循環・廃棄物のけんきゅう
2023年2月号

プラスチックの輸出入規制とリサイクル

吉田 綾

2017年まで、世界中の廃プラスチックの半分以上は中国が受け入れていました。しかし、2017年末、中国政府は、環境および人の健康保全のため、廃プラスチックを含む廃棄物原料の輸入禁止を発表しました。その結果、2018年からは、中国に代わり、世界中の廃プラスチックが東南アジアや台湾へ集中し、日本などの輸出国への国際的な批判も高まりました。2021年1月からは、改正バーゼル条約附属書が発効され、廃プラスチックの輸出入はより厳しくなりました。本稿では、中国の輸入禁止とバーゼル条約附属書改正後のプラスチックのリサイクルの状況について解説したいと思います。

リサイクル施設の海外移転

私が2019年2月に行った調査によると、中国政府が輸入禁止を発表するかなり前(2015年頃)から、中国の廃プラスチックリサイクル企業は、将来輸入禁止になることを知っていました。中国のプラスチックリサイクルの業界団体では、2016年に参加企業を募り、海外でビジネスを展開するため、東南アジアや廃棄物の発生元である先進国を視察しています。東南アジアは、日本や欧米諸国と比べて、廃棄物処理・リサイクルの許認可の取得が容易で、中国―ASEAN自由貿易協定(FTA)により関税がゼロ、中国への輸送コストも高くないという、優位性がありました。そのため、一部の中国企業は工場を東南アジアに移し、欧米や日本から東南アジアへ輸入した廃プラスチックを再生ペレットに加工し、中国へ再輸出することを考えました。中国の輸入禁止以来、マレーシア・タイへの廃プラスチックの輸出増加は、法規制が比較的整っているこの2か国に工場移転が進んだことが関係しています。しかし、廃プラスチックの輸入が急増した結果、密輸や異物の多い廃プラスチックの輸入などの不適正な輸入や不適正処理が相次ぎ、2018年後半から一部の東南アジアの国で輸入規制が強化されました。

台湾の輸入規制強化の背景

台湾のプラスチックリサイクル業者は、中国の輸入規制を歓迎しました。なぜなら、これまで台湾企業は、海外の良質な廃プラスチックを買い付けようとしても、中国に高値で買われてしまうため、買うことができなかったからです。中国の輸入禁止後、台湾の廃プラスチック輸入量は約2.5倍に増えましたが、東南アジア諸国でみられたような事件は発生しませんでした。台湾では、1998年に台湾からカンボジアに水銀を含む廃棄物が輸出されるという重大な事件が発生した教訓から、厳しい輸出入検査体制を構築していたからです。しかし、東南アジア諸国が次々と廃プラスチックに対する環境規制を強化する中、なぜ台湾は輸入規制を強化しないのかという環境保護団体等からの圧力もあり、行政院環保署は2018年10月「産業用資材のための事業廃棄物」を改正公布し、これにより、廃プラスチックと古紙の輸入は、合法的に登記された工場にしか認められなくなりました(商社による輸入は不可)。また、廃プラスチックは、単一素材・単一形態に限定されることになりました。

輸入禁止後の中国

輸入禁止措置により、中国の輸入は廃プラスチックから再生ペレットに切り替わりました。貿易統計上、再生ペレットとバージンプラスチックは同じ品目コードであるため、再生プラスチックのみの輸入量は正確には分かりませんが、業界団体の推計では、中国の廃/再生プラスチック需要の約1割にあたる毎年約300万トンの再生ペレットが輸入されていると考えられています。中国が海外からの廃棄物原料の輸入を禁止したもう一つの理由に、中国国内の廃プラスチックの回収リサイクルを推進することがありました。しかし、2018年以降も、中国国内の回収リサイクル量は横ばい状態が続いています。不足するプラスチック需要を補うため、バージンプラスチックの生産量は増えており、2018年には8558万トン(前年比11.9%増)、その後も年5%以上増加を続け、2021年には1億1039万トンに達しています。輸入禁止により、環境負荷はむしろ増大したという研究報告(Ren, et al., 2020; Sun & Tabata, 2021)もあります。

バーゼル条約附属書改正とその影響

海洋プラスチックごみ問題を背景として、廃棄物の輸出入を規制するバーゼル条約の締約国会議(COP14、2019年4~5月)において、プラスチック廃棄物を新たに条約の規制対象に加えることが合意されました。しかし、どのようなプラスチックが規制対象物(改正附属書Ⅱの「特別の考慮が必要な廃プラスチック(Y48)」)に該当するかは各国の判断によるところとなるため、日本においても、2020年6~7月にプラスチック輸出に係る判断基準に関する検討会が設置されました。私も議論に参加しましたが、条約上の文言の解釈や税関における水際対策の実効性の確保(外見で判断できること)に主眼が置かれているため、基本的に単一の樹脂から構成されるペレット状のプラスチックや、無色透明または単一色のフレーク状またはフラフ状のプラスチックでなければ「規制対象外」にならない、つまりそれ以外を「規制対象」とする厳しい判断基準になりました(ただし、製造工程等で排出されたプラスチックやインゴット状の発泡ポリスチレン、ペットボトル由来のプラスチックフレークに含まれるわずかなラベル(ポリスチレン(PS))の混入などの例外事例があります)。

改正附属書発効後、日本からのプラスチックくずの月別輸出量は、2021年1-2月、一時的に輸出量が減少しましたが、その後すぐに回復しています。原油高もあり、アジア圏で廃プラスチックの需要は高まっていると言えます。「規制対象」の廃プラスチックも、事前に相手国に通告して同意があれば輸出は可能であるため、2021年には台湾・インド・マレーシア・フィリピンへの「特別の考慮が必要な廃プラスチック(Y48)」の輸出通告も行われています。

2017年143万トンあった日本からの廃プラスチック(貿易統計上の品目コード:3915)輸出は、2018年101万トンに減少しました。2019年90万トン、2020年82万トン、2021年62万トン、2022年56万トンと年々減少していますが、改正附属書の影響(2020年から2021年の変化)は、中国の輸入禁止の影響(2017年から2018年の変化)ほどではなかったと言えるでしょう。

日本からのプラスチックくずの輸出量 日本からのプラスチックくずの輸出量

中国の輸入禁止後、プラスチックのリサイクルは大きく変化しました。プラスチックごみによる環境汚染に耐えかねた中国が輸入を禁止し、規制の緩い東南アジアへ輸出先が変わったと捉えられがちです。しかし、中国の政策転換は、特定の環境汚染事故等によるものではなく、環境保全という政治的目的を達成するために計画的に実施されたものと考えられます。また、東南アジアはかつての中国と同様、経済発展のため廃プラスチックを資源として必要としています。日本では、国内循環に転換する好機とも捉えられていますが、本来は国内か国外かを問わず、環境負荷やコストを低減することに本質があることを見失ってはいけないのではないでしょうか。

<もっと専門的に知りたい人は>
  • 小島道一, 佐々木創, 吉田綾, 中国輸入禁止後の国際資源循環-課題と展望-. 環境経済・政策研究 2021, 14 (1), 1-12. https://doi.org/10.14927/reeps.14.1_1
  • Ren Y., Shi L., Bardow A., Geyer R., Suh S. (2020) Life-cycle environmental implications of China’s ban on post-consumer plastics import, Resources, Conservation and Recycling 156 https://doi.org/10.1016/j.resconrec.2020.104699
  • Sun N. & Tabata T. (2021) Environmental impact assessment of China’s waste import ban policies: An empirical analysis of waste plastics importation from Japan, Journal of Cleaner Production, 329 https://doi.org/10.1016/j.jclepro.2021.129606
  • 吉田綾,中国の廃プラスチック輸入規制と国内のリサイクルへの影響,環境経済・政策研究, 2019, 12(2),50‒53. https://doi.org/10.14927/reeps.12.2_50
  • Yoshida, A. China’s ban of imported recyclable waste and its impact on the waste plastic recycling industry in China and Taiwan. J Mater Cycles Waste Manag 24, 73–82 (2022). https://doi.org/10.1007/s10163-021-01297-2
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