循環・廃棄物のけんきゅう
2022年7月号

バクテリアが鉱物をつくる?バイオミネラリゼーション!

北村 洋樹

バイオミネラリゼーションとは?

「バイオミネラリゼーション」という言葉は、あまり聞き慣れない方が多いのではないでしょうか?これは、生物がミネラル、すなわち鉱物を作り出す反応のことです。バイオミネラリゼーションによって作り出された鉱物はバイオミネラル(生体鉱物)と呼ばれています。ところで、実はバイオミネラリゼーションという言葉は日本生まれの和製英語で、今では英語でも「biomineralization」として世界的に使用されている専門用語となっています[1]。このように説明されても、まだ難しい言葉に聞こえてしまうかもしれませんが、私たちの身近には多くのバイオミネラルが存在しています。例えば私たち人間の骨や歯は、主にリン酸カルシウムの一種であるハイドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)というバイオミネラルから作られています。その他、多くの動物や植物がバイオミネラリゼーションを行っています。動物の場合、貝殻、カタツムリの殻、卵の殻、ウニのトゲなどは炭酸カルシウム(CaCO3)というバイオミネラルから作られており、硬い殻を形成しています。植物の場合、藻類である珪藻(ケイソウ)が水中に溶けているシリカを吸収して骨格となる殻を形成します。この殻は非晶質シリカ(SiO2・nH2O)というバイオミネラルから作られています。ちなみに、珪藻が死んでしまうと水底に沈殿して徐々に分解され、最終的には非晶質シリカで作られた殻が積み重なって化石となります。その化石は珪藻土と呼ばれ、お風呂場で使用する吸水効果が高い珪藻土バスマットなどの製品が登場しています。バイオミネラルの存在を身近に感じてもらえたかと思いますが、自然環境中には60種類を超えるバイオミネラルが存在すると言われています。

バクテリアによるバイオミネラリゼーション

尿素を加水分解する酵素(ウレアーゼ)を持つバクテリアによって引き起こされるバイオミネラリゼーションを利用して、有害金属を水に溶けにくくする(不溶化)研究が注目されています。図1はバイオミネラリゼーションによる有害金属の不溶化の仕組みを示しています。はじめに、バクテリアの働きによって尿素が加水分解され、アンモニウムイオン(NH4+)と炭酸イオン(CO32-)が発生します。続いて、発生した炭酸イオンと環境中に存在しているカルシウムイオン(Ca2+)とが反応し、炭酸カルシウム(CaCO3)が作られます。有害金属は炭酸カルシウムの表面へ吸着するか、結晶構造の内部へ取り込まれることで不溶化されます。あるいは、有害金属が炭酸イオンと直接反応し、水に溶けにくい炭酸塩となることで不溶化されます。自然環境中には数多くの尿素を加水分解するバクテリアが生息しており、バイオミネラリゼーションにより炭酸カルシウムが作り出される現象はよく起こっていることが明らかになっています[2]。近年は、尿素を加水分解するバクテリアの働きを利用して有害金属に汚染された土壌や水を浄化するバイオレメディエーションという技術に活かされています[3]

図1 尿素を加水分解するバクテリアのバイオミネラリゼーションによる有害金属の不溶化の仕組み 図1 尿素を加水分解するバクテリアのバイオミネラリゼーションによる有害金属の不溶化の仕組み

バイオミネラリゼーションは廃棄物埋立地内で有害金属の不溶化に貢献

図2 廃棄物埋立地から分離したバクテリアの様子 図2 廃棄物埋立地から分離したバクテリアの様子

私たちは廃棄物埋立地を対象として、尿素を加水分解するバクテリアの生息状況やバイオミネラリゼーションによる有害金属の不溶化について調査を行っています。埋立地から掘り起こした廃棄物試料を対象に生息するバクテリアを調べたところ、埋立地には尿素を加水分解するバクテリアが広く生息している可能性があることが分かりました。また、埋立地から分離した尿素を加水分解するバクテリア(図2)の中でも尿素の分解速度が速いバクテリアを選んで培養し、実験室内でバイオミネラリゼーションによる有害金属の不溶化調査を行いました。有害金属として鉛、クロム、カドミウムを使用した結果、鉛は95 %以上が不溶化されましたが、クロムやカドミウムは10 %程度しか不溶化されませんでした(図3)。不溶化できる量に違いがあるのは、バクテリアに対する有害金属の有毒性や、炭酸カルシウムの有害金属に対する不溶化のしやすさが異なっているためと考えられます。

図3 バクテリアのバイオミネラリゼーションによる有害金属の不溶化結果 図3 バクテリアのバイオミネラリゼーションによる有害金属の不溶化結果

おわりに

埋立地には廃棄物に含まれる様々な有害物質が運び込まれており、残念ながら環境中に移動してしまう危険性が無いとは言えません。今回の調査では、金属の種類によって不溶化できる量に違いはありましたが、埋立地に生息しているバクテリアのバイオミネラリゼーションによって有害金属の溶けやすさや移動のしやすさが低下する可能性が示されました。私たちは継続して調査を行い、実際の埋立地におけるバクテリアの最適な育成条件やバイオミネラリゼーションが起こりやすくなる条件を明らかにすることで、埋立地の長期的な安全性を確保するための研究に取り組んでいます。

<参考文献>
  1. [1] 渡部哲光(1997)、「バイオミネラリゼーション 生物が鉱物を作ることの不思議」、東海大学出版会
  2. [2] Boquet, E., Boronat, A., & Ramos-Cormenzana, A. (1973). Production of calcite (calcium carbonate) crystals by soil bacteria is a general phenomenon. Nature, 246(5434), 527–529.
  3. [3] Kim Y., Kwon S., Roh Y. (2021). Effect of Divalent Cations (Cu, Zn, Pb, Cd, and Sr) on Microbially Induced Calcium Carbonate Precipitation and Mineralogical Properties. Front. Microbiol., 12, 12 pages.
<もっと専門的に知りたい人は>
  1. [1] 北村洋樹, 石垣智基, 山田正人 (2019) 最終処分場における生物学的鉱物化に関与する尿素加水分解細菌の評価, 第30回廃棄物資源循環学会研究発表会, 451-452.
  2. [2] 北村洋樹, 石垣智基, 山田正人 (2021) 最終処分場から分離した尿素加水分解細菌が生成する炭酸カルシウムが有害金属不溶化に与える影響の評価, 第42回全国都市清掃研究・事例発表会, 263-265.
  3. [3] 北村洋樹, 石垣智基, 石森洋行, 山田正人 (2021) 最終処分場から分離した尿素加水分解細菌によるカドミウムの不溶化, 第32回廃棄物資源循環学会研究発表会, 371-372.
<関連する調査・研究>
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