なぜ日本のごみのリサイクル率はヨーロッパに比べて低いのか?
日本とヨーロッパのリサイクル率
多くの家庭は、段ボール、新聞紙、ペットボトル、空き缶などのリサイクルできるごみを分別し、地域で決められた日に、決められた方法(段ボールや新聞紙は紐で縛る、ペットボトルはキャップとラベルを取り除く、など)で排出することに協力しています。もし異物が混ざっていると、ごみを収集してもらえない場合もあります。ごみの分別ルールがこれほどまでに徹底されている国は、世界中を見渡しても日本ぐらいです。だから、日本におけるごみのリサイクル率は世界でもトップクラスではないかと思っている人もいるでしょう。しかし、環境省が取りまとめた平成30年度(2018年度)のごみのリサイクル率は19.9%1)で、EU加盟国(2018年時点)のリサイクル率2)と比べると、実はかなり低い方なのです(図1)。ドイツ、スロベニア、オーストリア、オランダ、ベルギー、リトアニア、ルクセンブルクではリサイクル率が50%を超えています。一方、日本よりもリサイクル率が低いのは、ギリシャ、キプロス、ルーマニア、マルタの4カ国です。あれほど頑張ってごみを分別しているのに、なぜ日本のリサイクル率はこれほど低いのか、ちょっと釈然としないかも知れません。ここでは、日本とEU加盟国におけるリサイクル率の計算方法の違いを解説した上で、ごみ処理方法の違いを考察し、日本の低いリサイクル率について原因究明を試みます。なお、ここでの「ごみ」とは、し尿・浄化槽汚泥を除く一般廃棄物を指し、「リサイクル率」とはごみのリサイクル率を指します。また、EU加盟国での「Municipal waste」は日本の「ごみ」と同義として扱います。
リサイクル率の計算方法の違い
日本では、「直接資源化量」と「中間処理後リサイクル量」と「集団回収量」の合計をごみ排出量で除したものをリサイクル率と呼んでいます(国環研ニュース35巻4号「ごみのリサイクル率」)。ここでのリサイクルとは、ごみを原料として再利用する「マテリアルリサイクル」を指し、燃料として再利用する「サーマルリサイクル」は含まれません。本章では、直接資源化量、中間処理後リサイクル量、集団回収量のうち、最も量が多い中間処理後リサイクル量に着目して解説します。中間処理としては、焼却処理、粗大ごみ処理、堆肥化、メタン化などが挙げられます。図2に中間処理におけるモノの流れを示す通り、中間処理の過程で発生するガスや残渣(異物)を除いた、中間処理後に資源化されるモノの量をリサイクル量と定義されています。例えば、ごみ(通常は「可燃ごみ」「燃やすごみ」「燃えるごみ」と呼ばれているごみ)を焼却処理する場合、ごみの燃焼に伴って二酸化炭素や水蒸気などのガスが排出されます。焼却処理後に発生する焼却灰は埋立処分されるのが一般的ですが、セメント原料などとして資源化されることもあり、その場合は焼却灰の量をリサイクル量とします。また、ごみ(通常は分別収集された生ごみなどの有機性ごみ)を堆肥化3)する場合、微生物によるごみの発酵に伴って二酸化炭素や水蒸気などのガスが発生します。ごみには堆肥化に適さないプラスチック類や金属類などの異物が混入していることもあり、それを取り除く必要があります(残渣として処分されます)。農地で利用されるために製造(出荷)された堆肥の量がリサイクル量として計上されます。
EU加盟国では、ごみの処理処分はR1~R13(RはRecoveryの略)とD1~D15(DはDisposalの略)に区分されているのですが(図3)、R2~R13に該当する中間処理が行われるごみの量をリサイクル量として計算します。ここで注目すべきは、中間処理後に資源化されるモノの量ではなく、中間処理前のごみの量をリサイクル量とする点です。EU加盟国では、どのようなごみであってもR2~R13に該当する中間処理が行われるのであれば、どんなに歩留まりが悪くても(残渣が多くても)、中間処理前のごみの全量がリサイクル量としてリサイクル率が計算されるのです。したがって、焼却処理(R1およびD10、図3)後に発生する焼却灰がリサイクルされていても、焼却処理はR2~R13に該当しませんので、焼却灰のリサイクル量はリサイクル率に寄与しません。
以上、日本とEU加盟国ではリサイクル率の計算方法が異なることを述べました。そこで、日本におけるリサイクル率をEU加盟国における計算方法に合わせて計算してみたところ、19.9%から22.7%に上昇しました。確かに2.8ポイント上昇しましたが、日本のリサイクル率は低いままで、図1に示した日本のリサイクル率の順位は全く変動しません。なぜ日本のリサイクル率は低いままなのか、次章では日本とEU加盟国とのごみ処理方法の違いを考察することによって原因究明を試みます。
ごみ処理方法の違い
図4は日本とEU加盟国の焼却処理(R1およびD10)率と埋立処分(D1~D7およびD12)率4)の合計が多い順に上から並べたものです。なお、EU加盟国における焼却処理率と埋立処分率の計算方法(リサイクル率と同様の計算方法)に合わせて、日本の焼却処理率と埋立処分率を計算しています。図4からわかるように、北ヨーロッパでは焼却処理率は比較的高いものの、日本の焼却処理率はEU加盟国に比べて圧倒的な高さです。日本では以前から埋立処分場の逼迫が深刻な課題であり、埋立処分量を減らすことを優先してきました。そして、埋立処分量を減らす主な手段として焼却処理が普及しました。焼却処理がごみ処理の主流となった日本では、ヨーロッパ諸国と比べても埋立処分率が低いことがわかります。
一方、ヨーロッパでは1990年代までは埋立処分が主流でした。1999年にEU埋立指令が制定され、EU加盟国は有機性ごみの埋立処分を大幅に削減することが求められ、以後、埋立処分からの脱却を目指すことになります。東ヨーロッパや南ヨーロッパではまだ埋立処分率が50%を超える国が多いのですが、多くの国で中間処理を導入することによって1990年代と比較すると埋立処分率が大幅に低下しました。国や地域によって異なりますが、現在では「有機性ごみ」「容器包装」「古紙」「ガラス」「残渣ごみ」というのが一般的な分別収集項目で、大規模の自治体でも有機性ごみ(Bio waste、Organic waste)を分別収集して堆肥化やメタン化が進められています。ただし、(実際にヨーロッパの堆肥化施設を視察した際の個人的な感想ですが)有機性ごみの分別精度は決して高いとは言えず、有機性ごみとして分別収集されたごみにはプラスチック類などの異物が散見されます。堆肥が農地で利用されるためには、そのような異物を取り除かなくてはなりませんが、細かなプラスチック片は取り除くことができず、堆肥の品質の低下を招いています。残渣ごみは、大規模の自治体では焼却処理される傾向がありますが、中小規模の自治体では機械選別や生物分解を組み合わせた処理(Mechanical Biological Treatment: MBT)が行われる傾向があります(MBTはリサイクルに区分されます)。MBTによって残渣ごみは、可燃性ごみ、鉄、非鉄、埋立ごみなどに選別されたり、残渣ごみ中に含まれている有機性ごみを用いてメタン化されたりします。
改めて図1と図4を見比べて欲しいのですが、EU加盟国におけるリサイクル率の計算方法に従うと、焼却処理率および埋立処分率の合計が少ないとリサイクル率が高まる仕組みです。北ヨーロッパでは埋立処分率が低く、日本と同程度なのですが、焼却処理率が日本ほど高くなく、その分、リサイクル率が高まります。マルタ、ギリシャ、ルーマニア、、キプロスでは日本のリサイクル率を下回りますが、これは埋立処分率が高いためです。
さいごに
まとめると、日本のリサイクル率がヨーロッパに比べて低い原因として、
- 日本では中間処理後に資源化されるモノの量、ヨーロッパ諸国ではR2~R13に該当する中間処理前のごみの量をリサイクル量としてリサイクル率を計算している
- 日本の焼却処理率がヨーロッパに比べて圧倒的に高い
ということが挙げられます。EU加盟国では残渣ごみのMBTがリサイクルに区分されることや、有機性ごみの分別収集・リサイクルが日本よりも普及していることもリサイクル率を高めている要因と言えます。
近年、EUではリサイクル率の計算方法を改める動き5)がありました。R2~R13に該当する中間処理であっても、異物を除去した上で製品原料として真に資源化されるモノの量をリサイクル量とする方法で、これは日本でこれまで計算されていた中間処理後リサイクル量とほぼ同義です。今後、EU加盟国はこの改められた方法でリサイクル率を計算しなければならないのですが、各国のリサイクル率がどのように変化するのか、非常に興味深いです。
日本では10年以上もリサイクル率が伸び悩んでいます。日本でリサイクル率をさらに高めようとするのであれば、ごみの30~40%を占めるとされる有機性ごみを焼却処理せずにリサイクルすることが必要となります。現在焼却処理されているごみが、本当に焼却処理すべきごみなのか、他に資源化の方法はないのか、というように焼却処理あるいはごみ処理のあり方を考え直す時期なのかも知れません。