近況
2016年4月号

先進的なごみ焼却施設の計画づくりに関わって

大迫 政浩

オンラインマガジン「環環」のご愛読、誠に有難うございます。私たちの研究所は、この4月から新しい5年間の中長期研究戦略(第4期中長期計画)のもとで、研究活動を再スタートしました。「環環」の読者の皆さんには、引き続き研究の成果や社会動向などの最新情報をお伝えしていきたいと思います。今後ともよろしくお願いします。

さて、今からご紹介するのは、一般ごみの焼却施設整備事業の計画づくりを、とても先進的かつユニークなやり方で行っている、ある自治体の話です。私は、計画づくりを議論する検討委員会に参画しました。ほぼ1年間の検討を終えて基本計画を策定し、今は責任を果たした安堵感と、非常に勉強になったことへの充実感を覚えているところです。以下では、今回の計画づくりのプロセスについて、私が先進的だと感じたいくつかの点をお話したいと思います。

1)誘致型の立地選定プロセス

ごみ焼却施設は、私たちの生活基盤を支える欠かせないものであることは、多くの人が理解しています。しかし、いざ近くに建てるとなると、依然として人びとから嫌がられる迷惑施設でもあります。どこに造るかを決める段階になると、強い反対運動にあって、結局は人が周りに住んでいない場所に追いやられるのが常なのです。

そのような中で、まだ稀な事例ではありますが、誘致型の立地選定プロセスの例がみられるようになりました。紹介している自治体でもそのような方式が採られ、自治体からの公募に対して複数の地区からの応募があり、その中の一つが選定されました。

もちろん、その地区にも迷惑施設との認識はあります。しかし、それを打ち消すほどのメリットのある事業にすることを前提に、その地区は手を挙げたわけです。通常は迷惑施設を受け入れる代わりの補償により合意形成が図られるケースが多いのですが、この事例ではごみ焼却施設が生み出す電力や熱の活用により、まだ提案段階ではありますが、野菜工場や温浴施設、道の駅等の集客施設など新たな産業振興を図り、荒廃が進む里地里山の地域再生を成し遂げようとしています。これは、ごみ焼却施設の整備をきっかけとして、地域が主体的に地域再生に取り組む生産的な試みと言えます。もし、この事業が成功すれば、先進モデルとして広く知れ渡り、誘致型の立地選定が一つの流れになってくるかもしれません。

2)地域の人々との協働での計画づくり

今回の検討は、施設整備の基本計画を取りまとめる検討委員会と、具体的な地域振興策の考え方を取りまとめる検討委員会が両輪となって、施設周辺の住民だけでなく、同じ自治体内の少し離れたところに居住する住民も委員となって、自治体内の地域住民が参画した形で検討が行われました。また、すべての検討の場を公開し、透明性が確保されたプロセスとなっています。

まず驚いたのは、建設候補地の周辺住民からの提案力です。特に地域振興策に関する検討委員会への提案は、専門家顔負けの状況分析と豊富な知識に基づき、ごみ焼却施設が生み出す熱や電気のエネルギーと、地域に存在する自然や景勝地、農業等の産業などの「地域資源」とを融合させた様々な地域振興策のアイディアにあふれていました。また、地元からの推薦や公募により選ばれた住民委員には、社会経験を通じた専門性を有している方も多く、そのような方々の意見等により議論が深まる効果もありました。さらに、検討委員会に参画していない一般市民からも、検討委員会に多くの意見が寄せられました。その中には、専門家が見ても有意義な技術的情報も多く、検討委員会では緊張感をもってそれらの意見を吟味し、議論に反映させていきました。

このように、検討委員会の一部の有識者のみが関わるのではなく、透明性を確保しつつ地域全体で一体感をもって検討を進めていきました。地域にはより良い計画づくりに役立つ能力や知識を持った方が沢山いることを強く感じました。このような市民参加によるオープンなプロセスにより検討していけば、事業推進に直接的にかかわる周辺住民だけでなく、地域全体の理解と信頼醸成のもとで事業を進めていけるように思います。さらに、検討の過程で関わった人びとがその後の強力なサポーターになって、事業推進を応援し続けてくれるように思いました。

3)地域振興策と協調した計画づくり

これまでのごみ焼却施設の整備では、ごみを安全かつ安定的に処理することが重視されてきました。しかし、地球温暖化問題への対応から、ごみをエネルギー資源(バイオマス等)として活用しようとの機運が高まっています。今回の地域振興策の検討においても、焼却処理した際に生じる熱エネルギーを有効に活用する方策が検討されています。また、現在の施設建設予定地は自然豊かな景観を残した里地里山ですが、耕作放棄地も多く存在し農業も衰退しつつあることから、農業や観光等の産業振興にも役立つ事業が構想されています。つまり、自然と共生しながら地域の農業などの産業を再生していくことが求められているのです。このように、地域振興策と協調した施設整備事業の計画づくりには、「循環型社会」の構築だけでなく、「低炭素社会」や「自然共生社会」の観点を合わせて考えていくことが必要になっています。

なお、新しい施設には「防災拠点」としての機能も備えることになっています。東日本大震災のような大規模災害や、毎年のようにおこる小中規模の自然災害に備えて、ごみ焼却施設の新たな役割として期待されています。災害時に系統電力がストップしても補助的な燃料で施設を自立して再稼働させ、災害廃棄物を含むごみの焼却処理を継続させます。そうすることで、電力や熱エネルギーを周辺地域に供給しながら、地域振興のために整備した温浴施設等に避難住民を受け入れ、復興に向けた拠点とすることが検討されています。この点も先進的であり、この事業計画の特長の一つです。


「環環」の新たなスタートを切るにあたり、私が最近関わった、ある自治体のごみ焼却施設の計画づくりに関する先進的な取り組みを紹介しました。いろいろな地域で、これまでの既成概念を越えた様々なチャレンジが少しずつ始まってきているようにも思います。これからも、研究成果だけでなく社会で起こっている様々な動きを、私たち研究者の視点からお伝えできればと思っています。

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