循環・廃棄物のけんきゅう
2018年10月号

若者の環境配慮行動を促す環境教育とは?
~他者協働・社会参画行動に着目して~

森 朋子

人々の環境配慮行動に影響する要因

地球温暖化、希少生物の絶滅、プラスチックによる海の汚染、食べられるのに捨てられる食品・・・。私たちの社会を脅かすこうした環境問題を少しでも解決するために、あなたは普段どんなことに気をつけて生活していますか?この記事を読んでいるあなたなら、エアコンを適正な温度設定にする、過剰な包装は断る、食べ残しを出さないようにするなど、様々な行動を思いつくことでしょう。こうした環境にできるだけ負担をかけないように気をつける行動は「環境配慮行動」と呼ばれています。環境問題を解決するためには、できるだけ多くの人に環境配慮行動をはじめてもらうことが欠かせません。そのために行政は環境配慮行動をより多くの人に知ってもらえるように取り組んでいますし、学校やNPO団体等では皆さんの環境配慮行動をうながすために様々な環境教育プログラムを提供しています。これまでの研究を通して、私たちが日常生活の中で行う環境配慮行動には、いくつかの心理的な要因が影響することが分かっています。例えば、環境のために何か良いことをしたいという意識(目標意図)、その行動を自分が実行できるという感覚(実行可能性評価)、その行動を周囲の人が実践している、あるいは自分がそうすることを周囲が期待しているという認識(社会規範評価)、その行動に求められる負担と得られる効果のバランスに納得できるという感覚(費用便益評価)などです。こうした人々の心理的な要因を刺激することによって、環境配慮行動を促そうとする普及啓発や環境教育が多く実施されています。

他者と協働し、社会に参画する環境配慮行動の重要性

でも最近の環境問題はその原因や影響が広い範囲にわたっていますし、私たちのことだけでなく、私たちの子供や孫の世代のことまで考えなくてはなりません。このように空間的、時間的な広がりが大きく、簡単には解決できない問題に取り組む場合、私たちは個人でできる環境配慮行動をがんばるだけで本当によいのでしょうか?今の地球の状況を改善するには、これまでの枠組みの中でできることを行うだけでなく、従来のルールや仕組みを見直したり、新しいルールや仕組みを作ったりすることも重要になってきています。より良い社会に変えていくためには、一人ひとりができる環境配慮行動だけでなく、社会に参画し、他者とともに力を合わせて問題を解決しようとする環境配慮行動が欠かせません。

実は環境配慮行動の種類に関するこれまでの研究では、個人による環境配慮行動の他に、他者協働・社会参画の環境配慮行動が数多く挙げられています。以下に廃棄物資源循環分野での具体例を挙げてみました。

  • ごみ出しが困難な高齢者を支援するための新たな地域のシステムを関係者と協働して作る。
  • 災害時のごみの仮置場所や分別ルールについて話し合う場に参加する。
  • 再利用品や容器包装の少ない製品の市場での普及を目指して、企業に働きかけるための団体を創る。
  • 地域で意見が対立しているごみ焼却施設の立地場所について、関係者が話し合うための場に参加する。

これまでの環境教育では、個人が日常生活の中で行う環境配慮行動を促すことが主な目的でしたが、これからはこうした他者協働・社会参画の環境配慮行動を促すことも環境教育の重要な役割になってくることでしょう。

他者協働・社会参画の環境配慮行動を促進する環境教育とは?

では、先に挙げたような「他者と協働し、社会に参画する環境配慮行動」を促進するためには、どのような環境教育を行えばよいのでしょうか?実はこうした環境配慮行動に影響する心理的な要因については、まだあまり明らかにされていません。私たちの研究チームでは、日本の高校生・大学生を対象としたインターネットアンケート調査を行い、他社協働・社会参画の環境配慮行動に影響する要因を統計的に分析しました。その結果、以下のようなことが分かってきました。

1.他者協働・社会参画行動が重要であり、自分が関わることだという認識や、環境問題に対する強い興味関心が行動を促進する鍵に

個人が日常生活で行う環境配慮行動には「環境に何か良いことをしたい」という思いが関わっていると考えられていましたが、他者と協働し、社会に参画する環境配慮行動を対象とした今回の調査では、そうした思いが行動には直接結びつきませんでした。それよりも他者協働・社会参画行動が「重要だ」、「自分自身が関わることだ」という考えや、環境問題についてもっと知りたい、人と話したいという強い興味関心が、こうした行動に強い影響を及ぼしていました。つまり、環境問題への危機感や道徳的な規範を高めるような環境教育だけでなく、問題を解決するための行動を幅広く学び、環境問題に対する積極的な興味をかき立てる環境教育が重要であると考えられます。

2.「個人でできることをしていればいい」という考えはマイナスの影響

調査の結果、「個人でできることをしていればよい」という考えが強い人ほど、他者協働・社会参画の環境配慮行動に対して消極的であることが分かりました。つまり、個人による環境配慮行動をあまりに強調しすぎる環境教育は、かえって他者協働・社会参画の環境配慮行動を阻害してしまう可能性があるのです。

3.他者協働・社会参画行動を実際に経験することが重要

調査では、環境分野に限らず、学校や地域で人と協働し社会に参画する行動(例:ボランティア活動、まちづくり活動等)を経験したことがある人ほど、「人と上手く協働して物事を進めることができる」という意識が強く、他者協働・社会参画の環境配慮行動にも積極的であることが分かりました。つまり、教室内で先生の話を聞くだけの環境教育よりも、地域での実践的な環境活動に直接関われるような環境教育のほうが効果的だと考えられます。

今回紹介した他者協働・社会参画の環境配慮行動に関する研究は、まだまだ初期段階であり、今後更なる発展が必要とされています。また、こうした理論研究から分かってきたことを実際の環境教育の現場にどのように取り入れていくのか、その方法も考えなくてはなりません。今後は他者協働・社会参画の環境配慮行動の実践につながる学習機会をより多くの人に届けられるよう、私たち研究者自身も学校関係者や行政関係者など、様々な関係者と協働して取り組みたいと考えています。

<もっと専門的に知りたい人は>
  1. 森 朋子, 田崎智宏 (2018) 若者の集団での環境行動意図の形成に及ぼす身近な人の影響―再生可能エネルギーシステムの地域導入を対象に―. 土木学会論文集G(環境), 74 (6), 203-211
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