違うでしょうか。

家電リサイクル法は家電4品目(テレビ、エアコン、冷蔵庫・冷凍庫、洗濯機・乾燥機)を対象として、製造業者には物理的なリサイクル義務と、消費者には費用負担を求めています。それに比べて、小型家電リサイクル法では家電4品目以外の広範な電気電子機器を対象品目としていて、自治体が参加や回収対象を決めることができます。これより、義務型の家電リサイクル法との対比で、任意参加、すなわち促進型の制度と言われることもあります。

また、製造業者には、設計の工夫によるリサイクル費用低減や再資源化された材料利用の責務はあるものの、リサイクル義務は物理的にも経済的にも課されていません。その意味では、拡大生産者責任が様々な製品に広がってきた流れとは異なることになります(2012年7月号「拡大生産者責任(EPR)とリサイクル」)。

さらに、既にパソコンについては、資源有効利用促進法に基づく自主回収とリサイクルの義務が製造業者にあり、携帯電話には製造業者と通信事業者による自主的なリサイクルの取組みとして「モバイル・リサイクル・ネットワーク」が実施されています。パソコンと携帯電話は、小型家電リサイクル法でも対象品目として挙げられていますので、消費者にとっては排出の選択肢が増える一方、混乱のないようにすることも必要と考えます。欧州や韓国では、電気電子機器のリサイクルは一つの法律で整備されているのとは対照的です。

リサイクルされる金属

認定事業者では、どのような金属が回収されるのでしょうか。例えば、携帯電話には鉄、銅などの主要なものの他に、貴金属である金、銀、プラチナ、レアメタルであるニッケル、クロム、タングステン、インジウム等が含まれています。実際には回収する目的の金属に応じてプロセスが組み合わされますが、例えば銅の乾式精錬プロセスを用いた場合、銅や貴金属は回収が期待されるものの、タングステンやインジウムなどはスラグに分配されて回収することができません(2009年6月号記事「都市鉱山とリサイクル」)。

小型家電リサイクル法の検討段階では、レアメタル回収の重要性は認識されたものの、レアメタルは回収技術が確立されておらず経済的にはリサイクルできない鉱種も多いとして、リサイクルの是非は将来的な課題であるとされました。

ですから、法律の中ではレアメタルは明示されませんでしたが、小型家電には様々なベースメタル、貴金属、レアメタルが含まれていることを考えれば、短期的な採算だけでなく、長期的な視野に立って考えることが必要です。前処理段階での選別と、技術開発の組合せによって、物理的にも経済的にも回収できる金属の種類を増やすことが期待されます。

今後の課題

小型家電リサイクル法の実施状況については、今後、国が情報提供していくことになっており、その行方が注目されます。この制度が軌道に乗るためには、市町村の負担が大きすぎないことと、消費者の協力が得られることが必要になります。難しい場合は、国や製造業者のさらなる関与が求められるかもしれません。

このとき、小型家電をリサイクルすることの効果として、小型家電に含まれる有害金属が最終処分場や市町村の処理施設に入る量を減らし、認定事業者における専用施設で適切に管理されることも考えるべきでしょう。資源性の高い金属の回収だけでなく、有害性物質の管理の程度をあわせて、制度の評価をすることが求められます。

最後に、排出段階からの消費者の協力が求められているので、わかりやすくて負担の少ない制度であることが必要となります。不用品回収業者の法的な位置づけを明確にすることも望ましいでしょう。消費者の理解と協力を得るために、排出方法の周知や実施状況の公開などとともに、制度を柔軟に見直しながらよいものにしていくことも重要だと考えます。

図  小型家電リサイクルの流れ 図 小型家電リサイクルの流れ
参考資料
  1. 環境省「小型家電リサイクル関連」
  2. 国立環境研究所環境展望台「レアメタルを含めた金属リサイクルと小型家電リサイクル法」
  3. 寺園ほか(2011) 有害物質管理と資源回収の観点からの金属スクラップ(雑品)の発生・輸出の実態解明, 廃棄物資源循環学会論文誌, 22(2) 127-140
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